どこでもない時の狭間… 
奇怪な光景が繰り広げられていた。 
「ふんふん…それで私にどうしろと?」 
「シュブ、クルァァァ」 
「しかし、トキミさんも気付いているようですし、あまり伸ばせませんわよ?」 
「クルッ、クラァァァシュ」 
「まぁ、それでは仕方ありませんわね……」 
「テムオリン様、何をおっしゃっているのか分からないのですが…」 
目玉の化け物と、幼女がなにやら相談し、屈強な黒い男がなんだかアレな目で見ている。 
「タキオス、分からなかったのですか? 
今は『エトランジェの活躍が順調すぎるため帝国派の解体と市場開放のスピードが速くなりすぎて 
市場の崩壊の恐れとその解決法』を話していたのですわよ?」 
「………(今のにそんな多くの意味がこもっていたのか?)」 
「シュブ!クルクル!」 
ントゥシトラもなにやら同意するかのようにうなずいて(?)いる。 
「なるほど、さすがテムオリン様です。して、その解決方法とは?」 
若干納得できていないタキオスだが、まぁ疑念はほっておくことにした。 
「エトランジェを2週間前後活動を止めさせる事にしました。というわけでタキオス、行ってきな……」 
そこで急に黙るテムオリン。しばらく彼女は黙った後…… 
「あなたを向かわせてもつまらないですわね。せっかく直接干渉するんですもの。もっとよい余興にしましょう」 
ニヤリ、と邪悪に笑ってタキオスに言った。 
「……どうなさるつもりですか?」 
「あなたの代理に、ちょっとしたものを送るだけです。サイズは25分の1にして…力を5000分の1にして…フフフ…」 
しばらく彼女の笑みが止まることはなかった。 
「ァアア!!」 
アセリアの一撃を受け、最後のスピリットが断末魔の叫びを残して霧散する。 
 「やったな」 
 「・・・ユートのおかげ」 
 アセリアの言葉に、悠人は小さく照れた。 
 俺とアセリアのコンビネーションも、なかなか様になってきたような気がする。 
スピリットを殺さねばならないことは嫌だが、それでも二人で成し遂げたことには達成感があった。 
「パパ~そっちは終わった~?」 
ふと声のするほうを向くと、オルファ達がいた。 
「ああ、もう今日はこれで終わりだな。みんなに戻るよう伝えるとするか。」 
「はい、ユート様。今日は遅くなっていることですし。」 
「よし、それじゃ……ってアセリアどうした?」 
アセリアが暗い森の奥をじっと見つめている。 
「ユート、変な音が聞こえる。」 
「変な音?」 
アセリアだけでなく、俺たち3人も耳を澄ませた。すると…… 
トゥルルルルルルル……… 
よく分からない、だがなぜか聞き覚えのある音が流れてきた。 
「パパ~何の音~?」 
「分からないな…でも、聞いたことがある気がする。もしかしたら何かあるのかもしれないな。 
エスペリア、オルファ。悪いけどみんなにもう一頑張りしてくれるよう言ってきてくれ。」 
「ユート様は?」 
「俺とアセリアで奥を調べてくる。」 
「…ん」 
「分かりました。急いでみんなを呼んできます。無理はなさらないで。」 
俺たち2人は森の中に入っていく。 
最初は耳をすませねば聞こえなかった音も少しずつはっきりと聞こえてきた。 
(やっぱり、聞いたことがある…!けど、いったいどこで?) 
トゥルルルルル……トゥルルルルルル…… 
「ユート、近い」 
「……ああ」 
気配を感じる。一番暗い影の中…何かオレンジに光るものがある。 
トゥルルルルルルルルルル…… 
はっきりと、ではないがシルエットが見えてきた。かなり、大きい。2mは軽くあるだろう。 
(やっぱりだ…見たことがある気がする) 
大まかな影にもかかわらず、はっきりと確信した。 
「……敵?」 
「いや、分からないな…皆が来るまで様子を見よ」 
いい終わるよりも早く、突然影が消えた。そして、 
「ユート、横!」 
アセリアの声で咄嗟に後ろに飛ぶ。さっきまで自分がいた場所の地面がなぎ払いで削られていた。 
ヒュン! 
もう次の瞬間にはアセリアはハイロウを展開し、影に攻撃を仕掛けていた。俺も「求め」を握り、アセリアを援護する。 
「マナよ、オーラへと姿を変えよ。我らに宿り、彼の者を薙ぎ払う力となれ!」 
ハイロウの輝きに加え、パッションを発動したことに昼間のように明るくなった。 
「!そんな嘘だろ…!?」 
思わず、我が目を疑った。光に照らされたその姿は…… 
一際映える真っ黒な体。悪魔の触覚を思わせる二本の角。全身の基本フォルムは人型だが、 
まるで機械のように無機質な体型。表情というものが全く存在しない顔。そして、あの奇妙な声…… 
「―――――ゼットン!?」 
彼、高嶺悠人も両親が死ぬまでは人並みと同じ家庭だった。アニメや絵本を読み、友達と走り回って… 
そのなかでも彼はウルトラマンが好きだった。銀色の40mの巨人。その闘いが。しかし、それも終わりが来る。 
最後、ウルトラマンはゼットンに負けてしまうのだ。人間が、人間の力で地球を守ることを教えるメッセージだったらしいが、 
当時の幼い子供にわかるはずもない。ただ、単にウルトラマンが負けたという事実が悲しくて泣いた。 
彼のヒーロー、ウルトラマンを倒した全宇宙最強の怪獣、ゼットン。それが今、テレビから離れ現実に――! 
アセリアの斬撃が無防備な頭に当たった。さらにリープアタック、インパルスブロウ、フューリーと 
上位スキルにつなげていき、全てが防御一つしないゼットンに叩き込まれる。 
「ZET……ON」 
が、ダメージは一切ない。妙な鳴き声を1つあげるだけ。 
「マナよ、我が求めに応じよ。一条の光となりて、彼の者どもを貫け!……アセリア!離れてくれ!」 
詠唱が終わる頃合を見て、アセリアに離れるよう促す。 
「オーラフォトンビームッ!!」 
白色の光線がゼットンに向かって飛ぶ。エトランジェのオーラの秘めたその一撃は、全てを砕く勢いだったが…… 
ゼットンは無言で、まるで倉庫の荷物を運ぶかのように、両手でぐいぐいとオーラフォトンビームを押していく。 
煙も火花も立たず、歩くスピードも姿勢も変わらず、ゆっくりと平然と。 
ゼットンが両手に光を灯して、その両手をゆっくりと上にあげた。 
見たことがある。はっきりとしたデジャヴ。その一撃はウルトラマンを倒したあの! 
「アセリア!避けろ!」 
ゼットンの両手が太陽のような閃光を放った。瞬間、空間が白く染まった。後ろからの圧倒的な光のため、 
体の前方に大きな影ができる。 
恐る恐る後ろを振り向く。 
「ッ!」 
絶句。直径5mはあろうかというクレーターができ、表面は溶岩となり泡立っていた。 
赤スピリットの神剣魔法とは比べ物にならない、圧倒的な熱量。 
「一時の静穏。マナよ、眠りの淵へと沈め。エーテルシンクッ!」 
「ZET…ON…」 
空中で宙返りし、氷塊をぶつけようとするが角柱のような輝くバリアが展開されて、まるで八つ裂き光輪のように砕け散る。 
「俺たち2人じゃ無理だ!引こう!」 
目の前の怪物…いや怪獣は間違いなくゼットンだと思い知った。 
何一つ通用しないなんて…!どうやって倒せばんだよ! 
しかし、その希望も打ち砕かれる。引こうとしていた俺たちの前に、突然ゼットンが現れた。 
瞬間移動――! 
思い出すころにはもう遅い。ゼットンの腕は俺の首へと伸びていた。大きな手はすっぽりと首を覆い、万力のように締め上げる。 
「が、あぁぁ!!」 
めきめきと嫌な音が首から聞こえてきた。アセリアが手首に向け攻撃しているが、何一つ効果がない。 
ブンッ! 
腕を動かさず、手首の力だけでゼットンが投げた。それにもかかわらず、ぶつかった木が折れ、背骨が悲鳴をあげる。 
もし、あのまま締められていたら……考えるだけでぞっとする。 
「ZET……OoooooN!!」 
ゼットンの顔の前に巨大な火球が形成される。間違いない、あれは一兆度の火炎弾! 
しかし、打ち出されることはなく、火球は顔の前ではじけた。収束されていた衝撃波が熱を孕んで生み出される。 
「バカ剣!耐えて見せろ!」 
限界の力でオーラフォトンバリアを作る。それでも吹き飛ばされそうな熱波が体を襲った。 
ものの2,3秒でしかない熱波。しかし、それは周囲を地獄に変えるにふさわしい威力をもっていた。 
木々が全て吹き飛び、大地は燃え、全ての生物をなぎ払った。 
「やっぱり…強すぎる!」 
倒れているアセリアへ駆け寄る。 
「…ゆ、ユート…私…じゃ…もう…!!」 
至近距離でアレをうけたせいか、アセリアは限界に近いと分かる。 
声を震わせながら、かざしている剣を必死に支えている。表情はあまりに辛そうだった。 
キィン…キィン…キィン… 
「!!」 
アセリアの永遠神剣から閃光が四方に放たれる。 同時に悠人の神剣からも光が漏れ始めた。 
戸惑ったようにしながら、【存在】を必死に押さえようとしているアセリア。 
『これは…まさかっ!?』 
「アセリア!共鳴だっ!!」 
俺は【求め】からも力が溢れていくのを感じた。それは【存在】の力と重なり、急激に増幅されていった。 
『剣を通じて、アセリアの鼓動が解る。永遠神剣の力…鼓動…死にたくないという思い…』 
キィイイイン… 
二人の全てが重なって、一つになる。 
『…これならっ!!』 
悠人はこれまでに感じたことのない力に、僅かな勝機を見いだす。 
『いや、相手はあのウルトラマンを倒した相手なんだ…!勝てなくてもいい・・・生き残れれば!!』 
「もっと共鳴させてみる!剣の振動に、俺の鼓動に合わせてくれ!!」 
アセリアに向かって叫ぶ。 
『一か八かだ…上手くいく保証も、どうにかなるという確信もない。だけど、生き残るにはこれに賭けるしかない!!』 
「…合わせる?…うん、やってみる」 
「頼むアセリア!ありったけの力をぶつけてやるんだ。二人の剣を完全に共鳴させれば!!」 
しかし、ゼットンもまた火球を作り始めた。 
「頼む!間に合え!」 
『ユート…私の力、全てを…ユートにっ!!』 
アセリアの声が悠人の心の中に直接響く。二人は精神を完全にリンクさせたのだ。その瞬間、途方もない力が満ちてゆく! 
「行くぞ!俺たちのマナを、全てをオーラフォトンに!」 
「「いっけぇぇぇええええ!!!」」 
そのまま飛び上がり、ゼットンの頭の上へ。そのまま一気に剣を振り下ろした! 
一兆度の火球ごと、ゼットンが真っ二つになる。しかし…… 
「なんだ!?」 
ゼットンが金色の粉に変わり、俺たちは金色の光に包まれていく。 
何がどうなったのかすらよく解らないままに、俺達は同時に意識を失った。