安心宣言

 ――ねね、エルスサーオってどんな所かなぁ
 ――う~ん……判らないけど、なんだか大変みたいだよぉ?
 ――へっちゃらだよ。なんたって、ネリーが行くんだからっ
 ――うん。気をつけてね…………


エルスサーオに戻ったラキオススピリット隊は、皆疲れ切ったような表情をしていた。
バーンライト王国を攻め陥とす。威勢の良い国王の宣言とは裏腹に、現状は厳しいものだった。
景気の良い話に民衆は飛びつき、沸きあがる。しかし常に血を流すのは、他者であるスピリットなのだ。
自分達には関係ない戦争という残酷な行為を、安全な場所で煽ぎ立てる快感。結果だけを求める非情さ。
それが今、前線に現出していた。縦に分厚い敵の重厚な布陣が、逆にエルスサーオにまで迫っている。
リーザリオを攻めるどころでは無かった。豊富なレッドスピリットを前面に押し出す敵は明らかに火力重視。
対するラキオスにはバニッシュを備えるブルースピリットはアセリアだけ。
これでは拠点に篭って必死に防御に徹するだけで精一杯だった。

「おっかえり~~!ねね、どうだった?」
今日も何とか防ぎ、エルスサーオの仮詰所にやっと帰還した所で、明るい声が迎える。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる長いポニーテールはブルースピリット、『静寂』のネリー。
エスペリアが現状打破の為、本来まだ訓練が必要な彼女をレスティーナに無理に頼んで派遣して貰ったのだ。
しかしやっと到着した新たなブルースピリットを前にしても、一同の表情は一向に優れなかった。
敗戦に近い今日の戦いにどの顔にも疲労の色が深く刻まれている。皆疲れ切った体を一刻も早く休ませたかった。
「………………」
一番の活躍を見せ、それでも撤退を余儀なくされたヒミカが憮然とした表情で返事もせずにネリーの脇をすり抜ける。
「……あ、あれれ?」
無表情のアセリアが続き、珍しく不機嫌そうなオルファリルがネリーうるさいと頬を膨らませながら走り抜ける。
「……ネリー、来てくれたのですね。明日から頼みます」
「う、……うん」
辛うじてやや微笑を浮かべたエスペリアが、それでも事務的な口調でそのまま仮詰所へと消える。
「お食事の用意をお手伝いしませんと~」
ふらふらな足取りでハリオンが行ってしまうと、ネリーはぽつん、と独り取り残されてしまった。

「……やだ、な」
小さく呟いてみる。ネリーも現状がどういったものか、知らない訳では無かった。
だが暗い雰囲気が嫌いな彼女は自分なりに考えて、皆を励ましたかったのだ。
ただ、タイミングが悪かった。それは判っている。それでも何となく自分の元気までが萎んでいくようで。
「…………ちぇ」
いじけて足元の石を軽く蹴ってみた。こういう時の慰め役、シアーがまだ来ていない。
訓練の遅れがあって到着が少し遅れるだけなのだが、それでも急に寂しくなった。
「よ、どうした元気ないな、ネリー」
ぽふっ、と頭に手を置かれる。いきなりだったので、ネリーは焦った。こんな所、誰にも見られた事が無い。
「ひゃっ!……ユ、ユートさま?」
慌てて振り向くと、巨大な神剣を肩に担いだままの隊長が微笑みながら立っていた。
白い羽織は所々綻び、硬そうな髪の毛はすっかり埃でごわごわになっている。それでも。
「来てくれたんだな。さんきゅ。これで百人力だ」
にこにこと、髪を撫ぜつつ楽しそうにそう言ってくれる優しい瞳。
一度紹介されただけの自分の名前をちゃんと憶えていてくれて、この状況でも笑いかけてくれる。
必要とされている、そう感じただけで、もうどうでもよくなった。
「へ……へっへーんだ!大丈夫、ネリーに任せといてっ」
「おいおい。頼もしいけど、あんまり無茶はするなよ?」
少し困ったような、そんな悠人の顔。
そんな仕草を見ながら、いつの間にか明るさを取り戻している自分に気がついた。
だいじょぶだいじょぶ、とはしゃぎながら、一緒に詰所の中に入る。ネリーは決心していた。
入り口の所で振り返り、その碧色の瞳をきらきらと輝かせながら、元気一杯に宣言する。

  ……今度はネリーがユートさまを励ます番だからねっ!