「いやーイイ湯だったぜ」 
仏道にあるまじき茶色の短髪をマロリガン以来愛用のタオルで拭きつつ、光陰は風呂場の引き戸をガラリと引いた。 
ホカホカに暖まった体に“天然炭酸水使用ネネの実ジュース”を流し込み、喉を潤す。 
「プハァ。いやまさかこの世界で炭酸が飲めるとは」 
なんでも、ラキオスがだいぶ前に版図に加えた山岳地帯で採れる鉱泉を使用しているらしい。いわゆる微炭酸なのが惜しい。 
そんなわけで、瓶をあおりながら廊下から中庭に降りて涼んでいると、光陰の耳に、廊下を歩いてくる娘っこ達の声が聞こえてきた。 
ネリーちゃんシアーちゃんヘリオンちゃんオルファちゃん……お、ニムントールちゃんもいるぞ、と壁に張り付いて耳を澄ませていると、 
「ねーシアー」 
「なにネリ~」 
「誰かお風呂はいってたのかな?」 
「あっコウインさまが入ってたみたいですよ」 
「げっ」 
「げ~」 
「最悪」 
「あはは~」 
――――な、なんだよおい。
「み、皆さんそういう反応はコウインさまに失礼ですよ」 
「だってねーイヤだもんねシアー?」 
「うん。や~」 
――――ネ、ネリーちゃんシアーちゃん。
「オルファもちょっと。さすがにね~」
――――オルファちゃん。君までっ。
「ニムも。死ぬ程ヤ」
――――そ、そんな、ニムントールちゃん。
「ヘリオンはどうなのさ」 
「さ~?」 
「そ、それは~」 
――――ヘリオンちゃんっ! 君は違うよな! な! 君だけが俺の蜘蛛の糸なんだっ!!
「それは、まぁその~、か、歓迎は出来ないかなぁ~とは思いますけどぉ~」
――――うわーーーーーーーーーーーーん。ダダダダダッッ
「で、いきなり俺の部屋に飛び込んできて何がしたいんだ?」 
恥も外聞もなく、涙をぼろぼろ零す一応親友に冷たい目を向けながら悠人はしょうがなく理由を聞いてみた。 
「お、おれ、おれ…………俺は、あ、あくまでさ ヒグ 気のおけない仲って奴をスムーズに作り出すためにだな、グス  
ス、スキンシップのつもりに過ぎなかったんだよお~」 
「またバカやったか」 
「だ、だってさ ズズッ あ、あんな、みんなしてばい菌みたいに……そりゃセクハラ紛いかも知れないけど、何もここまで…………あんまりだぁ~~」 
ここまで取り乱す光陰というのもなかなかお目にかかれるものではない。 
悠人はなんとか宥めすかしながら、光陰エンガチョイベントの一部始終(光陰視点)を聞き取るミッションに挑むのであった。 
そして、場所は風呂場脱衣所。 
「コウインさまが入ったあとってさ、熱すぎなんだよね」 
「ヒート風呂アっちっち~」 
「オルファ熱いの好きだけど、ねぇ……」 
「ヘリオン、さっさとうめてきて。ニムが入れるわけないんだから」 
「えぇっ、私がですか。あ、あのわかりましたよぅ~」 
再び、悠人の部屋。 
実は悠人自身が、光陰と一緒に風呂に入るのには辟易していたので、あっさり彼女たちが何を言っていたのか分かってしまった。 
(ま、今日子に黒焦げにされるよりも堪えてるみたいだし。たまにはこういうのもいいだろう) 
男泣きに泣く光陰に、味気ない相づちを打つだけの結構酷い仕打ちの悠人であった。