蒼熱恋慕

それは、本当に突然だった。
彼の唇が私のそれに重なり、口腔内に滑りを持った肉が差し込まれる。
最初は呆然としていた私だったが、強引に絡まされた舌の感触に我に返った。
彼の胸を突き飛ばそうとし……そこで初めて彼に抱きしめられていたことに気付く。
力強く私の背中に腕を回している。スピリットとはいえ女である私は、その力に
敵うはずもなく、ただ身を任すしか他なかった。
「ふっ…む、うぅん……」
熱い。体の中が沸騰しそう。
彼の舌がそうしているのか、それとも、私の中の彼に対する感情がそうしているのか。
体の中のマナが暴れ狂っている。止められないほどに。
彼の喉が動く。ああ……私の唾液を、飲んでいるんだ。
そう考えると、更に体が熱くなった。
いつしか私は抗うことを止め、彼の舌を受け入れていたことに気付く。
だって、しょうがないじゃない。少なからず……認めてはいなかったけど……好意を抱いていた相手。
彼にここまで求められて…抗うなんて、到底できそうもない。
熱病に犯されたように霞がかかる頭。だけど、彼が与える感触だけはクリアで、
はっきりと私が求められていることがわかる。
突き放そうとしていた手は、いつの間にか彼の背中に回っていた。
夢中で絡まされていた舌は、いつの間にか私の唇から離れている。
だけど、視線は離さなかった。黒い瞳が私を見据えている、
それだけで私は……どうしようもなく、彼を欲していたのが、わかってしまった。
「   」
彼の唇が動く。名前、だろうか。その言葉は耳に聞こえたのだけれど、私の中に入らない。
「   」
私の唇が動き、彼の名前を紡いだ。
申し訳程度につけていた敬称など捨て、彼を求めている、言葉を。
ぎゅ、と私を抱きしめている腕に力が籠もる。
それに劣らないように、私も彼を抱きしめていた。
ああ、彼の体はこんなにも暖かい。そして、心地いい。
すう、と息を吸い込み、彼の匂いを肺に満たして初めて気付く。

こんなにも愛おしい。こんなにも欲している。
不意打ちのようなキスをされただけ。それだけで私は気付かされてしまった。
私は、彼を、愛しているんだ……
私より少し背の高い彼。その瞳を覗き込み、少しだけ背伸びをして私は彼にキスをした。
触れるだけのキス。唇を軽く重ね、少し離した後にもう一度。今度は長く。
柔らかい唇の感触だけが私の全てになった。頭を占める幸福感。
それを幾度も味わいたいと、私はキスを繰り返す。
「ん、ちゅ、ふ……」
舌で唇をなぞる。薄く開いた唇に割り込み、彼の歯を一本ずつなぞる。
頬の内側を舐めあげて、唇を離して彼の舌を要求した。
懸命に伸ばしてくる彼の舌。それを唇で挟み、少しだけ引っ張った。
彼の顔が快感で占められているのを見て、私も内の中のそれに気付いた。
触られたい、触りたい。撫でられたい、撫でたい。
愛されたい。そして、彼を、愛したい……
それに気付いたとき、私のナニカが消え去った。
抱きしめていた腕は解かれ、背中から柔らかいベッドに倒れ込む。
彼もまた私の上に覆い被さってきた。
再び絡み合う視線。だけど今度はキスはなかった。
「…その、な。いまさらだけど……いいか?」
…まったく。今更ながら彼の鈍さにため息をついた。
「嫌なら、最初からはね除けています」
上体を少しだけ起こし、軽くキスをしてから私は言葉を続けた。
「…ユート。愛しているわ、心から」
多分私の顔は真っ赤になっているだろう。彼の顔もそうなのだから。
そして、彼もまた私に言葉を向ける。
あたたかい、私を求めるその言葉を。
「ああ……セリア、愛しているよ」
そう言いながら近づく彼の顔。
もう何度も繰り返したキス。飽きもせずに、私も彼の唇を貪った。
数回舌を絡ませ、ユートの手が私の胸に添えられた。

こういう時は恥ずかしがるのがいいのか、それとも、欲しいことを伝えたらいいのか。
頭の片隅で冷静に考えようとするけど、本能がそれを拒んだ。
「あ…待って」
彼の袖を掴み、少しだけ止める。それだけで子犬のように困ったような顔をするんだから…
少しだけおかしさがこみ上げて、微笑みながら告げた。
「服、脱がないと…」
あ、と彼も気付き、慌てて起きあがる。
それが面白くて、クスリと笑ってしまう。
私は寝転んだまま服の前を開け、少しだけ体を浮かせて上半身の服を脱ぎ去った。
…彼の息を飲む音が聞こえて、急に恥ずかしくなった。
それだけなら何とか耐えられるけど……
「―――綺麗だ」
なんて本当に真剣な顔で言われたのは、本当に恥ずかしかった。
だから、
「ユートも、脱ぎなさい」
なんて冷たく言ってあげたら、慌てて脱ぎ始めた。
彼の服は簡単なもので、ものの数秒でその全てを脱ぎ終わった。
―――こんなにも違うんだろうか。男の人の身体とは。
鍛え抜かれた身体。所々に傷痕がついている。幾多ものスピリットと戦い、負った傷。
そ、そして…彼の、そ、その……は、おおきくなって、いた……
あれが私の中に入るんだろうか…どう考えても、サイズが合わないと思うのに。
まじまじと見てしまう…と、彼が手でそこを隠した。
「あ、あまり見ないでくれ」
…嫌でも見ることになるのに。
なんて少し考えたけど、私だって裸を見られるのは恥ずかしい。それと同じなんだろう。
二人とも生まれたままの姿になってベッドに座る……気恥ずかしいわね…

ごくり、と彼の喉が鳴った。
「…セリ、ア」
言葉と一緒に伸びてくる右手。
胸へと向かってくるそれを、私は両手で掴んで導いた。
そして、私に、彼が、触れた。
「んっ…ぅ」
触れただけ。それだけなのに、暖かさが身体に流れ込んでくるよう。
彼の手の平が私の胸を押しつぶして、そこで少しだけ止まる。
添えられた手が少しずつ曲げられて円を描くように動いた。
「は、あ……」
思わず息が漏れてしまった。はしたないって思われないかしら……
でも、ユートの手の平はそれほどまでに気持ちがよかった。
ぐっ、と押し込まれると思ったら指が胸の先端を軽くつまむ。
人差し指と親指で挟まれ、くっと力を籠められた。
「ひぁぅっ!?」
強い責めに声が跳ね上がってしまった。
痛い、のに、なんでこんなに気持ちいいんだろう……
力を籠められ、だけど痛みは少なくなり、私の胸の芯が熱くなっていく。
「固くなってるな、セリア」
~~~っ!!
そんなことっ!……と、言いそうになったけど、堪えた。
そんな反応が欲しいんだ、この人は。
だから私は声に出さず、キッと彼を睨んだ。
だけど、ユートはにこりと微笑んだだけ。
「……ホント、狡いんだから」
その表情に観念し、彼の愛撫に完全に身を任せた。
どうなってもいい。彼なら、決して私を傷つけないだろう。
なにより……私が、彼に好きにされたい。

「来て、ユート…」
頭に手を回し、何度目かわからないキスをかわす。
絡まる舌の熱さ、ぐらぐらと沸き立つ感情。
好き、この人が、どうしようもなく、好き。
抑えても抑えきれない彼への想いは、私を狂わせるのには充分だった。
「はっ、あうっ!うあぁっ!!」
唇を離し、彼の愛撫に素直に声を上げている自分に気がついた。
胸に、鎖骨に、耳に、唇に手を這わせ、舌を這わせ、吸う。
首に何度も彼の印を刻まれて、私ははしたない声を隠さずにあげた。
そして、彼の手が私のおなかを通り……誰にも触れさせたところのない場所へ、たどり着く。
息が止まる。期待と、恐怖と、羞恥に頭が掻き乱される。
彼も躊躇っているのか、私の…その、おへそ、のあたりで手を止めている。
…まったく、しょうがないんだから。
散々私の反応を見て楽しんだくせに、いざとなったら後込みする。
ヘタレ、と心の中で呟いてから、彼の手に自分の手を重ねた。
…汗ばんでるわね。ユートも緊張しているんだ。
少しだけ余裕ができた。そうだ、彼も…一緒なんだ。
重ねた手を少しずつ私の…その…大切なところに、導いた。
「―――っっ、ぁう!?」
ほんの少し、指先が触れただけ。
それだけなのに、私のあたまに、火花がはしった。
ずん、と重くなる腰。おなかの下から突き上げられるような感覚。
なに――これ?
ただユートの指が触っているだけ。ユートの指が動いているだけ。
なのに――なんで、こんなに……気持ちいいの?
花芯をつつかれ、指を噛んで声と快楽を堪える。
真っ白になりかけた頭に水音が聞こえて、また顔が熱くなった。
濡れ、てる…私…

くちゃりくちゃり、と耳に聞こえてくる。それを彼は指に絡め、私のあそこを弄っている―――
本当、顔から火が出そう…っ!?
圧迫感。突然感じたそれの後に、今までよりも強い、強すぎる、痛いくらいの刺激。
今まで感じていた外からの衝撃ではなく、私の中…本当に、私の中から突き刺されている。
「―――っぁ!ひんっ!」
抑えていた声が漏れてしまった。
恥ずかしい…けど、もう止まらない。
「はぅっ!ひ、んあ―――ッッ!!」
押し込まれ、曲げられ、ぐちゃぐちゃに掻き回してくる、彼の指。
痛みすら感じる愛撫に、だけど、私は高まっていった。
「あ、あ…い、あぁァっ!」
真っ白になる。考えられなくなる。
おなかのしんが引っ張られていって、溜め込んでいた快楽が中から唐突に噴きだした。
「――――――っっあ」
しろ、く、な―――
「はぁあぁああ、んぅ、あぁ―――!!!!」

眼が、覚めた。
朝の涼しげな空気が私の頭に吸い込まれる。
「ゆ、め…?」
二、三度瞬きをして何とか頭を回転させようとし―――
「~~~~~!!?」
ぼがんっ、と湯気が上がるほどに顔が真っ赤になった。
あ、あ…な、なんて夢を見てしまったんだろう……
思わず毛布を頭まで被ってしまった。そのまま布団の中でごろごろごろごろ……
「―――うう…」
今でも身体の芯に残っている、あの指の感触。
ごつごつとした、男の人の、ユートの……って、ああっ!!
「何で……何で何でなんでっ!!?」
なんでユート…じゃないユート様が私の夢に出てくるのよっ!?
しかもあんな事までして、最後までせずにいなくなる!!?
夢の中まで何でヘタレなのあの隊長はぁ!!
あまりにもあまりな内容だった。キスされて、私も流されちゃって、
裸になって挙げ句の果てにイカされて……っ!!
「……あっ!」
とっさに下着の中に手を入れる……ああ、やっぱり…

「濡れてる…」
…ああ、もう。脱がなきゃ…
毛布をはね除けて寝間着も脱ぎ、下着に手をかけて…
「おーい、セリア。朝ご…は……」
がちゃり、と、ドアが開いた。
そこにいたのは、針金頭の、ラキオススピリット隊隊長……
「……あ」
「―――」
頭が、停止した。
私は、今、下着も何もつけてはいない。
ええと、その、あれね。つまり私のあそこはユート様に見られて―――~~~っ!!
「あ、いや、そそそのセリアっ!?」
……熱病。全ての力を開放しなさい。
ベッドに立てかけておいた熱病を咄嗟に手に取り、シーツを剥ぎ取ってスカートの代わりにした。
「…覚悟は、いい?」
ウィングハイロゥを展開。熱病のマナを全て眼前の恥知らずの男に向ける……
「事故だ事故ッ!不幸な事故だから許してくださいセリアさ」
「問・答・無・用」
全力の一撃を、私はユートに向かって解き放った―――