お洒落エスペリア

「オルファ。このお鍋、テーブルに運んでくれますか?」
「は~い♪…うわぁ、美味しそうだね、エスペリアお姉ちゃん!」
「ふふっ。今日のはかなり上手く出来ましたからね」

いつも通りエスペリアが朝食を作り、オルファが手伝っている。
何度も見ている日常。まったく普段と変わらぬ風景。食卓に着き、それを眺めている俺自身も同じだ。
体調を崩している訳でも無ければ、成長し凄まじい力を手に入れた、なんて事も無く。極々いつも通りの俺だった。
ただ、そんな中でも思考だけは別なのか。ふと、思った事があった。何とはなしに。
で、俺はそれを口にしてみた。

「オルファって、結構お洒落だよな」
「え?」
俺の台詞に驚いたのか、オルファは目を丸くしながら動きを止めた。
「ど、どうしたの、パパ。いきなり…?」

…ちょっとばかり、唐突過ぎたか。まあ、ふと思った事なんでしょうがないのだが。
「いやその給仕用の服、オルファにピッタリだな、って思ってさ。
それに、普段の服もみんなと違って凝ってるし。…でも、何か驚かせちゃったみたいだな。悪かった。」
俺は頭を下げた。するとすぐに、オルファはわたわたと慌てて両手を振って否定する。
「わ、わ!?あ、謝らないでよ、パパ~。確かに、びっくりはしたけど。
でも、オルファの事誉めてくれたんだよね?うん!すっごく嬉しいよぉ~♪」

そう言うとオルファは、にぱっと笑顔を浮かべた。裏も表も無い、ただ純粋な笑顔。
自分の何気ない一言でこんな笑顔を返されて、嬉しくならない訳がない。
ただ同時に少しこそばゆくて、照れ臭い。なので、
「…朝食の準備も整ったみたいだし。食べようか、オルファ」
「あ、うん!美味しいお料理は冷めない内に食べなくちゃだよね~」
ついつい話を逸らしてしまったりするのだった。やっぱ、この辺りがヘタレって言われる所以なんだろうなぁ……。
…まあ、いっか。気にしても仕方ない。
そんな事より、実際朝食はオルファの言う通りとても美味しそうだ。とっとと食べることにしよう。

「さ~て、んじゃ、いただき―――」

視線。
視線×3。
………………何だろう、これ。痛くはないが、居心地はとっても良くないですよ?
視線の主は、アセリアにウルカにエスペリア。…って、それオルファ意外の全員?訳分からん。
オルファも心境は同じ様で、キョロキョロと周りに目をやっている。

とりあえず、この状況は打開したい限りなのだが…どうしよう。打って出るべきか。
いや、しかし比が戦力の差は如何ともし難いし―――むむむむむ………。

くっ、こんな時光陰の奴だったら、
「…フッ、成る程ね。分かったぜ!
俺も今や時の人。皆の視線を一人占めって訳だ。まったく人気者は辛いぜ……。
カモン!俺の可愛い子猫ちゃん達!特にオルファたん、大・歓・迎!!」
とか言うのだろうが。
しかし、生憎俺はそこまでの境地には達していない。…いや、達したくもないけど。
……結局は、このままの状態を保つ他なし、なのだろうか。

しかし、その拮抗状態を破ったのは、意外な事に視線の主一号のアセリアだった。
「ユートは、服が違う方が良いのか?」
「は?」
一瞬、何の事か訳が分からず、間抜けな声を出してしまう。が、さっきのオルファとの会話を思い出す。
疑問瓦解。いろいろと理解した。

「…ああ、まあ。ほら、やっぱ見た目に変化があると新鮮で良いって言うか…。うーん、見てて…楽しいからさ」
「………ん。そうか。分かった」
アセリアは俺の言葉を聞くと、納得した様に頷いた。何故かウルカも頷いている。
で、さらに何故かエスペリアは席を立った。

「?おーい、一体どうしたん………」
声を掛ける。
が、エスペリアは俺の言葉が耳に入ってないかの様に、そそくさと足早に部屋の外へと出て行ってしまった。
何が何だか、よく分からない。けど、視線の脅威は無くなった。まぁ良しとしよう。

……いや、だが本当にこれで解決したのだろうか?
どうにも、そうは思えない。何故なら――さっきから悪寒が止まらないからだ。
ちなみに、これ戦闘中、危機に陥る直前に来る予感めいたものにそっくりです。
(余談だが、アセリアやウルカの手料理を出される前にもよく感じる。信頼性は高い。)
つまり。言い換えると、今俺は気を抜けば、いつ死んでもおかしくない状況にいるという事。
原因は分からない。が、引っ掛かるのは―――やはり、エスペリア。部屋を出ていったのが気に懸かる。
エスペリアが心配な気持ちもあるし……とりあえず、追いかけよう。
席を立つ。しかし、丁度のタイミングで、アセリアとウルカに呼び止められた。
「ユート、ユート」
「ユート殿」
「何だ、二人とも?俺、ちょっと用事がある――ぅええッ!?」
 
…おかしい!絶対におかしいっすよ、奥さん!だって、さっき目を離す前までは確かに二人とも普段着だったのに。
それが…それが何故!どうやって?一瞬で給仕服に変わってやがりますかッッ!?

はッ!!ま、まさか―――
「実は宇宙刑○ですか、君達」
「?ユート、意味が分からない」
「いや、すまん。つい。こういう事は突っ込んでもしょうがないって分かっちゃいるんだが」
「それよりどうでしょう、ユート殿。手前どもの格好を見て、何か思う所はありませんか?」

アセリアもウルカも、期待に満ちた眼差しでこちらを見ている。
……まあ、さすがにここまで来ると、いくら鈍い俺でも二人が何を期待しているのか位は見当がつくわけで。
仕方ない、言おう。二人のご期待に添える台詞を。

「その格好初めて見るな、アセリア。うん、可愛い可愛い。
ウルカも、すごく似合ってる。何て言うか、家庭的に見えて良いな」
…こんな感じだろうか?二人の様子を窺ってみると、実に満足そうな笑みを浮かべている。任務完了。
そして、そのままアセリアとウルカは、何だか服についての話し合いをし始めた。俺の事は放っておいて。
…いや、まあ別に良いけどさ。
それより、エスペリアを追うなら今の内だ。
二人のお陰、と言って良いのかどうかは微妙だが、おおよそ事態とその結果生じる事象が見えてきた。
向かうは、エスペリアの自室。おそらく其処に居るはず。
俺は今度こそ本当に席を立つと、食堂を後にした。


―――エスペリアの部屋前
コンコンコン コンコンコン コンコンコン コンコンコン コンコンコン
「おーい、エスペリア!居るのか?おーい!!」
何度ノックしても、呼び掛けても、部屋の主は姿を見せない。
中で何か音はしてるし、居る事には居るはずなのだが。
………………………。え~い、仕方ない!
「入るぞ、エスペリア」
ガチャリ
ドアを開け、中に入る。
はたして、エスペリアは―――居た。部屋の中央に座り込んでいる。
のみならず、瞳に炎を宿し一心不乱に縫ってますねぇ………。

サ イ ズ の で か い オ ル ファ の 普 段 着 を !!((((゚д゚;;))))ガクブル

…着る気ですか、エスペリアさん。
「や、止めてくれ、エスペリア!!それはさすがに引っ掛かるって、いろいろ!残酷描写とか年齢――」
「……ねんれい?」
ノックしても部屋に入っても何の反応も示さなかったエスペリアが、グルリ!と首を巡らしこちらを睨む。
禁句には反応するんですか……。高性能な耳ですね………。

「いや~……ね、年々零細企業にとっては厳しい経済状況になってるよね!ここ十年ほど」
「………………………」
無言のジト目。

くッ、駄目か!?
冷や汗が、俺の頬をつたう。が、暫くしてエスペリアは視線を裁縫中の服に戻すと、またチクチクと縫い始めた。

―――ふぅ~~~~~。ヤバかった、ヤバかった。
危く、エスペリア恐襲Ver.(オプション:闘気『龍』の型)を起動させてしまう所だった。
それは、まさに『地獄の針串刺しショーご招待券』を引き当てる事と同義。
しかも「もれなく当たる!ハイペリアへの旅行チケット(片道)!Wキャンペーン☆」だし。
……笑えねぇ。

そうして一息吐いていると、またエスペリアはこちらに目を向けてきた。一瞬、身構える。
けれど、目の焦点が戻った普段通りの顔だ。それに、俺がここにいる事を驚いている。
…どうやら、正気に戻ったらしい。さっきの失言も満更失敗だったわけでもない、という事か。
人生万事、塞翁が馬。

「ユートさま!?どうしてわたくしの部屋に――」
「何言ってるんだ。エスペリアの様子が少し変だったから、心配で来たんだよ」
…まぁ、嘘じゃない。
「し、心配など、結構です。わたくし、やる事がありますから」
「やる事ったって…そのオルファの普段着っぽい服を縫う事だろ?別にいいじゃないか、やんなくても。
エスペリアには、そのいつも着てる給仕服があるんだしさ」
「……わたくしだってこの服は好きで、気に入ってるからこそ着ています。
でも…さっき、ユートさまは違う服の方が良いって――」
エスペリアはそれだけ言うと、しゅんとした面持ちで項垂れ、口を閉ざしてしまった。

…まいったな。まさか、よく考えずに言った自分の一言を、ここまで大真面目に受け止められるとは思わなかった。
やっぱ、全部俺のせい…だよなぁ、どう考えても。
謝って、ちゃんと説明しないとな。それが、俺の責任だ。

「あのさ…さっきオルファやアセリアに言った事は、本当に軽い気持ちでさ。
全然、エスペリアが気にするような事じゃないんだ。それに、何より―――」
少し気恥ずかしさを感じて、言葉に詰まる。…でも続けた。
「服って結局はさ、外見を取り繕うための物じゃないか。けど、エスペリアは違う。
いつも俺の、いや皆の身の回りの世話を献身的にしてくれる。
それは中身があるって言うか…ん、上手い言葉が見つからないな。えーと…とにかく、さ。
俺は、その服は誰よりエスペリアが一番似合ってると思うし…一生懸命皆の為に働く姿も綺麗だ、って思ってる」
「ほ、本当にそう思って、下さっているんですか……?」
エスペリアが恐々といった様子で顔を上げ、こちらを見る。だから、
「ああ、もちろん。俺の考えてる事なんてエスペリアには全部お見通し、なんて思ってたんだけど。
ごめん。言わなきゃ伝わらない事もあるよな」
出来る限りの笑顔で応える。エスペリアが不安にならない様に。俺の言葉が信じられる様に。

「…ユートさま」
エスペリアの瞳が潤む。けれど、その顔に浮ぶのは優しい微笑み。
「信じてもらえた、って思って構わないのかな?」
ただ頷きだけで返す、エスペリア。徐々に、だが確実に縮まる、俺達二人の距離。
そして、自然に何を意識する事も無くそのまま―――

ぐうううううぅぅぅぅ~~~~~

―――そのまま、腹の虫が鳴りました。
「………………………………………………………………ユートさま」
「フッ。何もいわなくて良いよ、エスペリア。二人の間に余計な言葉は要らない―――」
「いえ。とりあえず、言いたい事やその他諸々ありますから。―――宜しいですよね?」
「……………はい。」

自分の事ながら、さすがに今回はフォロー不可、って言うか弁解しようが無い。
その他諸々の内容が非常に気になったりするけど、事ここに至っては最早考えてもあまり意味はあるまい。
うん。人生諦めが肝心だって、昔の人も言ってるしね。
覚悟完了!さあ、どこからでもかかって来るがいい!!……でも、なるべく痛くない方が良いかなぁ……。
俺は大人しく目を閉じた。

けれど、いつまで待っても衝撃や斬撃や刺突や連打が来る事は無かった。
ただ、額に「コツン」と何か当たっただけで。

「?あのー、エスペリア?」
「くすっ。朝食も摂らずに、わたくしの部屋にいらっしゃったなんて……。
もう、本当にしょうがない方ですね、ユートさまは」
そう言って微笑むエスペリアは、とても怒っている様には見えない。一体どういう事だろう?
普段だったら、『献身』でボコボコ殴られるか、ザクザク刺されていてもおかしくない筈なのだが。

「………怒ってないのか?」
エスペリアはチラリとこちらを一瞥すると、何も言わずに背を向ける。そして―――沈黙。
静寂が部屋に満ちる。

――続く沈黙。

ひょっとして、これは新手の精神攻撃なんじゃなかろうか?体罰からの政策転換とか。
……それはそれで、何か嫌だなぁ……。
そんな事を考えてると、漸くエスペリアが口を開いた。

「…正直言いまして、先刻のユートさまのお言葉は聞いていて恥ずかしかったです」
ズルッ
危く、ずっこけそうになる。
っていうか、わざわざそんな事言わなくても良いのに……。俺だって、言ってて恥ずかしかったんだし。
やはり、これは言葉による精神攻撃なのか?……………非道いや。

「でも」
クルリと身を翻して、上目遣いでこちらを見るエスペリア。笑顔を浮べながら、言う。
「それ以上にすごく…すごく嬉しかったです。だから―――」
エスペリアは自分の右手を軽く握り拳を形作ると、俺の額に「コツン」と当てた。
どうやら、さっき目を瞑っていた時の感触もこれだった様だ。
「――今日の所は、これで許してあげます」

言葉が―――出ない。
その理由は、驚いたとか、ホッとしたとか、そうした様々な思いで胸中がいっぱいだったから。
それもある。
けれど、何より一番の理由は――ただ単純に見惚れてしまったから。
俺より年下の女の子の様に、無邪気な笑みを浮べるエスペリアに。

そうして、ぼーっとつっ立ったままの俺の様子が可笑しかったのか、エスペリアはまた笑うのだった。
本当に楽しそうな笑顔で。

…再び、暫くの時が経って。急にエスペリアはハッとした顔になった。
「!そう言えば、忘れておりました。ユートさま、朝食がまだでしたね。…わたくしもですけど。
もたもたしていると、昼食の時間になってしまいます。急いで戻りましょう」
そんな事を言うが早いか、俺の手を取り部屋の外へと歩を進めるエスペリア。

実の所、俺はさっきから呆然としっぱなしだったので、何か気の利いた台詞でも言おうと考えていた。
が、エスペリアに手を握られただけで、考えてた事も全て霧散してしまった。
…我ながら情けない。ついでに不甲斐無いし、ヘタレだとも思う。……ちょっと、ヘコむ。
けれど。そんな事は今更だった。
何故なら、俺がこの世界に来てから今に至るまで、エスペリアの世話にならなかった事など皆無だったから。
いつだって、俺はどうしようもなく駄目な奴だったのだ。(分かってはいたが。)
それでも、エスペリアは嫌な顔一つせずに傍に居てくれた。いつも、ずっと。
俺は、そんなエスペリアの事を―――

「?何か仰いましたか、ユートさま?」
「…いいや、何も。ただ、ちょっと思った事があっただけだよ。
俺みたいないい加減な奴の世話を焼いて、エスペリアは大変なんじゃないか?って」
エスペリアは心底驚いた様に、目をパチパチと瞬かせた。そして、
「ふふっ、とんでもない。ユートさまのお世話をさせて頂ける事は、わたくしにとって何よりの喜びです。
他の誰にだって譲れない、わたくしの大切な役目ですよ」
そう言って、さっきと同じ無邪気な笑みを浮かべて、屈託無く笑うのだった。

…何と言うか、エスペリアのこの笑顔は破壊力があり過ぎる。(台詞も十二分に衝撃的だったが。)
如何なヘタレの俺でも、さすがにこれは我慢できなかった。
「エ、エスペリアッ!!」
ガバッ!
エスペリアを、ギュッと強く抱きしめる。
「きゃっ!ユ、ユートさま!?駄目です、こんな所で……!!」
困惑や狼狽が伝わってくるが、さすがにそこまで気を遣ってあげられる余裕も無い。
「駄目なもんか。場所なんて関係ない。俺は……俺は、エスペリアの事――」

最早、今の俺には、周りの景色など目に入らない。目に写るのは、エスペリアのみ。
他の物など見えずとも、エスペリアさえ見えればいい。そんな事すら思う。
………………………のだが、しかし。さっきから感じる何か得体の知れないモノ。これは一体?
これは……………………既視感?そして―――。

視線。
視線×3。
………………何だろう、これ。痛いうえに、居心地もとってもかなりすこぶる良くないですよ?
視線の主は、アセリアにウルカにオルファ。
半開きになっている食堂のドア、その隙間から顔を覗かせ、こちらをジーーーーーーッと見つめている。
っていうか、睨んでる?いや、それよりも、だ。
今現在エスペリアと抱き合ってる所を、ばっちりしっかり3人に目撃された。つまりは、そういう事ですか?
………………………………って、そりゃ大事じゃんッ!!
「うわわわわわッ!!」
俺が背を向けて飛び退くと同時に、エスペリアもまたその場を飛び退いた様だった。
……………ううむ、はっきり言って気まずい。どうしよう……?

「あ、あなた達、そこで何をやっているんです!?ちょ、朝食は済ませたのですか?」
おおッ!流石はエスペリア。見事な防御力と回復力&指揮官ぶり。お姉ちゃんの鑑(?)だ。
これなら、意外にすんなり流して誤魔化せるかも――。

「ん。もう済んでる」
「とっくだよ~、そんなの。
それよりオルファ、エスペリアお姉ちゃんとパパが何してたかの方が気になるんだけどなぁ、すっごく♪」

――駄目でした。結構、期待したんだけど…。現実は甘くない。

そして、ふと視線を移すと、ウルカと目が合った。すると、一言。
「………破廉恥な」
――うっわ、きっつ~。こりゃ、誤魔化すのはホント無理そうだ…。

「ううっ……ユートさま!ユートさまも、何か仰ってください!」
エスペリアがこちらを向き、俺に支援を要請する。けどぶっちゃけ、これはもう完全な負け戦だ。
ここで戦いを続けるのは、どう考えても得策ではあるまい。
「すまん、エスペリア。でも、ここは大人しく朝食を摂った方が賢明じゃないか?
その方が、ここで3人と言い合いするより、たぶん被害が少なくて済むと思うし」
エスペリアだけに伝わる様に、小声で言う。
「そ、それはそうかもしれませんが………」
「ねーねー。二人で何話してるの~?気になるってば~」
「いや、腹減ったからとっとと朝飯を食べたいな、って。な、エスペリア!」
「………………はい。そうですね。」
渋々頷くエスペリア。

まあ、エスペリアの思ってる事も分からないでもなかった。
確かにここで言い合いをするのは、不毛な事ではある。が、だからと言ってそれを避ければ当然―――。

ガバッ!
「きゃっ!ユ、ユートさま!?駄目です、こんな所で……!!」
「駄目じゃない。場所は関係ない。ん、エスペリア――」

―――案の定、遅い朝食を摂る事にした俺達は、オルファ達に散々からかわれる事となった。
ただ今テーブルの横では、オルファ、アセリアによるエンゲキ公演の真っ最中だ。
ちなみに配役は、エスペリア役=オルファ、俺役=アセリア。で、ウルカは観客。
だが、含みのある視線をこちらに度々向けてくるその様から、俺達に心理的重圧をかける係、と思われる。
そして、オルファがわりと演技が上手い事もあって、エスペリアはすぐに耳まで真っ赤になってしまっていた。
相当、気恥ずかしさを感じている様だ。…無理も無い。
対して、エスペリアには悪いのだが、俺の方はあまりそうでもなかった。
…いや、だってアセリアが大根役者過ぎ。つーか、似せる気が無いとしか思えんし……。

「…………あなた達、いい加減にしなさい!!」
とうとう我慢の限界に達したのか、エスペリアが吼える。『献身』も出る。
蜘蛛の子を散らす様に、逃げ出すオルファとアセリア。
が、エスペリアがやや落ち着いたと見ると、また戻ってきてエンゲキを再開するのであった。
(二人とも、度胸あるにも程がある……。)
で、また怒るエスペリア。以下エンドレス。
「……やれやれ。まったく……」
もう、苦笑するしかない。

尤も、その苦笑はオルファ達だけに向けたわけではなかったりするのだけど。
それはどちらかと言うと、自分に対するもの。
何せ、エスペリアの横顔を見ながら、俺はこう思ってしまったから。

―――照れて怒った顔も可愛くて良いなぁ、なんて。

もし、こんな事直接言ったらどうなるだろう。
憤慨するだろうか。それとも、顔を赤くして俯いてしまうだろうか。
反応を見るのが、楽しみなような怖いような。まあ、どっちにしても見てみたい。
近い内に言おう。俺の胸の内を、伝えるついでに。

結局、そんな事を考えながら賑やかな朝食の時間は過ぎていくのだった―――。