ハリ&ヘリオン劇場No2

「てやあああああ!!」
カッ、カッ、カン!
ヘリオンは訓練師のミュラーを相手に連続して残撃を打ち込むが、涼しい顔をしてすべて受け止められている。
今は訓練中なので木刀を使っているが、当たれば相当なダメージ・・・少なくとも骨は折れるだろう。
永遠神剣を持たなくとも常に戦場に身を置く彼女たちは人間よりよほど強い。
しかし、ミュラーの能力と経験は圧倒的にヘリオンを凌駕していた。
カッ!
木刀同士がぶつかり、そのまま止まる。力と力のぶつかりあいだ。
ヘリオンはそのまま木刀に力を込めて押し出そうとする・・・が
ミュラーは流れるような動きで体を右に寄せ、木刀から力を抜いた。
ヘリオンは相手も力を込めているものとして突っ込んでいったものだからいきなり肩透かしを食らったようなものだ。
そのまま体ごと前に流れていってしまった。
ドガッ
「うぐっ!」
そして、ミュラーはその隙を見逃さない。前のめりになって体制を崩したヘリオンの脇腹に膝蹴りを食らわした。
そのまま床をゴロゴロとしばらくの間のた打ち回る。
「全く・・・ヘリオン、あんたの太刀筋はあまりにも素直すぎる。ブラックスピリットはもっとトリッキーな動きが要求されるんだ。」
「は・・・はい!ミュラー様、もう一本お願いします!」
何とか木刀を杖に立ち上がろうとする・・・が、ダメージが大きいのは確かで、たっているのがやっとであるのは一目瞭然だ。
「いい返事だ。でもな、ヘリオン。もうレベルは上がってるだろうからこれ以上の練習は無意味だ。」
「で・・・でも!」
「練習熱心なのはいいことだ。だがな、休息と練習を同様にとってこそ、練習の効果ってもんが出るんだ。
 今は休むべきなんだよ、ヘリオン。」
「・・・わかりました」
そういうと、ヘリオンはその場にへたり込んだ。
「全く、その熱心さは置いてきた私の弟子にそっくりだよ」
(そういや急いで出てきたもんだから食料2日分しか用意してなかったが・・・まぁ生きてるだろ。あの子は弱い子じゃないからな)
ミュラーはサバイバルかつスパルタな先生であった。

周りを見渡すと、同じターン内に訓練をしている人が二人いることを思い出した。
一人はウルカ、ヘリオンにとって憧れの人物である。
かっこよく、強く、早く、スタイルもよく、美人で、それでいて後輩の面倒見もよく、ソゥ・ユートからも信頼も厚い。
ヘリオンは将来、あんな風なブラックスピリットになりたいと思っていた。
しかし、そんな憧れは今日の練習を見てしまえば一発でぶっ飛ぶほどの代物だった。
100年の憧れも一瞬で覚めてしまうような悪夢が展開されていた。
ウルカを担当しているのはガンダリオン。老体ながら情熱あふれる指導が有名なのだが
「ぬおおおおお!!腕立て1000回ぃぃぃぃ!!!!」
あの体から出されているとは思えないほどの大声で叫び
「うおおおおおおおお!!!ラキオスのスピードは世界一ぃぃぃぃぃ!!!!」
もはやバターになるのではないかと思えるほどの速さでピストン運動を繰り返すウルカ。
訓練師ガンダリオン。彼は戦術や理論より、基礎体力と根性を重視する古いタイプの人間であった。
そしてウルカ、彼女は己の限界を超え、強くなるためにはすべてをやり遂げるスピリットであった。
「ぬぅぅぅぅぅん!!次は素振り1万回ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「どりゃどりゃどりゃどりゃどりゃどりゃど(ry」

ヘリオンは思った。
こいつら少しおかしいのではないのか、と。
バトルマニアじゃないのか、と。
頭のネジが1ダースほどはずれてるのではないのか、と・・・。

もう一人訓練しているのは・・・ヘリオンはさらに周りを見渡すと、そこにイオが地面にしゃがんでいた。
イオの前にはよく見るグリーンスピリット、ヘリオンと1字しか違わないが中身も外見も大幅に違うハリオンがいる。
・・・のはいいのだが、仰向けになって大の字を描いている。
すでにイオに伸されてしまったのだろうか?
イオはかがんでハリオンの体をゆする。
「起きてくださいハリオン様。もうすぐ訓練の時間が終わってしまいます」
「ん~・・・・眠いですぅ~」
・・・彼女は寝ていた。もはや完膚なきまでに。
「結構大きいですね~・・・スヤスヤ」
ふにふに
「んっ・・・寝ながら無意識で胸を揉まないで下さい。それにあなたのほうが大きいと思いますが」
「ふぁ・・・・あれ~、イオ様、おはようございます~」
やっと起きた・・・でも、もうすぐでターンが明けて、訓練の時間は終わる。
ここままだとレベルが上がらないんじゃないのだろうか?
「ハリオン様、ヘリオン様とウルカ様に回復魔法を」
「はぁい。キュア~」
寝起きだからだろうか、普段からのほほんとした声がさらに間延びしている・・・、回復効果のほかに睡眠効果もありそうだ。
しかし、それでもヘリオンの傷を癒し、体力を回復する。
本当に回復魔法が得意なんだろうなぁ、と感心するヘリオンだった。
「あ、レベルが上がったみたいです~」
「えぇ!?」
思わず声を上げてしまったヘリオン。
それもそうだろう、彼女が訓練時間中、ほとんど休み無しで特訓していたのに対し、
ほとんどの時間を睡眠に費やして回復魔法1回でレベル上がるって・・・
「おめでとうございますハリオン様。」
そう言ってパチパチと手を叩くイオ。疑問に思わないあたり何かハリオンに通じるものがありそうだ。

10分後。
ヘリオンがまだ腑に落ちないでいると、エスペリアが入ってきた。
「みなさんお疲れ様です。」
そういうとエスペリアは訓練師から受け取った報告書に目を通す。
「まずは・・・ヘリオン。レベルが上がりました、日々精進です」
この言い回しは毎回変わらない。ひそかにお気に入りのようだ。
見ていた紙を渡す。
「はい、ウルカ。レベルが上がりました。日々精進です。」
ウルカも
「ハリオン、レベルが上がりました。日々精進です。」
ハリオンも・・・ヘリオンは納得はいかないが、ちゃんとレベルが上がったらしい。
「あぁ、それと、ヨーティア様からより詳しく成長の記録が取りたいとのことですので、今までのより項目が多くなっています。
 ちゃんと全部に眼を通しておくように」
エスペリアは最後に一言付け加えて、訓練所をあとにした。

ヘリオンは早速もらった紙に眼を通した。
・攻撃力2アップ 防御力1アップ 抵抗値2アップ
・ダークインパクトを覚えました。
ここまではいつもとかわらない・・・が、次からの項目が増えていた。
身長や体重など、いつ測定したのかと聞きたくなるようなことが大量に書かれていた。
その中の一つを見た瞬間、ヘリオンは凍りついた。

・バスト -0,1cm(ハイペリア換算)

何が?胸が?どういうこと?何故に?なんで小さくなってるの!・・・・
「ど・・・どういうことなんですか!?」
喉がからからになり、必死の思いで体のそこから叫んだ言葉は自分でも驚くほどの大声だった。
ハイロゥを展開し、彼女は走り出した。理由を聞くために。
「ちょ・・・ちょっとまってください!」
ブラックスピリット特有の驚異的なスピードを生かし、柱にぶつかりそうになるもそれをも足場にし
さらに加速をしていく。ギリギリのところで詰め所に戻ろうとしていたエスペリアに追いついた。
「ど・・・どうしたのヘリオン!?」
「ハァハァ・・・こ・・・このバスト-0.1cmってなんですか!?何で小さくなってるんですか!」
「え・・・あ・・・ごめんなさい。実は今日から導入されたものだから私にも詳しくは・・・」
「エスペリアさんもわからないなんて・・・誰か・・・誰かこれを説明してくれる人はいないんですか!」
ぽん、と肩を叩かれた。
「手前が説明しよう。」
「あ・・・あなたは(バトルマニアの)ウルカさん!」
驚異的なスピードで飛び出していったヘリオンをウルカが心配して追ってきていたのである。

「ヘリオン殿、ブラックスピリットにとって最も大切なこととは何かわりますか?」
「スピード・・・ですか?」
「そう、手前たちブラックスピリットの最大の武器は他のスピリットを凌駕するスピード。」
「でも、それが胸の大きさと何の関係があるんですか!」
「胸が大きいとそれだけ空気抵抗が少なくなる。その分、スピードが増す、ということ。
 ・・・ヘリオン殿、手前の成長記録表を。手前も胸は小さくなっている。」
そういってウルカはヘリオンに自分の持っていた紙を渡した。
そこには・・・

・バスト-0.01cm

「私の10分の1しか小さくなってないじゃないですかぁ!」
「そう、つまりヘリオン殿にはブラックスピリットとしての才能が手前の10倍のあるということ・・・正直うらやましい」
ウルカはため息をつくと、その大きな胸が少し上下に揺れた。
(もはや嫌がらせじゃないんですか?ウルカさん・・・)
ふと、ヘリオンは嫌なことを思い出した。

た・・・た・・・た・・・
(そういえば最近ブラが少しぶかぶかになっていたような・・・)
たゆ・・たゆ・・たゆ・・
(うう・・・ユート様は胸の大きい女性と小さい女性、どっちが好きなんでしょうか・・・?)
たゆんたゆんたゆんたゆん
(やっぱり大きい人のほうが・・・でもコウイン様の話だと胸の小さい人を好む男性もいらっしゃるとか・・・)
「ふぅ~、やっと追いつきました~」
「うわぁ!ハリオンさん!びっくりさせないで下さい!!」
「あら~、面白い顔してどうしたんですか~?」
このときヘリオンは悲しみを顔の右半分、驚きを左半分で表していた。
通常の人間がやればおそらく顔の筋肉が引きつるであろう表情だがスピリットならできる・・・ものなのか?

「ふむふむ・・・なるほど~、困りましたね~」
ヘリオンはハリオンに事情を概ね話すと全く困ってない声で対応された。
「それじゃあ私が大きくしてあげますね~」
「え・・・どうや・・・きゃう!」
「ん~、小さいですけどなかなかいい感触です~」
ハリオンはヘリオンの胸を揉み出したのである。
「や・・・やめてください・・・んあっ!」
「ふふふ~、イオ様も私に毎日もまれることによって大きくなったんですよ~」
「うっそ、まじで!?」
「ウソです~」
「ふぇ?うぅぅ~」
ヘリオンはハリオンを振りほどいた。

「あ・・・そういえば・・・ハリオンさんのレベルアップの紙を見せてもらっていいですか?」
「はい、ど~ぞ~」
そういってハリオンは自分の持っていた紙を渡した。その紙は何故か胸の谷間に挟んであったのだが。
(こいつも嫌がらせかよコンチクショウ)
「巨乳キャラのたしなみですから~」
「かってに心の中読まないで下さい!」
その紙を見て真っ先に探した項目はもちろんあれである。

・バスト +0.1cm

「ふぇえええええええええええええええええええええええ!?」
「ん~、うるさいですよ~。大きい声出したらめっ、です~」
「ななななんなんなんなんなんなんなん」
「ナンはインドのパンです~、ナン専用の釜のタンドールで作るから実は結構な高級品で~、一般家庭ではチャパテ」
「そんなことはどうでもいいですから!なんで胸が大きくなってるんですか!」
「あらあら~、せっかくカオリ様に聞いたハイペリアの料理の知識をご披露したかったのに~」
(だめだ・・・ハリオンさんじゃ埒が開かない!誰かこの状況を説明できる人は・・・・!)
ぽん、と肩を叩かれた。
「手前が説明しよう。」
「あ・・・あなたは(バトルおたくの)ウルカさん!」
「グリーンスピリットに最も大切なもの・・・わかりますか?」
「えっと・・・防御力ですか?」
「そう、防御力。だから彼女たちは急所である心臓を守るために胸が大きくならねばならない。」
「でも・・・ハリオンさんがこれ以上大きくなったら・・・」
「ハリオン殿もエスペリア殿も、クォーリン殿も胸が大きい。
 胸が大きいことはグリーンスピリットのシンボルのようなもの。」
「うぅ・・・私もグリーンに生まれたかった・・・」
「そのうちニムントール殿も先輩のグリーンスピリットのような立派な胸を持ちましょう。」
「そんな・・・ニムにまで!ニムにまでっ!!シアーに抜かれたと思ったらニムにまでっ!?」
目から出せる限界量の滝涙を流しながらヘリオンは限界を超えた速度で飛び去っていった。
「ヘリオン殿あんな速度で・・・手前も精進せねば」
「お姉さんも嬉しいです~(化け物なんて言ったからあとでめっです~)」

ぎぃ
「失礼します。本ターンにおけるレベルアップしたスピリットの報告書を持ってまいりました。」
「おおぅ~、ご苦労様。」
イオから渡された書類を渡され、ぱらぱらとめくっているのは自他共に認める変人天才、ヨーティア
「・・・ん?なんだこれ」
「どうかなされましたか?」
「ヘリオン マインド-50?・・・何があったんだ?」
「さぁ・・・そのマインドの報告は訓練の後で報告されたものですが・・・」
「まぁ、あの子の事だ。ボンクラがらみでなんかあったんだろ。ほっときゃいいさ。」
珍しく天才様の考えは外れていた。

それから数週間後・・・
「あの・・・トキミ様」
「どうしました?ヘリオン」
「わっ、私をレベル1までタイムシフトしてくださいっ!」
「は?」
そんな願いもちろんかなうことはなかった。

~fin~