ありきたりな筈の憧憬

良く晴れた空。穏かな休日。用事で出かけた街。
両手には、頼まれた食材。……重い。篭を持つ指が痛い。
我慢出来なくなり、ずるずると引き摺りかけた所で、見かけた。
広場で遊んでいた子供達。その内一人の女の子が、ずべたっと転ぶのを。
「うわ~ん、痛いよぅ~」
咄嗟に荷物を放り出す。慌てて駆け寄ろうとした所で、止めた。
「ドジだなぁ……ほら、大丈夫か?」
男の子が手を差し伸べている。泣いていた娘がはにかんでその手を取った。
そのまま又元気に集団の輪に混ざって行く。もう機嫌を直したような様子で。
「……ま、回復魔法、効かないしね」
それを見送って、再び歩き出した。重い荷物を抱え直して。

次の日。訓練で、少し油断した。
打突から変化したオルファの『理念』を避けきれず、石に躓く。
「~~痛った…………」
「ほらほら~、ボーッとしてるともう一度行っくよ~」
尻餅をついている様子を楽しそうに笑いながら、神剣を振り回すオルファ。
「…………う」
見ていると、何故だかじわっと景色がぼやけた。鼻の奥がつん、とくる。
手合わせで負けたせいだとは思えない悔しさ。それが胸に迫って苦しかった。
「ドジだなぁ……ほら、大丈夫か?」
ぬっ、と覗き込む顔。急に日が翳ったと思った時にはユートが手を差し出していた。
一瞬事態が掴めずに、ぼんやりと眺める。それでもすぐに目元は擦った。
「へ……平気だもん!」
恥ずかしさを誤魔化す為に、ぷいと横を向く。それから、黙ってその手を取った。
伝わってくる温かさに、不覚にも又じんわりと滲み出す景色。
「……しょうがないから、助けられてあげる」
引き上げられながら、憎まれ口を叩いていた。
苦笑いを浮かべるユートの前で、緩む口元を隠しきれないままで。