遠くで子供のはしゃぐ声がする。
多分さっきの、ボールを追いかけていた子供達だろう。
「――似てましたね、オルファに。」
そう言って彼女は膝の上の顔を覗き込んだ。
「―――ふふふ。もう寝てしまったのですね。」
すやすやと寝息をたてている彼の顔には、どことなくあどけなさが残っていた。
彼女達が久し振りに、本当に久し振りにこのファンタズマゴリアと呼ばれる世界に降り立った時、
そこにかつてのエーテル技術を誇った街並みは残っていなかった。
それでも、人々が自然と共存するその世界は、昔よりもはるかに美しいと思えた。
ふと彼女は何事かを思い立ち、寝ている彼に向かって、そっとささやいた。
「―――ユウ。」
彼が目を覚ます気配はない。
彼女ははにかむように微笑み、もう一度、節をつけるようにささやいてみる。
「ユーウ。」
彼の幼なじみは親しげに、彼をそう呼んでいた。それを聴くたび、自分もいつか彼の事をそんなふうに
呼べる日が来れば良い、そう願っていた。
「……うぅ、絶対、誤解…だって…」
「!」
一瞬目を覚ましたのかと思ったが、それが寝言である事に気付いて、エスペリアはほっと胸をなで下ろした。
多分その幼なじみに雷を落とされる夢でも見ているのだろう。
「いつか、きっと―――。」エスペリアは願う。
ただ後から付いてゆくのではなく、並んで歩ける日が来ますように、と。