「任務完了っ……と」
一つの世界が終わる際に放出される、膨大なマナの奔流を亜空間から眺めながら、
ロウエターナルの高嶺悠人は疲れたようにお決まりの台詞を口にした。
進化の極限まで達したその世界の住人は、退廃的な自滅願望に侵されていた。
その中で、一人の狂った科学者が全宇宙を巻き添えに自爆しようと禁断の兵器を作動させたのだ。
この、エターナルと比べてさえあまりにも圧倒的な破滅のエネルギーを喰い止めるには、
この世界自体を盾にするしかなかったのだ。
元々生きることに熱心でなかったその世界の住人たちは、諾々と運命を受け入れ世界と共にマナに還っていった。
――およそ最も理想的な形での、『任務』の完了であった。
皮肉な思いで自嘲気味に、口元を歪め、ため息をつく。 と、背後に気配が現れた。
「ご苦労様、ユート」
「テムか。 ……いや、今回は割と楽な方だったからな」
雪のように白い髪と同じ色の法衣に身を包んだ幼い少女。
だが、その正体は齢数千年を重ねる魔女、永遠神剣第二位『秩序』を持つ『法王テムオリン』である。
悠人にとっては大先輩であり、直属の上司であり、そして愛人でもあった。
彼女はふわりと空間を越えると、悠人の首に両腕を回し、唇を重ねた。
「そろそろエターナルの仕事には慣れまして?」
「……あんまり慣れたくも無いけどな」
苦笑気味に肩をすくめ、口づけを返す。
ロウエターナルの任務はとにかくマナを集めること。 その為に世界を破壊すること。
高嶺悠人の戦績は今回を含め、単独で7、共同で16。 新米にしては驚異的なスコアである、らしい。
有能だが性格に(かなり)問題アリなテムオリンの愛人だったりすることもあり、
いろいろな意味で両陣営から注目される、ロウ陣営期待の新人なのであった。
二人並んで帰還する姿は(一見)微笑ましく映る。
「タキオスさんはどうしてる?」
「彼ならメダリオたちを率いて、前線で他のエターナルを統率してますわ」
悠人と同じくテムオリン直属の部下である『黒き刃のタキオス』。
曲者ぞろいのテムオリンチームの中にあって、数少ない常識人である彼と悠人は、結構仲が良い。
同じ大剣使いということもあり、ちょくちょく剣の手合わせをしたりしている。 ちなみに悠人の全敗である。
流石に愚直なまでに一つの技を昇華させ続けているだけあって、剣のみの真っ向勝負では全く歯が立たない。
「ああ、カオスの横槍が入ったところか。 テムはいなくて大丈夫なのか?」
「ええ。 時深の姿も見えませんし、あの程度の小競り合いなら彼らだけでも問題無いでしょう。
しばらくはお互いに自由時間ですわ。 うふふふ……」
「……そっちが本音か。 公私混同も程々にな」
もっとも連中もこの程度のことには慣れているだろうが、と、心の中で付け足す。
テムオリンは(見た目だけは)無邪気な少女そのままで悠人の周りを跳ね回る。
「ふふふふふ……、知ったこっちゃありませんわ。 本当にご無沙汰してましたもの、今夜は寝かせませんわよ」
「嫌だ」
「即答?! 何故ですのっ?!」
「お前とすると死ぬ程疲れるんだよ。 なんつーかマインド-50くらい」
「そんなご無体な?! ああ……、そんな倦怠期の夫みたいなこと、おっしゃらないでくださいな」
「ああ、わかったわかった。 だけど触手は使用禁止だぞ」
言いながらその時のことを思い出し、悠人は軽く泣きが入った。
「なっ、触手も使わずに私に一体どんなプレイをしろと?!」
「プレイとか言うな。 いい加減、そのS気質改善しようよ……」
『何故か』と問われれば、ありきたりだが、『運命だから』と答えるしかないのだと思う。
小さな要因が重なった結果なのだろう。 例えば速攻でラキオス王と王女を謀殺したり(ついでに実権握ったり)、
次々に仲間が神剣に飲まれたり、誤って佳織を手にかけてしまったり、勢いで瞬や時深を撃破してしまったりetc…。
それは決して望んだ結果ではないが、それでも自分の意思で行ったことだ。
最善を尽くしたつもりで最悪の結果を叩き出し、それを経て現在は概ね、幸せ……なのだろう。
(見た目)小さな恋人の頭をなでながら、色々と感情の混じった苦笑を浮かべる。
永遠神剣第二位『世界』を手に、『統べし聖剣ユート』は今日も行く。