湯けむり殺人事件~おっぱい~

最近は戦いが多く、スピリット隊の面々も疲弊してきたが、
ようやく戦いは小競り合い程度に落ち着き、一時の休息を得られた。

俺たちは今、ラキオスから南下して、ミネアに向かっている。
メンバーは、俺以外には、
アセリア、オルファ、ヘリオン、ハリオン、ヒミカ、セリアだ。
なにをしに行くかというとだ、話は昨日に遡る・・・

「ユート様、ちょっとよろしいですか?」
「あ、エスペリア、どうしたんだ?」
「はい、最近ユート様は忙しかったでしょう。そこで、朗報をお持ちしました」
「朗報?」
「ラキオスから南下したところ、旧イースペリア領にミネアという町があるのはご存知ですね?」
「ああ、あったね」
「そこで、疲労回復効果のあるお湯が沸いて出たそうです」
「疲労回復効果のあるお湯・・・温泉、かな?」
「はい、一般の方も入浴が可能だそうですので、行ってみてはいかがでしょうか」
「そうだな、みんなで行こう」
「ですが、ラキオスをもぬけの殻にするわけにはいきませんから、部隊を半分に分けたほうがいいでしょう」

・・・で、俺が提案した抽選方法(早い話がくじ引き)でメンバーが決まり、温泉に入りに行くわけだ。

「楽しみだね~。オルファ、温泉なんて初めてだよ~」
「ん、そうだな」
「ラキオスにもあるといいんだすけどねぇ~。行くまでがちょっとたいへんですぅ」
「それだけの価値があるってことよ、ハリオン」
「そうね。そうでなきゃこんな事しないわ」
「・・・・・・」
何故かヘリオンは固まったように黙っている。

「どうしたんだ、ヘリオン。さっきから黙ったまんまで」
「え、えっと、そ、その~ユート様と一緒にお風呂に入ると思うと~・・・緊張しちゃって~」
「・・・男湯と女湯には分かれてると思うぞ」
「はうっ!そ、そうなんですか~。はあぁ」
安心したような、残念なような微妙な面持ちになる。
「あらぁ~。残念ですぅ~。お背中を流してあげようかと思ってたんですけど~」
「オルファもだよ♪」
・・・勘弁してくれ。理性が吹っ飛ぶ。

そんなこんなで、俺たちの一行はミネアの町に到着する。
「えーと、温泉は・・・と」
「ユート、あれか?」
「お・・・」
そこには、『温泉』と(聖ヨト語で)書かれた大きな看板がかかった木造の建物があった。
「んじゃ、行ってみるか」
「お~♪」
「はい!ユート様、行きましょう!」
俺たちは入り口で料金を支払い中に入った。
「(こういう元の世界の銭湯とかと変わらない所がいいもんだ、と)」
と、思っていると、目の前に看板と通路が二つ。
看板にはそれぞれ『男』、『女』と書かれているようだ。
「やっぱりここで分かれるみたいだな。じゃあみんな、また後でな」
「ん、ユート、あとでな」
「じゃあね~パパ♪」
「ユート様、ゆっくりと、疲れを取ってください!」
「はい~ごゆるりと~」
「しっかりと疲労回復に努めて。私たちの隊長が疲弊していては話にならないもの」
「では、また後で」

元の世界の温泉地の雰囲気を髣髴とさせる更衣室で、俺は服を脱いでいた。
「修学旅行とかの時を思い出すな・・・」
もっとも、あの時はもっと知り合いの男子がいて、和気あいあいとした感じだった。
光陰が女湯を覗き見して今日子に殺されそうになった事もあったっけ。

ガラガラガラ・・・
「お、露天風呂か。こりゃ気持ちよさそうだ」
早速入ってみる。
チャポ・・・チャプン
「ふ~生き返る~」
思わず日本語でつぶやいてしまう。
できたての温泉、しかも露天風呂。なるほどこれなら疲労も回復するだろう。
「ん・・・露天風呂?ということは・・・!」
ガラガラガラー
壁の向こうから引き戸の開く音がする。
「とーうっ!」
バッシャーン!!
「ぷうっは~ぁ!気持ちいいよ~!みんなも早く!」
「こらこら、オルファ、そんなに騒がないの」
「これが、温泉なのね」
チャプ・・・チャプ・・・チャポン
複数の人が次々とお湯につかる音がする。
「(な、な、なんてこった。会話が筒抜けじゃないか!)」
声とともにスピリット隊の面々が素っ裸になっている姿が頭の中でシンクロする。
「(くそっ!妄想に負けてたまるか!)」

               *ここからはリアルタイム(?)でお送りします

         女湯                               男湯(悠人)
                              │
「ん、気持ちいい・・・」                  | 「(と、とにかく、聞いているってことを
                               |  悟られないようにしないと・・・)」
「そうですね~。ユート様は、大丈夫かなぁ」    |
                              |
「これで気持ちいいなんていえない人はいないわ」 | 「(よかった、みんな気持ちよさそうだ)」
                              |
「ふふふ~疲れがとれますぅ~」           |
何を思ったか、オルファがハリオンを眺めて言う。│
「ハリオンお姉ちゃん、おっぱい大きいね~」    | 「!!!」
「そうですか~?ふふ、そうですよね~」      |
「そこいくと、オルファはまだまだね」         |
「え~?ヒミカお姉ちゃんもハリオンお姉ちゃん  |
ほどじゃないくせにぃ~」               .| 「(く・・・っ)」
「でも、アセリアやセリアよりは自信があるわ」   .|
「それって、私とアセリア、どちらの方が大きいか  |
という問題にも発展するわね・・・」          |
「??よく、わからない・・・けど、ん、ヘリオンには .| 「(す、少し気になる・・・)」
勝つと思う」                       |
「ど、どーして私に振るんですかぁ~!       |
 わ、わたしだって、あと数年もすれば、      |
 ハリオンさんみたいになりますよぅ~!!」    .| 「(ヘリオンが、ハリオン級に?・・・想像できない)」
「それって、私に対する挑戦ですか~?」      .|
「そうです!数年後、また勝負です!」        |
「パパは、おっぱいが大きいほうがいいのかな?」.|「(な、なぜそこで俺がでてくるッ!?)」
「女性の魅力は、胸だけじゃないというわ」     |
「私もセリアと同じ意見ね」               |

「ということは、まだチャンスはあります!」     |「(俺は別に大きさは気にしないけど
「・・・なんだ?ちゃんす?」               |  ・・・って、考えるな!煩悩よ、出て行け!)」
「あ、い、いや、こっちの話です」            |
「でも~大きいほうが包容力があって、       .|
 母性的とも、言われてるんですよ~?       .|
 ユート様はまだまだ子供っぽいから、       |
 私みたいな人がキュ~って抱いてあげたほうが .|
 いいかもしれませんね~」               | 「(うぐ・・・ッ!想像するな、想像するなァッ!)」
「あ、ずる~い!オルファも抱く~!」         |
「わ、わ、私も~!」                   .|
「・・・私も、ユートを抱く」                 | 悠人の妄想は止まらない。
「私はパス」                        | 興奮でどんどん体が火照っていく。
「・・・やれやれね」                     | 「(あ・・・か、うぐ、い、意識・・・が・・・)ぶくぶくぶく・・・」
                              .|悠人はのぼせてしまった。他の客が駆けつける。
「さて、そろそろ上がりましょう」            |「おい!この青二才、顔真っ赤にしてぶっ倒れたぞ!」
「!」と、全員が一斉に反応する。          .|「こいつ、ラキオスのエトランジェじゃねえか!
「ゆゆ、ユート様が倒れた!?」           .| お~い!担架担架ぁ~~~!!」
「パパ!?パパぁ~~!」               |
オルファとヘリオンがすっとんでいった。      .|
「あらあら~のぼせちゃったんですね~」      |「(あ、花畑がみえら・・・)」
「・・・原因は他にあると思うけど」           |
「ユート様は、意外とスケベなのね」         .|
「ユートは、すけべなのか。・・・すけべって何だ?」 .|
                              .|

・・・気がつくと、俺は休憩室で寝かされていた。
ハリオンが回復魔法をかけ、アセリアはうちわ(のようなもの)で扇ぎ続け、
オルファとヘリオンは心配そうに顔を覗き込んでいた。
「あ、パパ目が覚めたよ!」
「ゆ、ユート様~だ、だいじょうぶですか~?」
「うん、なんか心配させちまったかな」
「その調子なら~だいじょうぶそうですね~」
「ん、ユート、よかった」
「はは、のぼせやすい体質だったのを忘れてたよ」
「ところで、ユート様?」
セリアがこちらをじっと見てたずねる。
「な、何?」
「入浴中の私たちの会話、聞いていたのですか?」
「え、あ、いや、それは、その~」
「やはり聞かれていましたか」
と、あきれたように言うヒミカ。嫌な予感が頭の中をよぎる。
「ちょうどいいよ♪ねぇパパ、パパは、どれくらいのおっぱいの人がお好み?」
・・・やっぱり。だが、簡単に答えられるわけもなく、あわててしまう。
「え゙、そ、それはだな・・・」
「ゆ、ユート様!はは、はっきりしてください!」
どうにか逃げようとするが、ハリオンにつかまってしまった。
「ふふふ~♪逃げられませんよ~?」
「(くっ!どうすればいい!あ、そうだ!おいバカ剣、助けろ!)」
『ふむ、任せておけ』
その瞬間、俺の意識は『求め』の意識と入れ替わった。

「お前たちの中でなら、誰でも俺の好みの大きさだ」
『~~~~~~~ッッ!!』
そして、意識は元に戻る。
「つまり、ユート様はどんな大きさでもよいと、そういうことですね」
「う~パパ!それじゃはっきりしないよ!」
「ゆ、ユート様!はっきりするまで、今日は逃がしません!」
「観念しろ。ユート」
「観念しましょう~」
「ユート様、この際はっきりさせないと、男が廃りますよ?」
「まったく、スケベなだけじゃなくて、うだつもあがらないのね」
「だっ、だれか助けてくれ~~~(このバカ剣~~~!)」


結局、彼女たちが疲れて寝てしまうまで尋問は続けられた。
ラキオスに戻ってからも、オルファとハリオンがこの日の話をしたため、
このときいなかったメンバーからも尋問地獄を味わうことになった・・・。


「俺は何しに温泉に行ったんだ~!?」

                          ─完─