とある愁傷

 ――世界は救われた。『再生』の消滅により、ファンタズマゴリアに平和が戻る。
   そしてバルコニーから聞こえる歓声。勇者たる俺達を待ち望む、人々の明るい声。

「ああ……でも、緊張するなぁ」
「ぱぱ~、がっちがちだよ~」
隣で、オルファが無邪気に微笑む。
「さすがに、オルファリルは動じないですね」
「そりゃあね♪ みんなのママだもん」
えへへ、と自慢げに胸を張る、小さなオルファ。隣で苦笑する時深。そう、守れたのだ。みんなの平和は。
               ..
「このままじゃ、オルファにも尻にしかれますよ」
あ。バカ。          ..           ..
「…………ぱぱ、オルファにもってどういう事?にもって!!」
鋭く言葉尻を捉えたオルファが睨む。全く余計な事を。そんなだからobsnなんて仇名を付けられるんだ。

たちまち『再生』が紅く染まっていく。なんだか背後ではぁ~と息を大きく吸い込んでいる謎の巨大な生物。
「ほ、ほらレスティーナが呼んでるからさ……早く行かないと」
「……『再生』、全開で行くよ。これでもかぁ~~って! ぴぃたんばすたぁぁぁぁ!!」
瞬間、ごぉっと白いブレスが王宮を突き抜ける。一撃で、咄嗟に張った『聖賢』のシールドが雲散霧消した。
ふと後ろを振り返れば、巨大な穴が分厚い城の壁を丸く綺麗に切り取っていたりなんかして。

「お、おいオルファ、そんな全開で『再生』の力を解放したら城が、いやむしろ俺が……」
「どうせオルファはもう成長しないよぅ……でも……でも……こっの、ウワキモノーーーーーっ!!!!」
聞いちゃいない。
『契約者よ、我は昔から『再生』が苦手でな……面倒な事になる前に眠らせてもらうぞ』
「おいっ!」
『失礼します、『聖賢』の主』
「ちょっ、待っ……」
無情な『聖賢&再生』の声が頭に響く。赤の抵抗力をごっそり持っていかれた俺に、迫り来る全体攻撃最強魔法。
俺は真っ赤に膨れ上がったマナの塊とオルファの頬から必死に逃げ出し、バルコニーへと飛び出した。
とたん、湧き上がる民衆の歓声。しかし手を振る暇も無い。一気に飛び降り、人ごみの中に紛れ込む。

「逃がさないよ……開け! 再生の力、全開ッ♪ いっけぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!」
直後、城全体を吹っ飛ばす灼熱地獄が訪れた。民衆の歓声は、一瞬にして悲鳴と怒涛の阿鼻叫喚に変わった。


『ガロ・リキュアの大飢饉』の引金となり、ファンタズマゴリア衰退を早めたと後に言われるこの事件。
既に歴史の闇に埋もれたその事実を知るものはあまりいない。【エターナル迷惑白書332年度版より抜粋】