ニムントールの憂鬱

info:以下、Expの個別スキル設定だけ拝借したネタです。なので全員、記憶が飛んでません。


「大体ユートさまは勝手すぎますっ!」
「なんだよ、エスペリアだっておかしいだろ!?」

「…………ん?」
廊下を歩いていたニムントールは激しい声に足を止めた。
どうやら角の向こうから聞こえてくるようだ。
そっと覗いて見ると、ユートとエスペリアが言い争っている。珍しい。

「なんで御自分で『もっと動けるはずだ! 力を振り絞れぇぇっ!!』
 とか叫ばれた後、『サンキュッ!これでまだまだいけるぜ』なんて独り言を仰ってるんですかっ!」
「そういうエスペリアだって『少しでもみなさんの助けになるように……』とか自分にだけ
 ハーベストかけといて、『ありがとうございます』なんて誰にお礼言ってるんだよ!」
「そ、そんな……ですが部隊Ⅴに編成されたのはユートさまじゃ……わたくしだって辛いんですよっ!
 エンジェルプライヤで全回復しても敵の反撃でダメージを受けてターンは終わるし、
 そんな事より独りぼっちで敵の前に放り出されて、一体誰に『献身』すれと仰るんですかっ!」
「逆ギレかよっ!俺だって独り言なんて言いたくないさ!でも仕方ないだろ?
 防御系サポートは全部いらない時に限って自分を回復しちまうもんばかりなんだから!」

「………………」
馬鹿馬鹿しい。そんなのどっちでもいいじゃない。
そんな事で喧嘩してるなんて、二人とも子供じゃないんだから。
溜息をついていると、また別の声が聞こえてきた。

「まあまあ二人とも、あたしはそんなの気にした事ないけど?
 ボルトチャージ使えばそりゃ気持ちよくて思わず『まだまだ行けるっ!』なんて
 言っちゃうけどさ、なんてーの?ノリ突っ込み?そんな感じでいいじゃない、ねっ?」
「おいおい俺に振るなよ……まあなんだ、俺はエターナルじゃないからよく判らんけどいいんじゃないか?
 別に独り言なんて誰だってするもんだし、自分にプロテクションも悪くないかもな。
 『サポートはする、後は勝手にやれ、そこまで面倒みきれないぜ』とか言いながら」
「おっいい事言うね~。さっすがアタシの彼氏っ!よっ、おっとこ前っ!」
「ふっまあな。ヘタレエトランジェとは訳が違うからな」

「ですからわたくし達スピリットは人を守る盾としてですね!」
「だから、人とかスピリットとか、そんなの関係ないって言ってるだろ!」

「「お前ら人の話を聞けぃっ!!」」

「………………」
どうやらバカップル二人組の参戦は、火に油というか、何の対HP効果も無かったようだ。
おまけにいつの間にか論点がExpからずれてきてる気もするし。もう放っとこう。面倒くさい。
そう結論づけて立ち去ろうとしたニムントールの背中にまた別の声。

「あらあら~?どうしたんですかぁみなさん~」
「あっ、ちょっと聞いてよハリオン、実はさ~…………」
「ふんふん……わかりましたぁ~、つまりぃ、お二人は御一緒に戦いたいと~」
「なっ…………!!」
「わ、わたくしは…………別に…………」
キョーコがどんな説明をしたのか、ぽんっと手を叩いてにこにこと微笑むハリオン。
今まで喧嘩していたのが嘘のように、悠人とエスペリアは真っ赤になって俯いてしまう。
鮮やかな手並みにニムントールは不覚にも感心していた。
光陰がにやにやと顎に手をやりながら、止めを刺す。
「ほう、なるほど。まっ、それで一件落着だな。二人とも、仲良くするのが一番だぜ」
ぽん、とユートとエスペリアの肩を叩き、そしてそのまま寄り添うように二人を並べる。
「きゃっ……あ…………」
「お、おい光陰」
いきなりの事に頬を染めながらも大人しくなるエスペリア。一応反抗してみせる悠人も渋々それに従った。
「そうそう、そうやってるとお似合いよ~お二人さん♪」
「も、もう、からかわないで下さいまし、キョーコさま……でも宜しいのですか?それでは部隊Ⅴが……」
「そうだ、Ⅵも空いちまうな……片方は時深に任せるとして、今日子、頼めるか?」
「パ~スっ!やっぱり背中がしっかりしてくれてないと、暴れにくいからねっ!」
ぽすっと軽く光陰の胸を叩きながら見上げる今日子。おう、と光陰が苦笑しながらそれを受け止めていた。

半ば呆れ、それでも親友二人の睦まじげな仲を微笑ましく思いながら、悠人はう~んと腕を組んだ。
「はいはい勝手にしてくれ……でも困ったな、アセリアかウルカかオルファか…………」
「あの~、わたし、やりましょうかぁ~?」
「「ハリオン?!」」
のんびりした口調に、悠人とエスペリアの声が被る。
「いやあのな、名前の前にEがつかないと……」
思わず突っ込む光陰。その声を遮るようにハリオンが、
「一度ぉ~やってみたかったんですよぅ。独り言ってぇ、気持ちいいんでしょうねぇ~」
などと、頬に手を当ててうっとりと呟いていた。
「自分にハーベストやアースプライヤーををかけるなんてぇ、グリーンスピリットの特権ですからぁ~」
陰で聞いているニムントールに、ぐっさりと突き刺さる一言を残して。

「………………わざとね、絶対に」
悠人達の声が遠ざかる中。ニムントールはがっくりと膝をついていた。