「あっユートさま~ちょっとこちらへ来て下さいな~」 
 ん? 
 夕暮れ時の第二詰め所廊下を歩いていたところ、各自の個室である部屋からハリオンが顔を出 
してきて、俺は呼び止められていた。 
「あれ? ハリオン部屋にいたのか。なんかヒミカが探してたぞ」 
 さきほど腹の虫にせっ突かれて夕飯の出来具合を確かめに行ったのだが、本日の炊事軍曹で 
あるヒミカに、ハリオンを見なかったか、と聞かれていたのだ。 
「あらーそうでしたか~まあまあそれは置いといてですね~これ見て下さいな~」 
 あっさりとヒミカのことをスルーしたハリオンは、後ろ手に持っていた物を俺の目の前に差 
し出してきた。 
  白くて、楕円で、ラグビーボール大の…………え? たまご? 
「大当たり~」 
 なでなで。 
「いや、いいから。で、これが何なんだ?」 
 俺が当然の疑問をぶつけると。 
「んもぅ~~ユートさまったらぁ~わたしの口から言わせる気ですかぁ~?」 
 な、なんだ? ハリオンが、あのハリオンがうっすらと頬を染めてイヤんイヤんしてるぞっ!? 
「ユートさまとぉ~わたしの~愛の結晶ですよぉ~」 
はい?。
「今日はずーと部屋に籠もって暖めてたんですよ~もう~わたしとユートさまは番なんですか 
ら~今晩は一緒ですよ~ふたりで暖めましょうね~」 
 ニッコリ恥ずかしげに咲くハリオンの笑顔。ああ、そうか抱卵って奴か。ひとりじゃ大変だ 
もんなぁ。テレビでよく見たなぁ。ツバメの子育てとかさ。そういえばスピリットって卵生だっ 
たんだなちっとも知らなかった。はは、ははは。はははははは。 
 ダラーリ。ダラダラ。いやな汗が脇の下を流れ落ちる。みぞおちがえぐれるように重い。 
「あ、あ、あの」 まさか、まさか。 
「♪~ほ~らパパですよぅ~」 
 ……トドメ。……子連れエトランジェ。できちゃった婚。うわあぁぁぁぁぁぁ ○| ̄|_ 
「あ、こんな処にいた。ハリオン何やってのよそれ返しなさい」 
 俺の後ろからひょいっとあらわれたヒミカが、ハリオンの手からたまごを奪い取る。 
 ああっ、お、俺のいとしの、 
「ああん、もうヒミカタイミング悪いですぅ~もう少しだったのに~」 
「何いってんの。これでケーキ焼くんだからね。せっかく頂いた貴重なテトワェの卵で遊ぶん 
じゃないの」 
 え? テトワェ? 
「あ、ユートさま。お夕飯できましたから、食堂にお越し下さい……どうしました?」 
「え、あ、そ、その卵って」 
「ああこれはですね、私とハリオンがお菓子屋でお手伝いさせてもらってることはご存じです 
よね。そこの店長さんから、私たちがよくやってくれているからと、この卵を頂いたんです。 
とても貴重な品でして、イースペリアの湿地帯に住む巨大な鳥の……あ、あのユートさま?」 
リバイブ。起死回生。九死に一生。俺、俺どっこい生きてる!! ゚(゚´Д`゚)゚
「でもぉ~ユートさま身に覚え有るんですよねぇ~」 
 ドキッ!! ヒミカとの去り際に俺にささやいたハリオンの声。 
「あんた、ユートさまと何話してたの?」 
「ふふ~秘密ですぅ」 
○| ̄|_ 半死半生