永遠のア&セリア子供劇場

アセリアとセリアは幼馴染です。
二人は物心ついた頃、一緒にエルスサーオに転送されてきました。
以来、遊ぶのもご飯を食べるのも訓練を受けるのも寝るのもいつもいつも一緒。
同じ青スピリットだったこともあり、二人は絵に描いたような仲良しさん……とはいきませんでした。
生まれた時から何を考えているかよく判らないアセリアはともかく、
セリアは何をやっても敵わないアセリアを密かに敵対視していました。いけませんね。

今日はいよいよアセリアが旅立つ日。
セリアはいつに無くそわそわして戸口に立っています。
いつもの気丈な態度はどこへやら、両手を後ろに隠してもじもじしたりしてます。
出発の準備をしていたアセリアはそんな不審なセリアに気が付いて、声を掛けました。
「……ん、どうした、セリア」
「~~っ…………なんでもないっ」
ぷい、と横を向いてしまうセリア。どうにも素直になれません。いいかげん筋金入りのツンデレです。
「じゃ、行って来る」
「あ、ちょ、ちょっと……」
そうこうしている間に準備が整ったアセリアは、そそくさと部屋を出て行ってしまいました。
その淡白さにあっけに取られていたセリアは慌ててぱたぱたとその後を追いかけました。

お屋敷の前には、荷エクゥ車が止まっています。それに乗ってラキオスまで行くのです。
アセリアは、そこでエスペリアお姉ちゃんとお別れの挨拶をしていました。
「用意が整ったらわたくしもすぐ行きますから、それまで元気にしているのですよ、アセリア」
「ん、判った」
「本当は一緒に行く予定だったのですけど新しい案件が……あら、セリア?」
扉の影からこっそり覗いていたセリアでしたが、伸び始めたポニーテールが見つかってしまいました。
おずおずと出てくる姿が大人し過ぎて気持ち悪……もとい初々しくて微笑ましいです。
「ほらセリア、アセリアに挨拶は?」
促され、アセリアの前に出されるセリア。対するアセリアは相変わらず無言。
暫く会えないのに、可愛げの無い……っておお?よく見ると薄っすら涙を浮かべてるじゃありませんか。
落ち着かなげに蒼い髪を揺らし、どういう訳か太腿を摺り合わせてもじもじしてます。何となくいけませんね。

「……これ」
あ、何かセリアに渡しました。丸い輪っかのような黄色い……ああ、髪留めですね。
「……わたしに?」
「ん、セリアに持ってて欲しい。わたしだと思って」
「…………ん。大事にする」

……ヤバい。ヤバいです。見守るエスペリアお姉ちゃんにも見えます。二人の背後に広がる白薔薇の園が。
百戦錬磨の勘が何がしかの危険な匂いを察知したのでしょう、アセリアに出発を促します。
「……ほ、ほらアセリア、そろそろ」
「え……」
ぎゅっと大事そうに髪留めを胸元に抱えていたセリアでしたが、その声にはっと我に返りました。
「あ、あの、アセリア……」
しかし既にアセリアは荷エクゥ車の上。ひらりと舞ったウイングハイロゥから白い羽が零れ落ちます。
「セリア、元気で」
「アセリアっ!」
荷エクゥ車が、走り出しました。

「待ちなさい、セリア!」
エスペリアお姉ちゃんが止めようとしますが、間に合いません。
セリアは荷エクゥ車を追いかけて、駆け出していました。懸命に、ウイングハイロゥを開く事も忘れて。
「アセリア!アセリア!」
所詮子供の駆け足。追いつけない荷エクゥ車がどんどん小さくなっていきます。手を振るアセリアの姿が滲みます。
「わたしも、わたしも……あっ!」
ずべたっ。足が縺れて水溜りに顔から突っ込みます。それでもセリアは諦めません。
ぐしっと鼻を擦り、顔を上げ、立ち上がろうとします。しかし……
「あ……」
やっと膝を立てようとしてセリアが見たものは、既に米粒みたいに小さくなった荷エクゥ車でした。
呆然と、四つんばいになったままセリアはその光景を眺めていました。手に小さな箱を握り締めたまま。

「ふぇ……」
くしゃ、と泥だらけの顔が、歪みます。もう一つの手に持った髪留めが、少し汚れてしまいました。
悲しみと後悔が、同時に起こります。ぐしぐしと擦っても、涙は止まりそうにもありません。

「セリア、大丈夫か?」
その時、ふわりと細かい羽根が舞い降ります。同時に支えられる、小さな体。ぱしゃり、と水溜りの跳ねる音。
「~~~っアセリアぁ!」
瞬間、セリアは抱きついていました。縋りつくように。しがみ付くように。
思わず出した小さなウイングハイロゥが、仔犬のしっぽのようにぱたぱたと羽ばたいています。
一方抱き返すアセリアの背中に広がるウイングハイロゥも、ほんのり桜色に染まってました。
アセリアの、せっかく新調した白い戦闘服がたちまち泥だらけになっていきます。
それでもセリアは構いませんでした。もちろん、アセリアも構いませんでした。大変よく出来ました。

「アセリア、これ……」
落ち着いたセリアが恥ずかしそうに差し出した箱。それをアセリアは受け取ります。
小さな、小さな箱。その中には、銀色細工のペンダント。小さなセリアが一生懸命作った贈り物でした。
「…………ん。大事にする」
アセリアは、微笑みました。受け取った大切な宝物をそっと胸元に握り締めながら。


ごとごととアセリアを連れて行く荷エクゥ車を見送った後、エスペリアお姉ちゃんがセリアの肩を叩きます。
「ほらセリア、顔を拭きなさい」
差し出されたハンカチ。受け取ったセリアは少し迷って、それから髪留めを先に拭き始めました。
「あらあら」
照れて隠すように背中を向けるセリアを可笑しそうに見つめた後、空を見上げるエスペリアお姉ちゃん。
ふぅ、と一息入れて、そしてそのまま楽しそうにこう言いました。

――――ところでセリア、ラキオスに第二詰所を建設するという話があるのですけど…………

 そうして今、二人は。

アセリアはすっかり銀細工が趣味になっていて、セリアに貰ったペンダントの複製に凝っています。
その腕はかなりなもので、今ではどんな石の欠片にでも合うペンダントやブローチが作れるそうです。
本人曰く、「ん……これは『存在』の手入れと同じだから……大事なことだから」だそうです。
ふらりと外に出かける時は、大抵セリアの部屋にいます。
セリアはすっかり髪の手入れに凝っていて、今では見事なロングポニーを靡かせています。
戦闘中も人に触らせない程の徹底ぶりですが、少し色あせた黄色い髪留めだけはいつも必ずつけてます。
本人曰く、「ほ、他に気に入ったのが見つからないだけよ。…………それだけ」だそうです。
任務が無いときは大抵部屋で髪を梳かしながら、来るはずの誰かさんを待ってます。


「……で、第二詰所が出来てからはセリアの部屋に入り浸りな訳ね」
「ん、哨戒任務の時はセリアが居なくて寂しかった。自分の部屋でじっとしてた」
「わぁっ!そんなこと素直に話すんじゃないっ!恥ずかしいでしょ!!」
「言いつつさっきから貴女、アセリアにべったりじゃない。アセリアも大人しくじっとしてるし」
「う…………こ、ここは私の部屋なんだから、どこに座ろうと勝手ですっ」
「それはそうなんだけどさ……別にそんなにくっつかなくても」
「ヒミカ、わたしもセリアと一緒が嬉しい」
「くっついてなんか……ってだからアセリアは少し黙って。お願い」
「まあまあ落ち着いてセリア。お茶でも飲んで」
「……はぁ、ありがと。はいアセリア、熱いから気をつけなさい」
「ん。さんきゅ、セリア……熱っ」
「だから言ったじゃない……もうしょうがないわね。はい、ハンカチ」
「…………やっぱりいいコンビだわ、貴女たち」