再演のア&セリア子供劇場

アセリアとセリアは幼馴染です。
二人は物心ついた頃、一緒にエルスサーオに転送されてきました。
以来、遊ぶのもご飯を食べるのも訓練を受けるのも寝るのもいつもいつも一緒。
同じ青スピリットだったこともあり、二人は絵に描いたような仲良しさん……とはいきませんでした。
生まれた時から何を考えているかよく判らないアセリアはともかく、
セリアは何をやっても敵わないアセリアを密かに敵対視していました。いけませんね。

そんなある日のこと。
へとへとになって訓練から帰って来たセリアは、いつものようにまっすぐに食堂へと向かいました。
調理場にある、ちょっと背の高い戸棚。そこに、エスペリアお姉ちゃんがおやつを用意してくれているからです。
セリアは形成し始めたポーカーフェイスの影でいつもそれを密かにかつ絶大な楽しみにしていました。
こんなところにも素直になれないツンデレの気配が芽生えつつあるようです。

「……ん~~~~」
背伸びをして、やっと扉に触れる手がぷるぷると震えています。何だか必死もとい、一生懸命で微笑ましいですね。
後ろから見るとくびれた腰の真っ白な肌や太腿からお尻の端辺りが見え隠れしてしまっているのですが、全然平気。
成長期なので服の裾が短くなってしまっているのはしかたがありませんが、そろそろ恥じらいも覚えて貰いたいものです。
身を捩じらす度に擦り寄せられる太腿や揺れるポニーテールなどはその手の趣味の方には堪らないものですから。
そんなことはどうでもいいのですが、おやつ。それは子供にとって一日を乗り越えるための、魅惑に満ちた甘い宝石。
きゅぅ、と可愛く鳴ったお腹を癒してくれる、魔法のような宝箱。戸棚を開くとそこにはふんわり良い匂いが――――

「……あれ?」

しませんね、匂い。不思議そうに手をぱたぱたさせていますが、虚しく空を切っています。
ああ、神剣を突き刺してみるのはやめなさい。意味がない上、『熱病』が心底嫌そうな気配を放ってますから。

「む~~~」
ようやく諦めたのでしょうか、華奢な両腕を組み始めるセリア。
少し考え、きょろきょろと辺りを探し始めます。すぐに部屋の隅にあった椅子を見つけました。
「……ふふん♪」
そして得意げにそれを戸棚の前まで引き摺り、その上にジャンプ。
おお、するとどうでしょう。戸棚の扉がこんなに近くになったではありませんか。
これなら簡単に中の様子を窺えます。そうです、それが知恵というものです。
自分の頭の良さに満足したのか、あどけなく微笑み小さくガッツポーズ。大変よく出来ました。
……というか、最初からそうしなさい。バナナじゃないんだから。
ようやくサル並みの思考に追いついたようですね。セリアのLv.が上がりました。

「ん~……」
上手く安定しない椅子の上で、ニーソックスがふらふらとバランスを取っています。
きゅっと締まった脹脛が健康的な色気や訓練直後の芳香を醸し出したりしてるのは最早誘っているとしか思えません。
飛び跳ねた拍子に戸棚に軽く引っかけたままのスカートのせいで、水玉パンツが丸出しです。
まだノーブラなので、背中に貼り付いた戦闘服から紐とか透けて見えないのは不幸中の幸いでしょうか。
それでもじっとりと汗ばんだうなじとか、んっ、んっ、となにやら悩ましげな吐息を漏らしているのがどうしようもなくハァハァ

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「えいっ」
両手で元気に扉を開き直した後、戸棚をそろそろと覗き込みます。
中には大きな白い皿が、一枚だけ、ぽつん。後には全然何も完璧にありません。
「………………あれ?」
セリアは呆然としました。

皿は残っているので、エスペリアお姉ちゃんが用意し損ねた、というのはありえません。
というかそれはなるべく考えたくもありません。
どちらに転んでも自分にとってロクなことにならないのは充分に経験済みですから。
となると考えられるのは、さっき訓練途中でぱたぱたと空中滑空して行った何を考えているやら判らない幼馴染。
「…………アチェリア!」
興奮して、つい少し噛んじゃいました。
これもお姉ちゃんの教育の賜物でしょうか。まぁしかし、落ち着けと言っても無駄でしょう。
あまりにも短絡かつ直情的といえなくもないですが、子供の情報認識なんてこんなものです。セリアですし。
「……敵ね……どこっ!」
最早敵扱いですか。

そんな訳で、とりあえず確信犯を決め付けたセリアはその瞬間ハイロゥを広げ、食堂を飛び出していきました。
屋内で迂闊に広げたせいでエスペリアお姉ちゃんの大事な食器が乾いた嫌な音を響かせましたが、聞こえていません。
伸び始めたポニーが逆巻くほど逆上したまま『熱病』を使ってアセリアの気配を探り始めています。
なにせ、良くも悪くも腐れ縁。アセリアの気配くらいはすぐに掴める自信を密かに持っているのです。
実は、常にどうでも良さそうな気配を探ればいいのですから誰にでも追えるのですが、それはいいとして。
それより、そんなことに神剣の力を使わないように。
ああほら、簡単に『熱病』の意志に飲まれそうになって。舌舐めずりまでして、言わん事じゃない。

「ガルルルルル……」
どうみても獣です。本当にありがとうございました。


その頃。
訓練を抜け出したアセリアは、詰所と森に挟まれた狭い空間に、ひとりぽつん、としゃがみ込んでいました。
屈みこんでいるので正面から見ると水玉パンツ丸見えなのですが、当然この娘も気にしてません。
誰も見ていないとかそんな事ではなくて、なにせアセリアですから。
ああ、今気づきましたが、御揃いなのですね、パンツ。大変よく出来ました。

「……ん。美味しいか?」
おや? どうやらひとりではないようです。誰かに話しかけてますね。
よく見ると、小さい真っ白な生き物がうずくまっています。……エヒグゥ、のようです。
怪我をしているのでしょうか、逃げようともしません。
どころか、すんすんと鼻を鳴らしながらアセリアの股間に擦り寄ってます。
なんとうらやましもとい美しい光景でしょう。アセリアは、餌を与えていたのです。傷ついたエヒグゥに。
「そうか。これも食べるか?」
そうしてもう一個、焼きたてのヨフアルを差し出します。
その手をくぅ、と小さく鳴きながら舐めてくるエヒグゥに、くすぐったそうな表情で微笑む蒼い瞳。
そんなアセリアの仕草は、意外とかを通り越して最早驚愕と言っても過言ではありません。
こんな時期もあったのですか。いけませんね。

「…………ふんっ」
をや。建物の影に、いつの間にかセリアが立っています。
遠目にアセリアを見守って複雑そうな表情をしているあたり、どうやら神剣の強制からは逃れたようです。
一時はどうなることかとワクテカ……げふんげふん、無事自分を取り戻したようでなによりです。
出来れば口元の涎は拭って欲しいところですが、垂らしっぱなしもそれはそれで。

ん? 腰の小さなポケットを、何だかごそごそとやり始めましたね。
なんでしょう。そのままアセリアの方へと歩いていきます。
最初にエヒグゥがぴん、と耳を立て、それからアセリアが気づいて顔を上げました。
「セリア?」
「……ほら、これもあげて」
「…………ん。さんきゅ」
そうしてぶっきらぼうにセリアが差し出したものは、一個のヨフアル。
一瞬きょとん、としたアセリアでしたが、それを素直に受け取ってエヒグゥに与えます。
嬉しそうに啄ばむエヒグゥを挟み、穏かな蒼い瞳でそれを眺めている二人の少女。
森が優しく見守っています。柔らかく照らし出す木漏れ日。大変良く出来まし――――おっと。

危うく綺麗にまとまってしまいそうになりましたが、なんだか変ですね。
そうです、セリアです。一体そのヨフアルはどこから出したのでしょうか。
少し時間を巻き戻してみましょう。タイムシ(ry

「育ち盛りなんだから、しょうがないじゃない。うん」

なんということでしょう。
実は訓練前にこっそりアセリアの分を横取りしていたのです。ずるです。大ずるです。
どっかのおbsnもびっくりの反則設定ですね。澄ました顔して独り占め。
逆ギレし易い性格もここまでくれば筋金入りです。しかも恐らく決して確実に口を割らないでしょう。
今では自分を棚に上げて他人の突っ走る行動に難癖をつけてくる位ですが、むしろ大人しくなったのかも知れません。
しかしそんな恐ろしい裏事情をものともせず、見つめあう二人の背中には友情の二文字が。
女の娘はこうして胸に秘密を詰め込んで、ちょっぴり大人への階段を昇っていくのですね。うんうん。

「……今度はラナハナを持ってくる」
「……セリア、苦手だから」
「違うわよ……ばか」
そして二人は帰りました。いつの間にか仲良く手を繋いだりなんかして。
引きちぎられたままのスカートの裾から、お揃いの水玉パンツを風になびかせつつ。

ところでセリア、散乱した調理場は、どうエスペリアお姉ちゃんに言い訳するのかな?


今日「エスペリア、怒らなかったの?」
エス「え? え、ええ……」
ウル「む? いささか歯切れが悪いようですが」
エス「そ、そうですか?」
ナナ「怒らなかったのですか? それはある意味驚愕に値します」
今日「ナナルゥ、なにもそこまで」

ハリ「エスペリアさんにもぉ~、お話したくないことわぁ~、あるんですよ~」
今日「そうね。あんまり主題と関係ないし。ごめん、エスペリア」
エス「いいのです……どうせわたくしは汚れてますから」
今日「?」

ファ「なるほど、アセリアさんは優しいのですね」
ニム「……うん」
ネリ「へへ、セリアも優しい」
シア「お菓子……シアーもあげたかったなぁ」
悠人「へぇ……普段そっぽ向いてばっかりのくせに、意外だな」
光陰「ああ。一寸の虫にも五分の魂。アセリアに仏の御心を見た」
今日「微妙に言ってることが判んないわよ。褒めてるの?」
クォ「くす。コウイン様、照れていらっしゃるのですよね」
ウル「それはそれとして、美しいお話です」
オル「うん! アセリアお姉ちゃん、優し~」
アセ「…………ん」
ハリ「あらあら~。アセリアさんもぉ、照れてらっしゃいますぅ~」

ネリ「それでそれで、結局そのエヒグゥはどうなったの~?」
シア「の~?」
悠人「ああ、それは俺も興味あるな」
エス「あ、ちょっと」
アセ「ん。美味しかった」
ヘリ「ふぇっ?!」
悠人「…………」
ネリ「…………」
シア「…………」
光陰「…………誰が調理したんだ?」

セリ「……確かハーブを食い散らかされた事があって」
エス「あ、あれはその、そう、若気、若気の至りなのです!」
今日「至りって……」
ナナ「確かに食用ではありますが……私でもそれはどうかと思います」
セリ「あの頃は胃袋に入ってるなんて判らなくて……泣きながら探したっけ……」
ヘリ「セリアさん……なんでそんなに遠い目なんですかぁ」
アセ「ん。大切な思い出」
悠人「違うだろ」
アセ「違うのか?」
ウル「いえ、そこで手前に訊かれても……オルファ殿?」
オル「ぐずっ……うぇ、うぇぇぇ~」
ニム「あ~あ、泣かせちゃった」
ナナ「トラウマを著しく刺激されたようです」
ファ「あ、あはは、ニ、ニムほら、向こうへ行きましょう」
今日「……感心したあたしが馬鹿だったわ」
クォ「……甚だ不本意ですが、キョウコ様に同意です」
今日「どういう意味よ」
クォ「深い意味はありません」
ヒミ「ほら泣かないでオルファ。まったく、だから最後まで書かなかったのに」
アセ「ん? なんでだ?」
ヘリ「アセリアさん……ホントに判ってないんですね……」
ハリ「あのぉ~非常に言いにくいのですけどぉ~。今日のお夕食わぁ~」
悠人「うわああああ! 待て、言うな! それ以上は言わないでくれぇっ!」