登用の陰に

ばたーん!
ラキオス王城のとある研究室の扉をけたたましい音を立てて閉め、
わたしは一人廊下を足音高く歩き出した。
ふざけるんじゃないわよあの色ボケジジィ。何が、
『エーテル技術に関する論文は進んでおるかな?
なんなら、わしが直々に講義を行ってやってもよいぞ』
だ。せめて、講義の後の妄想を外に出さずに押し込めてから言ってみなさいっての。
確かに、技術者としての経験や知識はあちらに分があるに決まってる。
でもそれは、意味も無く年長者や重鎮クラスの側近を重用する体制の問題に大きく起因しているだけ。
けれども、未だ新米に過ぎないわたしが技術者として職を得たことも、
あのジジィに師事をしていたからという部分が大きくなってしまう。
わたしが問題なく建設を指示できるものなどたかが知れているっていうのに。
そして、技術や知識の向上に努めようとしても待っているのはそれと引き換えのアカハラの日々。
断固とした抗議の結果は、独学の強要とそれに伴う訓練所建設、
あるいは回復施設建設要員が関の山の成績なのだ。
……幸いにして、という言い方が正しいのかは分からない。
しかし、今この国は確実に変わりつつある。
他国の技術者を登用し、更なる智、更なる技が次々とここへと集まってくる。
ならば。わざわざジジィに媚を売る必要もなくなるじゃないか。一度たりとも売った覚えはないけれど。
盗みの対象がけちジジィだけに留まらなくなるのなら、きっと独学の効果も高まるだろう。
いつの間にか、高鳴っていた足音が収まり、自室の扉の前に立っている。
よし、とばかりにわたしはぶちきれたドサクサで持ち出した書物を懐から取り出して、部屋の鍵を開けた。
今日の徹夜の友はこれだと、心に決めてから。
……
「……優秀な人材とか、器用な人材は一人もいらないから、とにかく根性のある奴をよこしてくれ」
――そして、また一人の凡才が鍛えられる――