エロス

「はぁ…またコレか…」
自分ひとりだけの執務室で彼女は小さくため息を漏らした。
周りを見れば空の椅子が三つ。
この部屋の主たる上司の豪奢なのがひとつと、仕事を分担すべき相方が
座ってるはずの物がひとつ。
「それにしても、こんなに忙しかったかしら?」
呟きながら彼女は先刻のことを思い出していた。
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ガチャ、バタン!
「ヒミカぁ~、ヒミカぁ~」
ノックもしないで相方がドアを開け飛び込んでくる。
「ドアは静かに…」・「おそいわよ!!」
注意、抗議する二人をさえぎり彼女は続けた。
「ゴメンナサイですぅ~、でもでもコレにおいしいヨフアルのお店がぁ~」
相方の手に握られていたのは「タンラキ」…いや今は「タンガロ」の最新刊?
「おいしいヨフアル!?」
上司である少女がすばやく反応した。
「そうなんですよ~、焼き立てを売ってるらしくて~」
相方の返答にうなずきながら少女は目を輝かしながら宣言した。
「ヒミカ、ハリオン、私は市内の視察にでます」
「ハリオンは私の案内、もとい護衛を」
「ヒミカは引き続き今の仕事を行ってください」
反論する間もなく予定が変更されていく…。
「わかりましたぁ~、レスティーナ女王様~」
そして、少女は調子のいい返事をする相方とともに執務室を出て行ってしまった。
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「はぁ、頭が痛い…」
先刻のことを思い出し、彼女は頭を抱えた。
目の前には本来三人で片付けるべき書類の山。
ペンを手で回しながら、彼女は独り愚痴る。
「レスティーナ様に注意できる真面目なひとが欲しいわね…」
「真面目で、優しくて、起こるとちょっと怖い…」
「そうだ、今度のお話のヒロインに…」
「相手の主人公はちょっとぶっきらぼうな弟みたいなカンジで…」
「舞台は、ん~ハイペリアで…」
仕事の手は止まり、愚痴は彼女の趣味である小説の構想へ変化する。
「それで、ヒロインが主人公を支えて…」
「夜も彼女の方からで…」
「戸惑う彼に『私は汚れているのです』とかいって…」
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「そうね、名前はエ……」