それは雨が続くホーコの月の、ぽっかりと晴れたある日の話。
純白のドレスが風に優しく踊り、たくさんの人々に祝福されて、なにより隣には愛する人。 
幸せだ。心から思う。 
隣に立つ夫の顔をそっと窺う。照れ臭そうに周囲の人々に手を振る姿に微笑みが自然に浮かぶ。 
その一瞬――― 
突然の強い風! 
慌ててドレスとヴェールを押さえる。が、その弾みで持っていたブーケが突風に拐われてしまった。 
青空に吸い込まれたブーケに、その場にいる全ての人の視線が集まる。 
そんな中―――女神が舞った。
一人のブルースピリット。彼女が翔んで、ブーケを取ってくれたのだ。 
青空に煌めく白い翼。その姿は神々しくさえあり、私は、いやその場の全ての人は見惚れてしまった。 
シン、と静まりかえった中、そっと私の前に彼女が降り立つ。 
静かに差し出されたブーケに私は手を伸ばし……止めた。 
キョトンとする彼女に、それは貴女に受け取って欲しいと告げる。 
彼女は暫し考えて、コクリと頷いてくれた。照れの混じった表情で。 
ブーケを手に、彼女は一度私たちに礼をしてその場を離れていった。周りからの祝福の声の理由が分からないようで、表情に困惑が浮かんでいる。 
彼女の向かう先には一人の男性。有名人だ。勇者・『求めのユート』。 
彼は慈しみの眼差しで彼女を迎えるとこちらに深く礼をしてくれた。 
私と夫は慌てて小さく手を振る。彼はもう一度頭を下げると彼女を伴って離れていった。 
その姿を見送りながら思う。 
花嫁のブーケは幸せのバトン。私のブーケを受け取ってくれた彼女がここに立つ時、隣にはきっと彼が寄り添っているのだろうと。 
花嫁のブーケは幸せのバトン。彼女はその時誰に幸せのバトンを渡すのだろうか。 
「ふふふ、奪い取っゲフンゲフン譲っていただいたドレスの仕立て直し(主にヒップ周り)は万全。まさに私のためにあるドレスです! 
 純白のヴェールは正に慎み深い私にぴったり。 
 純白の花のブーケは儚い雰囲気の私にぴったり。 
 なにより純白のドレスは清廉な私にぴったり! 
 ユート様! ヴェールにブーケにドレスは装着済みです。 
 さあ一言『結婚しよう』と言ってくださいませ!!!」 
「ウェディングドレスって綺麗だよね~」 
『ね~』 
「着てみたいよね~」 
『ね~』 
「あー、でもでもカオリが言うには花嫁以外がウェディングドレス着ると、一生結婚できないんだって」 
「えーっ、そーなのー!?」 
「怖いね~」