倫理

「をや?」
例によって朝寝坊した男が詰所の食堂に入って来たとき、そこにはいつもと違う空気が漂っていた。
食卓にはオルファが独り、ポツンと座っているきりである。

「何だ、みんな先に朝ごはん終わっちゃったのか。」
「―――あ、おはよう、パパ。」
それまで外の景色を眺めていた視線を移し、赤い少女は答えた。
「どうした、なんだか元気がないな。」
悠人はそのちっちゃな頭にそっと手を置いて言った。
「あはは、なんでもないよパパ。今からすぐ食事の準備するから待ってて。」
そう言ってオルファは立ち上がり、厨房へと消えて行った。

「はい、どうぞ。あんまり寝坊ばっかりしてちゃダメだよ。」
「ん...ああ、頂きます。」少し毒気を抜かれたように悠人は遅い朝食を摂り始めた。
オルファは向かいに座り、頬杖をついてぼんやりとそれを眺めている。
「やっぱ何か変だな。気分でも悪いのか?」
「...あのさ、パパ。」
「どうした?」
「オルファがいなくなっちゃったら、どうする?」
「―――どういう事だ?」
オルファの言っている事がすぐには理解出来ずに悠人は問い返した。
見つめ返す紅い瞳に涙が浮かび始める。
「オルファじゃ、ダメなんだって。これからはろりきゃらはきんしなんだって!!」
わっと机に突っ伏して、堰を切ったように泣き始めるオルファ。
しかし、悠人は全くうろたえる素振りも見せずに、言った。

「心配するな、オルファ。今度のは年齢制限のないやつだから。」
そんな事より敵スピに緑が多くなるケムセラウトで、突然消えるのだけはやめて欲しい、
痛切にそう思う悠人であった。