すぴたんいんふぉ

「あははっ、こっちこっち」
「まってよー」
「せんせーい」
「いっしょにあそぼー」
「はやく、はやくー」

城下町から少し離れた場所に設けられたとある施設。
そこには、先の大戦で親を失った子供たちが
人やスピリット関係なく保護され、生活していた。
そこでは、この世界の明るい未来がみえるように
スピリットも人も関係なく笑顔が溢れていた。


この施設の計画を立て、運営を行っているのは
旧ラキオススピリット隊のスピリットというのだから驚きである。

親を亡くした子供や、戦闘教育を施されていた年少スピリット。
違いはあれ、心を開いてくれない状態は同じだった。
また、スピリットに対する偏見や差別なども少なからず残っており
施設の運営には沢山の問題点があった。

だが、彼女は諦めなかった。
仲間のスピリットや、理解ある人たちの力を借りて
少しずつ、少しずつだが前に進んでいった。

数ヶ月が経った頃には、子供たちには笑顔が戻り、
近隣の人たちとも助け合い協力して生活する場を手に入れていた。
人とスピリットの共栄を見事に成功させた、ひとつの例である。

そんな楽しい生活が続いていた、ある日の午後。

「せんせい」
「どうしたの?」
「あの おじさんたちが、せんせいに おはなし があるって」
「え?」

ふと、園の入り口を見ると王宮の兵士が2人。
こちらを伺っているのが見えた。
「わかったわ、ありがとう。
 みんなーお客様が見えたから、お部屋に戻りましょう」
「えー」
「もっとあそんでいたいよー」
「ほらほら、いい子だからいうことをきいて、ね」
「そうだよー、せんせいのいうことはきかないとダメなんだよー」
「そうね」

優しい青い瞳で見つめ、頭を撫でてあげる。
「えへへー」
「いい子にしていれば、ハリオンお姉さんがお菓子を持ってきてくれるわよー」
「ほんとー」
「よーし、それじゃおへやにもどるー」
「いちばーん!」
「わー、まってよー」
「みんなー、ちゃんと手を洗うのよー」
『はーい』

ここの園にいる子は、みないい子だ。
いい子に育ってくれた。
そして、一緒に生活し見守っていけると思っていた。

「セリア・B・ラスフォルト、だな」
「はい」
「女王陛下からの招集だ」
「そうですか」
「…内容はこちらを確認してくれ、特別任務らしい」
「わかり、ました」
「すまんな」
「貴方たちが謝る事じゃないです」
「あぁ・・・」
「子供たちのあんな顔を見ちまうとな」
「やっと戦争も終ったっていうのに」
「あの子達の笑顔を守る為なら、なんでもありません。
 それに回りの方達も親切にしてくれます、大丈夫です」
「そうか、それじゃ確かに伝えたぞ」
「はい、ご苦労様です」

園を去っていく兵を見送り、部屋に戻る。
特別任務、半年から1年、もしかしたらそれ以上?
危険度も分からない。未開の地へ赴く内容のようだ。
詳しい話は後日、城でヨーティア様より説明があるとのことだ。

「せんせーい、おかえりなさーい」
「どうしたの、せんせい?」
「げんきないよ」
「あっ!さっきのおじさんたちに、いじめられたの」
「せんせい、ぼくがせんせいをまもるよ!」
「ふふ、ありがとう。でも大丈夫よ、私は誰にもいじめられたりしてませんよ」
「だいじょうぶ?」
「げんきだしてね」
「はい、ありがとう」

コンコン
ノックの音と一緒に賑やかなお客様がやってきた。
少し落ち込んでいるかもしれない。
いや、子供たちには丸分かりだ。
そんな気分を一掃してくれるにはタイミングが良かった。
あるいは・・・。

「みなさ~~ん、こんにちは~~~」
「あーハリオンお姉さんだー」
「こんにちはー」
「あらあら~、みなさん元気ですね~。いい子にしてましたか~~?」
「みんないい子だよ」
「でもね、セリアせんせい、ちょっと元気ないの」
「あらあら~、そうなんですか~?」
「うん、そうなんだよー」
「そうなんですか~~」

「セリア、ちょっと」
ハリオンと一緒に来たヒミカが入り口から声をかけてきた。
真剣な表情から、彼女は先ほどの「任務」についてはもう知っているのだろう。
そう、あるいは、こうなる事を考えて来てくれたのかも知れない。

「みんな、先生はヒミカお姉さんとお話をしてくるから
 ハリオンお姉さんのいうことをきいて、いい子にしててね」
『は~~い』
「こちらは~、私が見ていますので~、ゆっくりしてきてください~」
「ありがとハリオン」
「それでは~、ごゆっくり~」

街から少し離れた農村地帯。
ここには、自給自足で暮らしている二人のスピリットが住んでいる。
彼女たちは少し早く「任務」について、その詳細を聞く事が出来た。
そして、その任務に着く前に、身の回りの整理を行っていた。

「おねえちゃん・・・」
「どうしたのニム?」
「ねぇ、本当に止めちゃうの?」
「このままには、していけないですからね」
「でもでも」
「ほら、見てニム」


「私たちが作った畑や水路は、まだほんの少しでしょ」
「うん」
「でも、回りの畑はだれのモノ?」
「他の、近所の人の」
「そうね、それでねニム
 ここから流れてる水、雨季になって水の量が増えたらどうします?」
「そうしたら、溢れないように止めるよ」
「だれが、止めてくれますか?」
「それは…」
「ね、ここから流れた水のせいで、ご近所の畑に被害が出たら大変でしょ?」
「うん」
「だからね、いまのうちにやっておかないと」
「でも、でも!
 せっかく作ったのに、全部枯れちゃうよ!」
「そうね・・・、ニムも一生懸命手伝ってくれたのに。残念だけれど・・・。」
「うぅ・・・」
「ねぇニム」
「・・・なぁに?」
「無事に帰ってこれたら、もう一度いっしょに頑張りましょうね」