───夕焼けが、空を紅く染める。
その紅い光は窓から降り注ぎ、食卓を黄金色に染め上げていた。
・・・という具合に能書きをほざいたが、とりあえず言いたいのは、
今の時間が夕方だと言うことだ。
俺の腹はさっきから悲鳴を上げている。食欲の秋にふさわしい態度をとっていた。
「・・・・・・腹減ったな」
「今から夕食にしますから、情けないこと言わないでください」
横からエスペリアが現れて突っ込みを入れる。
「パパ、食いしんぼさんだもんね~♪」
と、オルファ。だが、俺は反射的に『オルファには言われたくない』と思っていた。
「別にいいだろ。現に腹減ってんだしさ」
「・・・はい。じゃあこれから用意しますので・・・・・・」
エスペリアは目配せする。その視線はアセリアで止まった。
「アセリア?地下倉庫からアカスクを取ってきてくれませんか?」
「ん、わかった」
そう返事をすると、アセリアはすたすたと倉庫のほうに向かっていった。
アカスク・・・それはこの世界の蒸留酒<ウイスキー>のこと。
いつだったかヨーティアが俺の目の前で自慢げに飲んでいたアレだ。
それにも幾つか種類があり、エスペリアが頼んでいるのは料理に良く使う種類。
要するに調理酒のことだ。
「今日の夕食は、体が温まるようにしますね」
「ああ、頼むよ」
「オルファも手伝うよ♪」
エスペリアとオルファは、しっかりとエプロンをつけて台所へと入っていった。
台所からトントンと、リズミカルに野菜を刻む音が聞こえる。
察するに、今日の夕食はポトフみたいなものなのだろう。
最近寒くなってきたから、こういった、あったまる食事と言うのはありがたい。
「それにしても・・・・・・アセリア、遅いな」
さっき調理酒を取りに行ったアセリアがまだ戻ってこない。
地下倉庫まではそう遠くない。3分もかからずにとってこれるはずなのに、もう15分も経つ。
そう思っていると、台所からオルファが出てきた。
「オルファ、どこ行くんだ?」
「えっとね、アセリアお姉ちゃんが遅いから、様子見てきてって、エスペリアお姉ちゃんが・・・」
どうやら、エスペリアも同じことを考えていたらしい。
「そうか・・・念のために、神剣を持っていったほうがいいぞ・・・ほら」
俺は壁に立てかけてあった『理念』を手渡す。
「ありがとう、パパ。じゃあ、行ってくるね」
オルファはとことこと駆けていった。
「・・・・・・・・・遅い」
「・・・・・・・・・そうですね」
オルファが様子を見に行ってから20分が経過した。
調理酒が無ければ料理は進行しないらしく、野菜を刻んだ時点で止まっていた。
そのためエスペリアは調理を一旦止めて、二人が戻ってくるまで食卓に座っていた。
ますます俺の腹は悲鳴を強くする。
「エスペリア、簡単でいいから、何か作って。それから、様子見に行こう」
「はぁ・・・はい」
エスペリアが席を立ち、台所に入ったかと思うと、すぐに何か持ってきてくれた。
「すいません、本当に雑なものですが・・・」
エスペリアは、フランスパン(もどき)にバター(のようなもの)を塗ったものを持ってきた。
俺はもう何でもいいから腹に入れたかった。それを受け取り、口に放り込む。
「ふう、生き返った」
「お粗末さまです」
本当にお粗末だったが、せっかく持ってきてくれたんだからそんなことは言わない。
「さて、様子を見に行くか」
「はい」
俺たちは、神剣を手に地下倉庫へと向かうのだった。
俺たちは、地下倉庫に続く階段の入り口に来ていた。
倉庫に向かって、二人がいるかどうか知るために呼びかける。
「お~い!アセリア~、オルファ~、いるか~!?」
しかし、何度呼びかけても自分の声が木霊するだけ。
二人のどちらからも返事はなかった。
「いないのでしょうか・・・?」
「しかたない、降りてみよう」
「・・・そうですね」
エスペリアは渋ったようだが、俺が降り始めると、エスペリアもとことこと付いてきた。
─ LEVEL 1 ─
「ちょっと待て、何だ?今の『LEVEL 1』ってのは」
「? どうかしましたか?ユート様」
どうやら今のはエスペリアには見えなかったらしい。
いや、俺にも見えてないんだけど、頭の中に浮かんだ・・・っていうのかな?そんな感じだった。
「いや、なんでもない・・・・・・それより」
俺は、目の前の光景に我が目を疑った。
「地下倉庫ってさ、こんなに廊下長かったっけか?」
「いえ、降りてすぐに、倉庫に保存してある物が目に入るはず・・・です」
そうはいっても、目の前にあるのは果てしなく続く細い通路。
なんなんだこれは・・・と思ってふと振り向くと・・・!
「あれ!?」
「こ、これは・・・!?」
どういうわけなのか、さっき降りてきた階段が、今は影も形も無かった。
上下左右どこを向いてもあるのは木でできた壁と天井。
「階段が・・・」
「もしかして、閉じこめられたのでしょうか・・・」
もしかしなくても閉じ込められている。俺たちは、長い通路を進むしかないようだった。
まてよ・・・・・・
ある日突然建物の構造が変化し、降りてきた、または上ってきた階段が無くなり、
そして、ダンジョンと化した建物は入る度に形状が変化すると言えば、あの・・・・・・!
─────『不思議のダンジョン』!!
俺は、元の世界でそんな感じのゲームがあったことを思い出した。
たしか、不思議のダンジョンの最深部には、とんでもないお宝が眠っているという・・・
ここも、そうなったのだろうか?
そうだとすれば、アセリアやオルファが戻ってこれないのも頷ける。
俺は、無理矢理納得しようとしていた。
便宜上、俺たちはこの空間を『不思議のスピリットの館』と名づけることにした。
語呂が悪いのは置いといて、とりあえず、俺たちは先に進むことにした。
しばらく道なりに進んでいると、向こう側から何かがやってくる。
モンスターが現れた!
チャララララ~という効果音とともに現れた『モンスター』。
そいつは、角が一本ある、粗末な棍棒を持った小鬼だった。
「(・・・・・・こいつが、いわゆるゴブリンってやつなのか?)」
「ユート様、この人は一体?」
「いや、人じゃないだろ。どう見ても。つーかさ、この世界に、こういうのっているもんなのか?」
「私も初めて見ます」
なにがなんだか。エスペリアと漫才していると、ゴブリンは棍棒で殴りかかってきた。
「うわっと!」
「きゃっ!」
間一髪、俺たちは攻撃をかわした。
「ユート様!この人は敵です!」
「だから人じゃないって・・・ああもう、とにかく倒すぞ!でやあっ!」
俺はゴブリンの懐に飛び込み、『求め』で袈裟払いをかけた。
ズバッ!
手ごたえあり!一撃で致命傷をもらったゴブリンは、呻き声を上げながらマナの霧へと変わっていった。
ちゃっちゃら~ちゃらららら~
またもや、意味不明の効果音がどこからともなく響く。
「ユート様!やりました!」
「なんだ、てんで弱いな」
「あ、何か落として行ったようですよ」
エスペリアは、ボロボロの皮袋を拾い上げる。
袋を開けると、その中には何枚かの銅製のコインが入っていた。
「それ、お金だよな」
「そうですね・・・大体、リクェム3個分ってところですね」
妙な例えを出すエスペリア。俺に言わせれば、リクェムには1円の価値だって付けたくはなかったが。
「・・・ま、はした金ってことだな」
僅かなお金を手に入れた俺たちは、さらに奥へと進んでいった。
しばらく進むと、分かれ道があった。
左は、ここからでもはっきりとわかる。袋小路だ。
右には、下に下りるらしい階段があった。
「・・・どうする?」
「進むしかありませんね」
俺たちは右に進み、一歩一歩階段を下りていった。
─ LEVEL 2 ─
また脳裏によぎった、『LEVEL 2』の文字。第2階層ということなのだろうか。
案の定、今降りてきた階段はすっかり消えうせていた。
「俺の記憶が正しければ、この階層で遭遇するのは・・・いや、記憶とか、何言ってるんだ俺は」
「ッ!ユート様、あれを!」
エスペリアが指差す先、そこには氷付けの巨人がいた。
元から氷付けなのか、それとも誰かにやられたのか、見事にカチンカチンだった。
そのせいか、辺りは冷気に包まれている。
「(あれ?確か、炎の巨人だった気がするけど)」
いつの間にか形成された記憶をたどる。
そうしている間に、エスペリアはその巨人を調べていた。
「ユート様、どうやらこれは炎の巨人で、誰かに氷付けにされたようです」
俺はふむふむ、と頷いた。・・・って、何でそんな事判るんだろう。
まあこういうのは調べれば判ると言う常識程度においておくことにした。
「待てよ・・・?」
「ユート様、どうかしましたか?」
「いや、もしそうだとしたらさ、誰がやったのかな・・・って」
こんな化け物を相手にできて、完膚なきまでに氷付けにできて、今このダンジョンにいる人物。
そんな奴は俺たちの知る限り一人しかいなかった。
「・・・・・・もしかして、アセリアが?」
「・・・多分、ね」
それはつまり、アセリアがここを通ったということだ。
近くにいないかと思って気配を探るが、神剣の気配は『全く』感じなかった。
「・・・あれ?」
『契約者よ、どうやらこの空間ではその能力は使えないようだ』
「マジかよ・・・」
どおりで、隣にいるエスペリアの『献身』すら感じ取れないわけだ。
「まあ、とりあえず先に進むか」
「・・・そうですね」
俺たちは巨人を無視して先に進むことにした。その時・・・
ガッシャーン!バリバリバリ・・・
後ろから何かが砕け散る音が響く。
嫌な予感をつもらせながら後ろを振り向くと・・・!
モンスターが現れた!
「グウオオオオオォォォォォ・・・・・・!!」
「・・・へ?」
「・・・はい?」
俺たちは同時にあっけに取られた。(おそらく)アセリアの魔法の効果が切れてしまったのだ。
記憶とエスペリアの推測どおり、そいつは炎の巨人だった。
「お、おいおいおいおい!!」
泣いてもわめいてもタイミングが悪いと抗議してもゲームバランスが悪いと叫んでもしょうがなかった。
「ど、どうしましょう!?」
流石にこんなの相手ではさしものエスペリアもびびっている。
「こんなの相手にしていられるか!逃げるぞ!!」
俺たちは逃げ出した!
炎の巨人は思ったより動きが鈍かった。
神剣の力を使って思いっきりダッシュしたおかげで、難を逃れることができた。
第2階層はほぼ一本道だった。そのおかげか、俺たちの逃げた先には下り階段があった。
「・・・ま、進むしかないんだろうな」
「はぁ、はぁ・・・そうですね」
俺たちは躊躇することも無く階段を下りていった。
─ LEVEL 3 ─
もう、この脳裏に浮かぶ奇妙なテロップにも慣れた。そう思っていると・・・
「きゃあああああぁぁぁぁ~~~!!」
「!?」
どこからともなく黄色い悲鳴が響き渡る。
アセリアやオルファの身に何かあったのではないか、もしそうなら、急いで助けに行かねば!
「エスペリア!行くぞ!!」
「は、はい!」
俺たちは、悲鳴のした方向へ走る。しばらく走っていると、
開けた部屋に、魔法使いらしい老婆が立っていた。
というより、とんがり帽子に、真っ黒なローブ。360°どっからどう見ても魔法使いだった。
「なんじゃね、あんたたちは」
俺たちは呆然としていた。まさかとは思うが、さっきの悲鳴の主はこの老婆だったのか?
一瞬で浮かんだのはそれだけだった。
「あ、あの~」
「なんじゃい!あたしの邪魔しようってんならただじゃおかないよ!」
老婆は杖をこちらに向けている。いつ火の玉が飛んできてもおかしくなかった。
「い、いえ!滅相もありません!」
「い、いやあの、そんなことより、今の悲鳴が何だったか知りませんか?」
「ああ、あれかい」
俺の質問を聞くなり、老婆は笑いながら話し出した。
「ひゃひゃひゃ、あれはね、あたしが新しい魔法の実験をしているときに、あのバカ娘。
突然部屋に入ってきおってからに、直撃食らっちゃったのさ。まだそのへんにいるんじゃないのかい?」
そういわれると、俺たちはきょろきょろと辺りを見渡すが、誰もいなかった。
「どこにいるんだ?」
「ほら、あれだよ」
老婆が杖で指した先には、長い触角で、黒い、台所に良く出る『アレ』がいた。
「な、なんだってぇ~!?」
「あたしの新しい魔法ってのはね、対象の姿をその対象にふさわしい別の生き物に変える魔法なんだよ
よっぽど似合ってるのかね~、ひゃひゃひゃひゃ」
・・・俺はエスペリアの方を向くが、どうやら『アレ』には近づきたくないらしい。
仕方ないと思い、俺は意を決して『アレ』に話しかけた。
「あの~もしもし、娘さん?」
俺の呼びかけが聞こえるなり、『アレ』が話しかけてきた。
『ゆ、ユート様!?』
「・・・え?」
どうして『アレ』が俺の名前を知っているんだ。
いや、知り合いがこうなっちゃったってことも考えられるか。
「君は誰だい?どうして俺の名前を・・・」
『わ、私です!へ、ヘリオンですよぅ~!!』
「な、なんだってぇ~!?」
二度目の大驚愕。
まさか、こんな変わり果てた姿で会うことになろうとは。
「・・・嘘だよな?」
『う、嘘なんてつきませんよぅ~!早く助けてください~!!』
必死に呼びかけてくる『アレ』。
俺は、便宜上、この生物を『Gヘリオン』とすることにした。
それにしても、ヘリオンは『アレ』の姿が良く似合うとは。やばい、すごく笑える。
「ぷっ・・・くくく、は、はは、ははははは!!」
「く、く、ふふ、ぷふふふふ・・・」
俺とエスペリアは同時に吹き出す。笑わずにいられなかった。
『わ、笑わないでください~!ふ、ふえぇ~ん!』
対照的にGヘリオンはわんわんと泣き出す。まあこんな姿になったんじゃ、死んでも死に切れないだろう。
「わ、悪い悪い。な、なんとかするからさ」
『お願いしますよぅ~』
「・・・で、元に戻す方法は?」
俺は老婆に尋ねる。すると、老婆は難しい顔をして答えた。
「ある。でも、ただじゃないよ」
「何か必要なものでも?」
「そうだね、そっちの緑のアンタをあたしにくれたら、元に戻してやるよ」
「な、なに!?」
それはつまり、ヘリオンの回復と引き換えにエスペリアを失うということだった。
老婆はニヤニヤした顔でこちらを見ている。くそ、虫唾が走る。
「大丈夫ですよ、ユート様」
「・・・へ?」
そういうと、エスペリアは一歩前に踏み出して言った。
「そのかわり、先にヘリオンを治してあげてください」
「ああ、いいとも」
交渉成立。老婆は杖を掲げ、むにゃむにゃと呪文を唱え始めた。
「⊿↑◯ΘЦ〆☆@γ∞~!」
ボウンッ!
突然、Gヘリオンをスモークが包む。
そのスモークが晴れると、そこには見慣れた顔があった。
「ユート様ぁ!」
どうやら、元の姿に戻ったらしい。ああ、よかったなあ。あのままでも十分面白かったけど。
「ほんじゃ、約束どおり、こいつは戴くよ」
「エスペリア!」
その呼びかけに応えてはくれなかった。
エスペリアは無言で老婆の方に歩み寄る。老婆の手がエスペリアに触れようとしたその刹那。
「・・・させません!」
「な、なに!?」
シュッ!どすっ
エスペリアは老婆の後ろに素早く回りこみ、的確な手刀を一閃させた。
そして、老婆は白目を剥いて気絶したのだった。
俺たちは、その光景をあんぐりと大口を開けて眺めているしかなかった。
ちゃっちゃら~ちゃらららら~
老魔法使いをやっつけた!
と、またもやどこからともなく謎の効果音が響く。
一体何なんだこれは、と思っていると、エスペリアは老婆の荷物から『失望』を取り戻し、
それをヘリオンに渡す。何でそこにあること知ってんだ。
「さあ、先に進みましょう。ユート様」
ぽんぽんと手の汚れを払って、エスペリアはいつもの笑顔を俺たちに見せる。
だが、今このときは、その笑顔が死神の微笑みに見えてしまっていた。
「・・・・・・あ、ああ」
「え、エスペリアさん・・・怖いです」
俺たちは目を点にし、後頭部に汗をたらしながら、さらに奥へと進んでいった。
進んでいる途中、俺は気になったことをヘリオンに尋ねる。
「そういえばさ、なんでヘリオンがここに?」
「あ、えっと~、地下倉庫に調味料を取りに行こうと思って入ったら、こんなことになってしまって・・・」
「やっぱり、地下倉庫ですか・・・」
「へ?もしかして、ゆ、ユート様たちもですか?」
「ああ、そうなんだ。とはいっても、先に入ったアセリアとオルファを助けるためだけど」
「そ、そうなんですか~」
察するに、第二詰所にもダンジョンの入り口が開いているようだ。
おそらく、1階のあの袋小路が、第二詰所からの入り口なのだろう。
「まてよ、ということは・・・」
俺たちはアセリアたちを追って入った。
つまり同じ理由で、芋づる式にスピリット隊のメンバーが続々と入ってくる可能性があった。
「・・・こりゃ、謎を解くまでは脱出できないな」
俺は深いため息をついた。何でこんなことになったんだ?
しばらく進むと、また下り階段。
もうどうでもいいや。さっさと行こう。
─ LEVEL 4 ─
階段を下りると、一気に広い空間に出た。そこには、無数の扉が並んでいた。
そして、その部屋の中心には、俺たちの探している人がいた。
「アセリア!オルファ!」
「ユート!」
「あっ!パパ~!!」
アセリアはいつも通りの冷静な顔だったが、オルファは涙目だった。
入ったら出られないようなところに来ちゃったんだから無理も無いけど。
「さ、寂しかったよぅ~、う、うえええぇぇ~ん!」
「おお、よしよし」
俺の胸を借りて泣き出すオルファ。とりあえずなだめてやることにした。
オルファの頭を撫でる俺を尻目に、エスペリアはアセリアに話しかける。
「アセリア、一体何をしているのですか?」
「エスペリア、これ見ろ」
アセリアが薄い石畳をどけると、そこには文字の刻まれた石板があった。
「あの~これって、なんですか?」
「こう書いてあるぞ。『5人の勇者がそろうとき、汝らは知恵と勇気を試される』って」
反射的に辺りを見る。
俺と、アセリア、エスペリア、オルファ、ヘリオン・・・・・・役者はそろっていた。
「知恵と勇気を試される・・・ですか」
「なぞなぞでもするんでしょうか~?」
「オルファ、なぞなぞなら得意だよ♪」
果てしなく楽観的な解釈。だが、このノリなら何が出てきてもおかしくなかった。
すると・・・・・・
『はっはっはっはっ・・・・・・』
どこからともなく、低い声が響く。
おそらく、この声が今回の事件の首謀者、あるいはその守護者<しもべ>なのだろう。
『ようやく5人そろったようだな。2人しかいなくて寂しかったぞ』
「はあ、そうですか」
思ったよりこの守護者は寂しがりらしい。
『とりあえず、不思議のスピリットの館へようこそ。とでも言っておこうか』
「名前、そのまんまかよ!」
思わず俺は突っ込みを入れる。すると、突っ込みを返された。
『何を言う。お前が最初にこのダンジョンに名前をつけたのではないか?』
「え?ああ・・・いや、あれは(仮)ってやつだ」
『それでも嬉しかったぞ。ずっと名前が無くて寂しかったのだ』
「・・・・・・はぁ」
『ごほん、それでは本題に入ろうか』
知恵と勇気を試される・・・この愉快な守護者の口から、どんな試練が飛び出すのだろうか。
ゴクリ・・・・・・俺は固唾を飲んだ。
『周りの無数の扉のうち、正しい扉はひとつだけ。それ以外はハズレだ』
なんという月並みな設定。まあダンジョンってのはこういうものなのだろう。
「は、外れると、どうなるんですか~?」
ヘリオンは怯えるように質問した。すると、守護者は即答する。
『開けた者にとって一番嫌なことが起こる』
「そ、そんなのヤダぁ~!」
涙目&大声で抗議するオルファ。オルファの一番嫌なことって一体・・・?
まあそれは別の話にしておこう。
『それが嫌なら正しい扉を開けることだ』
「ですが、こんなに多くの扉からひとつだけというのは、理不尽すぎませんか?」
まるでゲームバランスが悪いと言うように反論するエスペリア。
『そこでだ、お前たちにチャンスをやろう。もしそれに成功したら、正しい扉を教えよう』
「なんだ、それ」
『これから我がお前たちに関する質問をする。それを一人ずつ、五回正解したら合格だ。
言っておくが相談は禁止だぞ』
「ちょっとまった。その質問に正しく答えなかったら?」
ふむ、という具合に罰を考えている守護者。少しの沈黙の後、守護者は答えた。
『命をとるようなことはせん。だが、正しくない場合、一枚ずつ服を脱いでもらおうか』
です!!」
だ?」
「何を考えてるんだ~!!」
のよぅ!!」
ですかぁ~!!」
俺たちは同時に突っ込みを入れる。前半部分がハモっていい感じだ。
・・・・・・って感動している場合じゃない!
「そ、そんなのいやです!」
と、ヘリオンは抗議する。が、守護者は冷静に答えた。
『お前たちに関する質問だと言ったろう。正直に答えればいいだけの話だ』
さっきまで愉快キャラだったくせに、突然真理を語る守護者。
「ま、まあ、正直になりゃいいんだよな」
「そうだぞユート。正直が一番だ」
・・・なんで俺に振るんだ。
『では始めようか。まずはお前だ、ユート』
「え?いきなり俺?」
俺はあっけにとられていると、守護者は質問を始める。
『お前の妹のかぶっている帽子、それは何の動物がモデルだ?』
佳織のかぶっている帽子?それってあの不気味な『ナポリタン』とかいうやつか。
たしか、アレのモデルになっているのは・・・
「・・・ウサギだ!」
俺は堂々と答えた。
ぶっぶ~
な、何故だ!?確かにアレはウサギだったはず!
『この世界にはそんな動物はいないぞ』
この守護者はあくまでこの世界に準じているようだ。だが、こんなところで醜態を晒すわけにはいかない!
「あのな、ウサギは俺の世界に実在する動物だ!!」
『ならば正解だ』
ぴんぽんぴんぽ~ん
どこからともなく正解音が響いてきた。・・・・・・危ない危ない。
「(それにしても、随分と適当な正解基準だな・・・)」
『では次は・・・エスペリア、お前だ』
「は、はい」
俺は少し心配だった。
あんな罰を思いつくくらいだから、俺以外にはとんでもない質問をするんじゃないかと。
『エスペリア、お前のスリーサイズはいくつだ?上から順に答えよ』
「~~!!」
・・・・・・ほら来た。とんだセクハラ守護者だった。
「そ、それは、えっと・・・」
『言えぬのか?ならば服を脱いでもらおう』
「う、うう、わ、わかりました・・・」
エスペリアは、顔を真っ赤にして蚊の泣くような声で答え始める。
「う、上から86、57、87です・・・」
ぴんぽんぴんぽ~ん
『うむ、よく言った。なかなか良い体と勇気だ』
エスペリアにとってはちっともうれしくないだろう。俺は少しうれしかったが。
なるほど、そんなスタイルだったんだな。
エスペリアが戻ってくるなり、守護者は次の指名をする。
『次は・・・そうだな、オルファリル。お前だ』
「変なこと聞いたら嫌いになっちゃうからね!」
『う、うむ』
一瞬、守護者が躊躇したように思えた。セクハラと同時にロリコンでもあるらしい。
『オルファリル、お前の飼っているエヒグゥの色は何色だった?』
・・・そう来たか。
確か、ハクゥテの色は、オルファの好きなネネの実と同じ色、ピンク色のはず。
「ハクゥテの色?それだったら、ネネの実と同じ色だよ♪」
オルファは正直に答えた。それでいいはずだけど。
『いや、だからその色は何色だと』
「ネネの実の色はネネの実の色なの!!」
守護者が反論を終える前に、オルファはびしっと主張する。
『そ、そうか、わかった。正解だ』
ぴんぽんぴんぽ~ん
「やったぁ♪」
この守護者は幼女に弱い、か。よく覚えておこう。
オルファが笑顔で戻ってくると、守護者は次の指名を始めた。
『次は、ヘリオン。お前だ』
「は、はいっ!」
ヘリオンにはどういう質問が来るのだろうか。
普段は別々の所で生活しているだけに、俺は興味津々だった。
『ヘリオン、お前の片想いの相手は誰だ?』
「え、ええぇ!?」
藪から棒に何を聞くのやらこの守護者は。
そういうことは女の子にとって、スリーサイズ以上のタブーのような気がする。
だが、ヘリオンが誰に片想いしているのかは俺も知りたかった。
「はうぅ・・・そ、それは・・・い、言えませんっ!!」
『それならば、服を脱ぐことになるぞ。お前の場合、一撃で下着姿になるようだが』
「~~~~!!!」
ヘリオンは顔を真っ赤にしておろおろしている。
「こ、こうなったら~、最後の手段ですっ!」
・・・何をする気なんだ?そう思っていると、
ヒュッ
風が俺の横を通り過ぎたような気がした。だがその瞬間、ヘリオンは俺の視界から消えていた。
「あ、あれ?」
「ゆ、ユート様!ご、ごめんなさいっ!!」
ヘリオンの声が後ろからしたと思って、後ろを振り向こうとするが、時すでに遅し。
どがっ
「あ、が・・・」
『失望』による全力のこもったみねうちが俺の脇腹に食い込む。
程なく、俺の意識は闇の中に吸い込まれていくのだった。
『求め』のアシストがあるおかげで、俺はすぐに目を覚ました。
だが、そのときはもうヘリオンに対する質問は終わっていた。
「な、何が起こったんだ・・・?」
「ユート様、あなたは罪な人ですね・・・」
「パパ♪大丈夫だよ!オルファ、応援してるから!」
何を言ってるのやら。とりあえず俺は立ち上がった。
「それより、ヘリオンは何て・・・」
「い、言わないでください!!」
よっぽど恥ずかしかったのか、力一杯隠そうとするヘリオン。
そこまで言うなら、俺はこれ以上は追及しないことにした。
「ボソ・・・ユート様、鈍すぎます」
「ボソ・・・気絶させて正解だったね♪」
エスペリアとオルファの冷たい視線が刺さる。いったいなんだっていうんだ。
『さて、最後はアセリア、お前だ』
「ん、そうか」
最後ぐらい、まともな質問で締めくくって欲しいものだ。
どんな質問が来るのか、と思っていると・・・
『アセリア、今のお前の下着は何色だ?』
・・・こいつは、どうやら最後までセクハラ根性全開で行くらしい。
実体があるなら、今すぐにでも叩き斬ってやりたかった。
・・・・・・だが、そこはあまり物事を深く考えないアセリアだった。
「下着の色か?なら白だ」
きっぱり、見事な即答。いくらなんでも即答はないだろ・・・俺は勝手にそう思っていた。
ぴんぽんぴんぽ~ん
『・・・・・・即答とは、参った。お前には恥じらいとかそういうのは無いのか?』
「ハジライって、何だ?なくちゃいけないのか?」
『・・・いや、なんでもない。我が悪かった』
流石のセクハラ守護者もアセリアには敵わなかったか。
『よし、約束どおり、正解の扉を教えてやろう』
「・・・やれやれ」
守護者がなにやら呪文を唱える。やっとのことで先に進めるのだ。
がこんっ!
鈍い音が部屋中に響く。その瞬間俺たちは足場の感覚を無くした。
「「「「「!!」」」」」
『正解の扉は、お前たちの足元の石畳だ。健闘を祈るぞ』
「勝手に言ってろ・・・うわあああぁぁぁ~~!!」
俺たちは奈落の底へダイブしていった。
─ LEVEL 27 ─
「・・・・・・って、いきなり27階かよ!?」
「・・・ここまで、長い道のりでした」
「そうですね~」
エスペリアとヘリオンは、まるでさっきのことが昔のことのように言う。
「いよいよ、この先にお宝があるんだね♪」
「ん、そうだな」
・・・お宝?そんなもんあったのか?
というか、いつのまにかみんなの目的がお宝になっていた。
本当は脱出することが目的だったはずだけど・・・?
「多分、この階層のどこかに、宝の入った箱があるはずだ」
「さっそく探しましょう!」
俺たちは、27階を捜索することにした。
最後の階層というだけあって、かなり広い。しばらく捜索していると、開けた部屋に人影があった。
「!?あれは・・・」
「スピリット、ですね・・・」
そのスピリットは漆黒のウィングハイロウを展開している。
その光のない瞳からは、強烈な殺気だけが放たれていた。
キイイィィン・・・
一気にハイロウを広げたかと思うと、そこからオーラフォトンに酷似した光線が何本も放たれる。
ズドドドドーン!
「うわあっ!」
「!」
「はうぅっ!」
俺たちは間一髪でそれをかわす。光線が当たった壁は大きく抉れていた。
まともに食らえば即行でハイペリア行き決定だろう。
「くそっ!こんなところでやられてたまるか!」
「そうだよ!こんなやつ、やっつけちゃえ!」
おそらくこいつが最後のボスなのだろう。
今まで遭遇してきた奴と比べると桁違いの強さだ。
スピリットは、もう一度オーラ光線を放とうとハイロウを広げた。
「そうは、させない!」
アセリアはアイスバニッシャーを放つ。
瞬時にハイロウが凍りつき、スピリットは動きを止めた。
「今だっ!」
俺はオーラフォトンを展開し、力任せに斬りかかるが、防御障壁に止められてしまった。
「くっ・・・!」
「こちらにもいます!」
いつのまにか回り込んでいたエスペリアが音速突きを繰り出す。
流石に後ろまでは障壁は張れなかったが、微妙な体の動きで全てかわしたのだった。
「~っ!」
「動きを封じます!アイアンメイデン!」
ヘリオンの魔法によって無数の針が突き出し、スピリットの動きを止めると、
その後ろでオルファが魔法の詠唱をし終えた。
「これなら!いっけええぇぇ!アポカリプス!」
ドッゴーン!
雷炎が辺りを薙ぎ払う。その炎は防御障壁を貫き、完全に直撃した。
空間に砂埃が舞う。何も見えなかった。
「・・・やったか!?」
「いえ、まだです!」
そのスピリットは、服装こそボロボロになっていたが、まるでダメージは受けていなかった。
「な、なんて強さだ!」
唖然としていると、スピリットは神剣に力を集中させる。
「や、やばいッ!」
カッ!
スピリットは神剣を一閃させる。俺たちの視界は白い爆発に包まれた。
「ぐ、くそ・・・体が・・・」
その爆発の威力はすさまじかった。範囲が広かったため致命傷には至らなかったが、
それでもかなりのダメージを受けてしまった。
俺は周りを見渡す。さっきまで勇壮に戦っていた少女たちは地に臥していた。
「アセリア・・・エスペリア・・・オルファ・・・ヘリオン・・・!くっ!」
「・・・とどめだ」
心無きスピリットはそうつぶやく。体が動かない。ここまでなのか・・・!
キイイイィィィン・・・
頭の中で『求め』の干渉音が響く。
『契約者よ、諦めるな!汝は、まだ力を使い切っていない!』
「(俺の・・・ちから・・・?)」
なにか、心の中にかかっていたものが解き放たれていく。
そのうち、俺のあらゆるもののリミッターが解除されていることに気がついた。
「!!」
力強いオーラフォトンを放つ俺を見て、スピリットは驚愕の表情を浮かべる。
俺は、その一瞬の隙を見逃さなかった。
「うおおおぉぉぉ・・・!!」
ドシュッ・・・!
手ごたえはあった。現に、俺の目の前には、体を切り裂かれた黒い翼のスピリット。
ぐらり、とスピリットは倒れ、金色のマナの霧へと姿を変えていった。
俺はオーラフォトンを閉じる。そして、倒れている仲間のもとに駆け寄った。
「みんな!大丈夫か!?」
俺が声をかけると、苦しそうではあったが、みんな返事をしてくれた。
「ん・・・くぅ」
「は、はい・・・なんとか」
「パパぁ・・・痛いよぉ・・・」
「ゆ、ユート様こそ、大丈夫ですか~?」
「ああ、俺は大丈夫・・・少し、休むか」
俺の提案にみんなは頷く。
壁に寄りかかって休んでいると、どこからともなく声が響いてきた。
『はっはっはっはっ・・・・・・よくぞ宝の番人を倒せたな』
「お、お前はさっきのセクハラ守護者!」
『せ、セクハラって言うな!それに我は守護者ではない!』
必死で否定しようとするが、その言葉からは説得力の欠片も見出すことはできない。
「何の用だ。お前の出番は4階で終わったはずだろうが」
『ふふふ・・・お前たちは、どうしてこんなことになったか、知りたくは無いか?』
「どういう・・・ことですか」
どうやらコイツはとんでもない秘密を持っているらしい。おそらく宝もコイツの手の中だ。
『まず・・・我はこのダンジョンを司る者ではなく・・・ダンジョンそのものだ』
「・・・ふぇ?」
間の抜けた反応をするヘリオン。早い話、俺たちは終始コイツの腹の中にいたってわけだ。
『ふふふ・・・驚きを隠せないようだな』
「そんなの、当たり前だよ!」
と、オルファ。すると、ダンジョンは嬉しそうに、さらに言葉を続けた。
『そうだろうそうだろう。そしてだ、なぜお前たちの住処に来てしまったかというと、
お前たちに本当の幸せと言うものを実感させてやるためだ』
「本当の・・・しあわせ?」
『そう・・・そして、お前たちが探している宝はここにある』
ダンジョンがそう言うと、さっきスピリットがいたところから台がせり上がってきた。
その台の上には、豪華な装飾が施された箱があった。
『さあ、この箱を思い切って開けるがよい!』
俺は少し慎重になっていた。こんなうまい話があるはずが無い。
この宝箱にだって、なにか罠が仕掛けられているに違いない!
「・・・というわけで、誰か罠を見つけて解除してくれ」
そこにいた全員が首を横に振った。俺に対して懇願の目で見ている。
「・・・わかった。俺が開けりゃいいんだろ」
俺はすぐに離脱できるように、オーラフォトンを展開し、慎重に箱を開けた。
幸い、何も罠はかかっていなかった。
爆発したり石弓の矢が飛んできたり、最悪、石の中にワープしてしまうのではないかと思っていただけに、
思いっきり拍子抜けしてしまった。
その箱からはゆったりとした、優しいメロディーが流れ始める。
「これは・・・オルゴールか」
『ふふふ・・・いい曲だろう。恋人にプロポーズするときにかけると効果覿面だぞ』
「ああ、そうですか」
それで振られちゃ元も子もない気がするけど、俺はあえて反論しなかった。
「ね~ね~、もしかしてこれがお宝なの?」
『そうだが』
「ちょっと、期待はずれですね」
オルファとエスペリアがなにやら文句を言う。
やはりお宝というからには、巨万の富のようなものを想像していたのだろう。
『全く、欲張りな奴らだな。その音楽以外にお前たちは何を望むのだ』
「で、でも、私はいい曲だと思いますっ!」
「そうだな、なんか、気持ちいい・・・」
逆に、ヘリオンとアセリアは幸せそうな顔をしていた。元々この二人にはあまり欲は無い。
俺は、しっかりとオルゴールを手にした。
『幸せがお前たちを待っている・・・さあ、在るべき場所へ帰るが良い』
ダンジョンがそう言うと、俺たちは光に包まれ、全ての感覚を失った。
「う、う~ん」
気がつくと、俺たちは見覚えのある床を見つめていた。
「こ、ここは・・・」
ようやく視力が戻ってくる。そこは、俺たちの生活の中心、館の食卓だった。
「あれ?オルファたち、戻ってきたの?」
「そ、そうみたいですね」
「なんか、いいにおい・・・」
アセリアがそう言うと、俺たちは周りをきょろきょろと見渡す。
テーブルの上を見ると、そこには、美味しそうな料理が所狭しと並んでいた。
ぐきゅうううぅぅ・・・
それを見た瞬間、俺を含めた全員の腹が一斉に悲鳴を上げる。
「そういえば、夕食、まだでした・・・」
「オルファ、もうおなかペコペコぉ~」
「ん、ごはん・・・」
「ゆ、ユート様ぁ・・・おなかすきましたぁ・・・」
しかし、誰がこんなに沢山の料理を用意したのか、俺はそれが疑問だった。
窓からの景色を見る限り、真っ暗ではあるが、第一詰所であることがわかる。
ちなみにウルカは今哨戒任務でここにはいない。いたとしても作りはしない。
「まあ、いいか。じゃあ飯にしようぜ」
俺たちはそれぞれの席(ヘリオンはウルカの席)に座り、食事をすることにした。
「「「「「いっただきま~す!!」」」」」
その時食べた料理は、今まで食べたどんな料理よりも美味しかった。
そのテーブルについていた者全員が、そう感じていた。
食事を終えた後、俺たちはあの地下倉庫に向かった。
しかし、そのときにはもう、そこは元の地下倉庫に戻っていたのだった。
「あれ?無いな・・・」
「夢だったのでしょうか?」
全員が同じ夢を見るはずが無い。
それに、俺はしっかりと覚えている。突然ダンジョンと化した地下室での数々の冒険を。
よわっちいゴブリンに、氷付けの炎の巨人。
G化してしまったヘリオンに、エスペリアにはったおされた魔法老婆。
セクハラな質問ばかりをしてくる、ロリコンなダンジョン。
そして、俺が切り裂いた強力なスピリット・・・
「!?」
俺は反射的に走り出し、食卓に戻る。
俺が倒れていた場所には、見覚えのある箱が置いてあった。
「ユート様、それは・・・」
俺はその箱を開ける。
その夜、ゆったりとした、優しいメロディーが館中を包み、俺たちを癒したのであった────