「よ、ワッフル食べないか?」
その人は、そう言いながら、ヨフアルを差し出した。
ふんわりと良い匂いを嗅ぎながら、口を少し尖らせてみる。
「ワッフルじゃないよ、ヨフアルだよ」
初対面の筈なのに、自然に話せてしまっている。そんな違和感を少しも感じず。
「おいひぃ~。やっぱり、焼きたてに限るねぇ」
「相変わらず良く食うな……まったく」
「んふふ~判ってないねぇ。冷めちゃったら、美味しくなくなっちゃうんだよ」
「いや、それはそうなんだけどな」
呆れ、苦笑いする表情。見てると、何か安心する。だから、口数が多くなる。
久し振りにはしゃぎながら、気さくなこの人に、好感以上の何かを感じていた。
「さ、て。もう、行かなくちゃ」
ぱんぱん、とスカートの草を払い、立ち上がる。陽が、大きく傾いていた。
……楽しかったけど、この時間はもうおしまい。本当の私の、仕事に戻らなくては。
振り向くと、座ったままの体勢で、無言で見上げてくる寂しげな顔。夕日に赤く染まる瞳。
胸のどこかをきゅっと締め付られたような気がした時には、そっと指を差し出していた。
「え…………」
「…………約束。また明日、ここで会おうよ。……ううん、会いたい、な」
言ってから恥ずかしくなってしまった私が、今度は黙りこくる番。
俯き、逃げ出したくなるような気持ちを抑える。それでも小指は必死に、引っ込めないよう。
きょとん、としていた気配がやがてすっと立ち上がる。その瞬間、指に暖かいものが絡められた。
「あ…………」
「ああ、約束だ。指きりげんまん、だな」
「う、うん! 指きりだねっ!」
ぱぁっ、と明るくなっていく心。湧き上がってくる、酸っぱいような感激。
ユビキリ。知らないはずなのに、知っている不思議な言葉。私は極自然に口にしていた。
その意味を、“私は絶対に知っている”。遠いいつか、記憶の先で。それが確信出来たから。
また明日。胸に秘めながら別れる。時々振り返り、大きく手を振った。
情熱の赤に包まれていく景色。偶然が、明日からは必然になる。ふと、知らず知らず、涙が溢れていた。