冥途天国

ドタドタドタ。
「ユートさまっ。ユートさまユートさまっっ!!」
突然廊下に足音が響き渡ったかと思うと、部屋のドアが、弾ける様な音を立てて開いた。
光陰と馬鹿話中だった俺は何事かと思わず腰を浮かしてしまったのだが、見ればそこには息せき切って走り込んできた
エスペリアの姿があるのだった。
「な、なんなんだ? ノックもしないでもしかして何か起きたのかっ?」
知らず、腰に手挟んだ求めの柄に手をやる。
「も、申し訳ありません。あの、あの」
「落ち付けって、ほら」
飲みかけの温くなったお茶をエスペリアに手渡した。普段のエスペリアからは想像もできないような慌て振りだ。
もしかして襲撃でも起きたのだろうか? もしそうなら一大事だ。今このラキオスの都市はやや手薄な守りなのだ。
「んぐんぐ。はぁはぁ。…………はぁ。申し訳ありません。つい取り乱しまして」
「大丈夫か? なんなんだ敵か?」
「て、敵ではありませんが、一大事ですっっ!! こ、これを見てくださいませっっ!!!」
口角泡を飛ばさんばかりのエスペリアに押されて、俺は学園で手渡されるようなA4サイズに近いフルカラー刷りチラシを手渡された。

そこには――――

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Zuse アセリアプロジェクト第二弾緊急発売決定!!  ユーザーの声に押されて急遽作り上げられた最強のファンディスク。
その名もっ
 『『『『  Heaven's メ イ ド         
             ~~ 私を……汚してくださいませ ~~    』』』』
 
独自の人気投票で三週連続全ハイペリア一位を勝ち取ったみんなのメイドさんエスペリアが、君のために、掃除洗濯お料理、
何でもしてくれちゃうぞ。

もちろん昼のエスペリアだけじゃないっ!  エスペリアだってきっと我慢出来ないぞっ!

        君の焼き爛れた愛欲で、聖女のような彼女と共に燃えたぎるマグマへ堕ちて逝けっ!
    それはきっとエスペリアの望みでもあるっ! 

 主題歌はもちろん「メイドさんディフェンスロール」 とろけるようなエスペリアの美声に燃え尽きろっっ!! 

                                                                   *ジッシャバンデス
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………

……


はっ!? い、一瞬頭がハイペリアに飛んじまったかもしれない。

「ユートさま。ど、どうしましょう。わたくしはスピリット。こんな、こんな、皆様を差し置いて一介のスピリットに過ぎないわたくしが」
両手で顔を覆っているのだけれど、声は嫌がってるふうには聞こえないのだが。と言うか喜色丸出し。
「で、でもあの、あの決まってしまったのでしたら仕方ありませんですよね。わたくしはスピリット。命令ならば従うしかありません。
なんだか“スピたん”なんてのもあるそうですけど、三週連続一位のわたくしには義務と責任があるんですからこちらに注力すべきですよね」
「お、おい悠人。端の方に(ドスッ)ごほっ」
「そ、そうかエスペリア。君がそういうのなら俺は何も言わない。お、応援するよ」
なんだか既に結論ありきな気も濃厚に漂ってるが。
「ユートさま……。ウレーシェイスルス。これも皆様に愛されるものの責務かもしれません。やっぱりメーカーの人気投票なんて信用おけませんよね。
わたくしがんばりますっ」
エスペリアは納得しているようだ。良かった。これもきっと天の配剤なんだろう。
「あ、あのみんなにもじま、いえ、知らせてきますね」
「♪わたくしはメイド~  あなたのメイド~~」
鼻歌交じりに、スキップせんばかりの雰囲気でエスペリアは部屋を出て行った。

「ごほっ、痛つつ……おいおい、いいのかよ?」
「ああ、……いいのさ」
エスペリア。
君もいつか真実に気付く日が来るのだろう。だけど、その日まで夢を見させてやったって良いさ。
ナンキム エスペリア。
俺は心から思った。ホントに思った。とにかく思った。俺の口から言うのが怖いからじゃないぞ。