私はスピリット…戦うことがさだめ
けど、もう戦う必要はない…
今まで、神剣に取り込まれるのを恐れていたけど…もう神剣を手にする必要はない。帝国は負けたのだから…
これからどうすればいいのか、今まで当たり前だった事をイキナリ止める様に言われても…困る
神剣に取り込まれたスピリット達は、まだ戦っている。実際に、今も近くで神剣を打ち合う音が聞こえてくる
…うるさいから、ウィングハイロウを広げて耳を塞いだ
左右色違いの白と黒のハイロウが視界の隅に見える…けど、この際無視
中途半端な私が、戦闘が始まってから終わるまで、延々と見張りをさせられる原因となったハイロウ…
灰色や斑模様のハイロウよりはまだいいけど…
「本当に…これからどうしよう…」
色々な事が頭の中で駆け巡って、考えがまとまらない。神剣は、こんな私でも取り込もうとしてくる
だけど…
「…黙ってなさい」
こんな時にでも…私は、神剣に抗おうとしている
私の精神力では神剣の干渉を押し返せない
だからいつも持久戦になる
さっきまで重かった腰を上げ、神剣を正眼に構える
目を閉じ、ハイロウを広げ、私の精神と神剣の精神の境界線を見つめて、自我を強く、強く、強く…
どれぐらい時間がたっただろう
神剣は根負けして大人しくなった
辺りに響いていた神剣を打ち合う音も聞こえない
かわりに、誰かがこっちに向かって警戒しているのを感じ取っていた…
今日も戦場で、白と黒のシンボルを持つ、幼い妖精達の輪舞が繰り広げられる…
人が持ち得ない力を駆使して空を翔け、人が持ち得ない力で癒し・破壊する…
そんな戦いが此処でも繰り広げられていた…
「え…え~っと、もうやめようよ~無駄に戦って、死んじゃったら…」
「雲散霧消の太刀…」
帝国が敗北して2日…残存する帝国のスピリットを少しでも多く救う為に必死に説得しようとしていたが、他の土地のスピリットとは違い、神剣に完全に飲み込まれたスピリット達はシアー達の説得は応じる事は無く、牙をむき続ける
そして、その放たれた牙はシアーに向かい迫り来る…と、そこに一人のスピリットが割り込んで来た
(ガキンッ!)
刀の神剣から放たれた一撃を槍の神剣で受けるスピリット
その瞳は、幼いながらも力強く、真っ直ぐに敵を捕らえていた
「シアー!神剣に飲み込まれた連中に何を言っても無駄って、何度言ったら分かるのよ!」
「で、でも…あ、ニム危ない!…アイスバニッシャー!」
建物の影から飛び出してきたスピリットの神剣魔法に気がついたシアーは、即座にアンチスキルを発動させる。だが…
「っく…力が…このっ!」
(キュィィィィィン…)
アンチスキルは効果が無く、ニムに直撃。魔法で力を削がれ均衡が崩れるが、ニムは力の方向を変えて敵の刃を滑らせ難なくその場から逃れ、神剣の擦れる音が辺りに響いた
「黒が二人…お姉ちゃんには遠く及ばないけど、組まれると厄介ね。シアー…やれる?」
「うん。…訓練通りにだよね?」
ニムは頷くと、曙光を構えた
戦場に言葉はいらない…呼吸やマナの動きを瞬時に読み取り瞬時に判断する。遅れればそれだけ死に近づき、早ければ敵の攻撃を防ぎきる事が容易となる
シアーはゆっくりと神剣を構えると、ハイロウを広げて後方へと全力で跳んで離脱する
と、同時に敵のスピリットはニムに急速接近、次々と攻撃を繰り出していく
一撃、二撃、三撃…ニムはひたすらに敵の攻撃を受け流しながら牽制を続ける
黒のスピリット達は戦場から離脱したシアーを追う事も無く、斬り続け、神剣魔法で力を削いでいく。が、全ての攻撃が受け流されていく
何回撃ち合っただろうか…スピリット達は連続攻撃の限界がきた為、距離を取り仕切りなおそうと呼吸を整え始めた
2対1…防御に徹する相手に余裕の笑みを浮かべながら、攻撃を再開しようとした、その時、サポート役のスピリットの近くの地面に影が落ちる
その瞬間、不意を突かれたスピリットはカン離れをしてしまい…
(チィィィン)
神剣が震える音だけを残して、胴体から真っ二つに切り裂かれた…
「…ごめんね。…でも、戦わなきゃいけないから…」
切り裂かれたスピリットから飛び散る血を背に受けながら、スピリットの冥福を祈るシアー
そこに、僅かに残っていたのだろう…仲間を思う気持ちだけで、なりふり構わず攻撃を繰り出そうと、黒のスピリットはシアーに突撃するが…
「アンタの相手は、私…それじゃ、バイバイ…」
(ザシュッ…!)
ニムは瞬時に背後を取り、彼女が放った居合いにも似た一撃がスピリットの首を斬り飛ばした
「…シアー」
黙祷をするシアーにニムは声をかける
「…ありがとう、ニム」
神剣に取り込まれたスピリットは、滅多に元に戻らない…せめて、苦痛を与える事が無い様に終わらせたいと思っていたシアーは、自らの身を削って守りに徹してくれたニムに感謝した
「…べっ、別にいいわよ。早くいきましょ!ま、まだ、救えるスピリットがいるかもしれないんだから!」
赤面して歩き出すニムの後ろについて行くシアー。今回は駄目だったが、少しでも多くのスピリットを救いたい…そう思う人達と自分達の為にニムとシアーは歩き出すのだった…
「ねえ…ニム?」
「…何よ?」
「最近のニムって…ファーレーンを意識してるよね?」
そっぽ向きながら歩くニムをからかう様に質問するシアー。さらに赤面するニムを見て、ちょっぴり笑う彼女に…
「…やっぱり、分かっちゃうかな?」
素直になってしまうニムだった…