目が覚めたら、まだ真っ暗だった。
それでも、上半身だけ起して窓のカーテンを少しめくってみる。 
窓の向こうでは、星空がだんだんと白くなっていった。 
ずっと長く見ていたのかな、日が昇り始めるまでその様子を見ていた。 
すぐ横からは、ネリーの寝息と寝言が聞こえる。 
「シアー…それ…ちょうだい、ムニャ…すぴー…」
そんな平和な、自分の双子のお姉ちゃんの様子に思わず笑みがこぼれる。 
本当の双子じゃないのは、お互いにわかってる。 
だけど…シアーたちだって何かが欲しい。 
ずっと信じていける、不確かだけれど暖かい何かが。 
こんな、終わりの見えない戦争で自分も誰かも…いつ死ぬかわからない時代だから。
カーテンから少し漏れる、まだ弱い朝の陽射しに部屋が少し照らされる。 
まだ薄暗いけど、ネリーの寝顔がだんだん見えてくる。 
昼間は活発だけれど、寝顔だけは何処かのお姫様みたいだね…ネリーお姉ちゃん。 
ポニーテールを解いた長い青い髪が、余計に昼間と全然違うように見せる。 
そのネリーの髪を、起さないようにそうっと撫ぜてみる。 
いつも思うんだけど、ネリーって毛並みがいいし綺麗なんだよね。
毛並みがいいとか言うと、まるで小動物か何かみたいだけれど。 
ネリー自身は気がついてないみたいけど、シアーは誰のよりもネリーの髪が綺麗だと思う。 
動き辛いとか言って、ポニーテールで隠してしまってるけどね。 
そうしてしばらく、ネリーの髪を撫ぜたり指をくしみたいにしてすいたりしてたら。 
きゅっ、とネリーがシアーの身体に両手をまわして抱きついてきた。 
シアーは上半身を起してて、ネリーは真横で寝てる状態だから腰に抱きつくカタチ。 
ネリーったら、寝顔が幸せそうに笑ってる。 
大好きなネリーの髪を撫ぜながらも、ネリーの抱きつく暖かさがここちよくて。 
ふと、ネリーと目があう。 
なあんだ、ネリー起きてるじゃない…。 
そう言おうとしたら、またネリーは目をきゅっとつむって更に抱きついてくる。 
しょうがないなぁ、とくすりと笑いながらネリーの髪をくすぐる。 
ぷっ☆
不必要なまでに可愛らしい音で、もともと静かだった部屋に、更に沈黙が走る。 
さっきまでのは暖かい静けさだったけど、今の静けさはなんかイヤな静けさ。 
そうっと、掛け布団をめくろうとすると…ネリーが腕を掴んで止めようとする。 
でも、シアー自慢の年少組一の腕力で強引にそのままめくってみる。 
くさッ!
このくささは、あきらかにオナラのくささ! 
鼻をつまんで、掛け布団をばたばたとめくって臭いを追い出す。 
「ネリーって時々こうなんだから、まったく~!」
そう文句を言うと、恥ずかしさで真っ赤だったネリーの顔がムッとなる。 
口をとがらせたネリーに、両頬を両手でぐにーっと引っ張られる。 
「シアーだって寝てる最中にオナラしたりするじゃないっ!ネリーのよりくさいしっ!」
あんだとこんにゃろう、そう来るならシアーだってやり返すんだからっ。 
そっちがほっぺなら、こっちは鼻に指をつっこんでやるんだから! 
「ネリーなんか、寝相が悪くて時々シアーに頭突きしたりするじゃないっ!」
首を左右にふって、パワーでネリーの細い手を両頬から引き剥がして言い返す。 
こっちもムッとしてるので、いつもより自分の口調がとがってる。 
ネリーは何か言おうとしてるけど、鼻の穴二つとも指を突っ込まれてるので出来ない。 
シアーの勝利、と思ったらイキナリ両腕で胸を掴まれる。 
って、なんかヘンな事してるーっ!?
慌ててネリーの鼻から指を抜いて、妖しい触り方を繰り返す両腕を払って自分の胸を隠す。
「腕力とパワーじゃ確かに勝てないけど、器用さとテクニックならネリーの勝ちぃ♪」
ベッドの上にあぐらかいて腕組みするネリーに、真っ赤になりながら涙目で文句を言う。
「ネリーそれ、器用さでもテクニックでもないっ絶対に~!」
そうしてきゃいきゃい言ったり、じゃれたりしてたら…。
「…朝っぱらから、何を騒いでるの」
その一言で、寸分たがわず同時に二人とも動きが止まる。 
シアーもネリーも、この世でもっとも恐れる人物の絶対零度の声。 
二人同時にごくりと唾を飲み込み、油のきれた人形の関節みたいにギギギと振り向く。 
やっぱり、セリアがいた。 
顔は微笑んでるけど、目が笑ってないし口を引きつらせてるし額に青スジ浮かんでるしっ! 
「二人とも、ベッドから降りて横に整列しなさい。…今すぐ」
慌ててベッドから二人絡まりながら降りて、セリアの言うとおりにする。
「よろしい、じゃあ私と一緒に正座。それから、食事の時間までお話しましょう」
床に直に正座するのは痛いよう、お説教も長いよう~。 
セリアも直に正座してるのに何で平気なの、どうして小言のネタがいつも尽きないの~。 
それからしばらくたって、訓練場でネリーと一緒に一休みしてた時。 
オルファから聞いたんだけど、ユート様とコウイン様も似たような目にあってたそう。 
ユート様とコウイン様の相手は、エスペリアお姉ちゃんなんだけれど。 
そういえば…コウイン様、時々ユート様の部屋によく遊びに行くんだよね。 
それでそのまま夜中過ぎまで「オトコタチノダンギ」とやらで盛り上がるらしい。 
寝ないで今朝まで盛り上がってたら、盛り上がりすぎて暴れて第一詰め所を破壊して。 
…龍のオーラをまとったエスペリアお姉ちゃんに、えらい目にあわされたそう。 
それで今、エスペリアお姉ちゃんの監視下で破壊した箇所の修理をしてるという事だった。 
こんな、終わりの見えない戦争で自分も誰かも…いつ死ぬかわからない時代だけど。 
それでもせめて、願ってもいいよね…? 
生きたい…って。