食卓は窓からさす柔らかい昼の日差しに照らされると共に、暖かい空気で満たされていた。
エスペリア・グリーンスピリットは食卓のテーブルに突っ伏して激しい頭痛に苛まれていた。
その頭痛は病気疾患及び体調不良によるものではなく、精神的ダメージによるものであった。
台所から、リズムよく響く料理を作る音と真心の伝わる美味しそうな匂いが来る。
エスペリア・グリーンスピリットはマリアナ海溝よりも深いため息を何度もついていた。
そのため息は恋煩いや仲間への心配などではなく、精神的ダメージによるものであった。
やがて台所から常日頃より彼女が心から信頼を寄せる、見慣れた人影が現れる。
「さあ、料理が出来たぞ!」
高嶺悠人は某キャ○テン翼のような嫌味なまでに爽やかな笑顔で料理を食卓に置いていく。
彼は今、エスペリアが普段まとう緑のメイド服をマッチョな肉体に着込んでいた。
続いて、緑光陰と秋月瞬とロティ・エイブリスも台所から料理を持って現れる。
彼らもまた、悠人と同じ様にエスペリアの緑のメイド服を笑顔で着込んでいた。
エスペリアは普段のメイド服ではなく、ラキオススピリット隊の一般制服を着ていた。
漢たちの着ている緑のメイド服から弾ける、鍛え上げられた筋肉が邪悪に眩しい。
事の発端は昨日…光陰がいつものように第二詰め所でハイ・ペリアの話をしていた時だった。
それは、誕生日というものがあるという事についてだった。
だがスピリットたちには明確な誕生日というものが無いようだった。
そこで、それぞれが転送されてからラキオスに引き取られた日を誕生日にする事になった。
そうなると話の流れで当然、早速誰かの誕生日を祝おうということになるわけで。
そして、たまたま家事の手伝いでそこにいたエスペリアの誕生日が明日だった。
「そうだな、エスペリアには世話になってるから…男たちで恩返しするよ」
この時点では、悠人の言葉には決して他意は無かった…とエスペリアは思いたかった。
ただ、悠人の好意が純粋に嬉しかった。
「ふむ、じゃあそれなりの準備をしなくてはいけないな」
この時点では、光陰の言葉には決して他意は無かった…とエスペリアは思いたかった。
ただ、クォーリンには悪いが光陰の存在が純粋にどうでもよかった。
「フン、話は聞かせてもらったぞ。
その女には別に義理も無いが、近頃とみに影が薄いから僕も手伝ってやる」
この時点では、瞬の言葉には決して他意は無かった…とエスペリアは思いたかった。
ただ、瞬がイキナリ壁をオーラフォトンで爆破して現れた事について問い詰めたかった。
「じゃあ、せっかくですから僕もお手伝いします。
なんだかんだで、僕もこうして前作の皆さんと競演してみたいわけですし」
この時点では、ロティの言葉には決して他意は無かった…とエスペリアは思いたかった。
ただ、何故かいたロティの何気ない仕草から香りたつヘタレ弟オーラによだれが出ていた。
光陰が言った、それなりの準備について深く考えなかったのが最大の間違いなのだろうか。
エスペリアはただ、家事をしながら時折聞こえてきた誕生日の料理の事だと思い込んでいた。
無理も無い、誰がどうしてこのような残酷な未来を予想できようか。
時深なら視えたのかもしれないが、折り悪くその時の彼女は年少組と誰より熱く遊んでいた。
脳裏に残っている、すーぱーあまてらす光線のエコー付き雄叫びが今更になって恨めしい。
まさか、光陰の密命を受けたクォーリンにより全ての彼女専用メイド服が盗まれるとは。
初めてまとったその時から、常に年齢にあわせてオーダーしてきた特注の緑のメイド服。
生まれついてよりメイドさん属性を備えた彼女にとっては、レーゾンデートル存在意義。
侵されざる聖域であるべきそれは、漢たちによって完璧に着こなされていた。
そしていつの間にか、先代ラキオス王やキード・キレとガンダリオンにソーマまでもいた。
無論、悠人たちと同じくエスペリア専用メイド服を笑顔でまとっていた。
だが、今のエスペリアにその事について追求する気力はもはや無かった。
ふと、窓に映る現在の自分の姿が目に入る。
いつものメイド服ではなく、第二詰め所の面々が着ているラキオス隊の戦闘服をまとう自分。
決して服が悪いとかではないのだが…それでも頬を一粒、涙が伝って落ちた。
泣きながら悠人たちの真心のこもった手作り料理を食べるエスペリア。
その涙を自分たちに都合よく好意的に解釈した漢たちも、もらい泣きしている。
その時、何のつもりだったのかエスペリア専用メイド服を着たクォーリンが入ってきて。
「何だか、胸はともかく腰というかお尻が凄くぶかぶかです…コウイン様」
その時だった、エスペリアの何故か持っていたべ○リットが血の涙を流し慟哭したのは。
蝕が起こり…贄は捧げられた。
その後の漢たちとラキオス隊と、そしてエスペリアの行方は誰も知らない。
-劇終-