身に憶えのある者達

今日子は、困っていた。
「ええと…………これがこうだから、こうなって……だから……」
寝そべっていたベッドの上で、ごろごろごろごろ。たまにごつん、と壁に頭を打ちつけ、ぴくぴくと痙攣する。
「痛ったぁ~~…………くっ、こんのぉ!」
涙が出る程痛かったらしく、八つ当たり気味に壁に向かってハリセンアタック。そしてまた悶々。
「あ~~っ、どうしてこうなっちゃったのよぉ~~!」
それを延々、もう二時間は続けていた。

「…………なぁ悠人、どう思う?」
「どう思うって……とりあえず、近づかない方が懸命だな」
「うむ、同感だ。君子危うきに近寄らず。ここで見守る事にしよう」
「…………見守るのかよ」

そうこうしている内にがっしと『空虚』を握り締める今日子。その表情は強張り、張り詰めた緊張感が辺りを包む。
「あちらを立てればこちらが立たず……うう~~」
ぎっと刀身を睨みつけ、獣みたいな唸り声を上げ。同時にぱりぱりと全身から紫電が迸り始めた。

「お、おい何かヤバくないか?」
悠人は言いながら、嫌な予感がしていた。まさかとは思うが、ここで二股をバラすのでは、と冷や汗が流れる。
「ああ……ちょっと心配だな。神剣の支配が強まったのかもしれん」
一方の光陰は純粋に今日子の身を案じている。悠人は少し、いやかなり居心地が悪くなった。
「あ、あのな光陰、実は俺達……」
罪の意識に圧され、自分から楽になろうと呼びかけた時。
ばさっ!
「あ~~~、もうっ! はっきりしなさいよ、アンタ、五位なの六位なのっっ!!!」
「…………へ?」
今日子は、二冊の本を勢い良く『空虚』へと投げつけていた。呆れた光陰が声をかける。
「なんだ今日子、そんな事で悩んでたのか? まったく、心配かけさせやがって」
「やだ光陰! 聞いてたの?…………だって、気になるじゃない?」
二人の会話を聞きながら、悠人は腰から崩れるようにその場へとへたりこんだ。目線に、本のタイトルが飛び込む。

『公式設定資料集』 『舞台劇永遠のアセリア第二幕』 本にはヨト語でそう書いてあった。