はんぶんこ

錆臭い、血の匂い。
炎に焦がされる、草木の悲鳴。
巻き上がる風。搾り出される叫び。
何もかも、嫌なもの。それでも、ここに居る。
一緒に居なきゃ、いけないから。一緒に居なきゃ、護れないから。
「危ない! お姉ちゃんっ!」
咄嗟に張ったシールドが、囲まれたままのお姉ちゃんを何とか敵の刃から守る。
遠距離ともいえるここから放つ、ウィンドウィスパー。今、ニムに出来る精一杯。
「来ちゃ駄目! ニム!」
「っでも!」
「いいから!」
「…………う」
悲鳴のような命令に、踏み出しかけた足がピタリと止まる。
動かない。逆らえない。『曙光』を攻撃用に、構え直す事も許されない。
覆面の影でじっと見据えるような目は、いつもニムの方を向いている。
あんなに敵に囲まれているのに。追えないようなスピードで飛び回っているのに。

「――――ッッ!」
その時突然、お姉ちゃんの動きが鈍くなった。バランスを崩したように足を縺れさせる。
ウイングハイロゥを広げ、斜めに踏み出した足場でそれは起こった。
僅かな動揺だったけど、敵がそれを見逃す筈がない。一斉に、殺到してくる。
ブルースピリットの巨大な剣が猛烈な勢いで後ろから襲い掛かる。
竜巻のような空気の流れは、正面のレッドスピリットが唱える詠唱。
「――――危ないッッ!!」
流れた体勢に逆らわないよう地面すれすれにまで屈んだお姉ちゃんは、
跳ね上がりざまブルースピリットと剣を合わすつもりのようだけど、とても間に合わない。
「ハァッ!『曙光』よっ!」
一旦シールドハイロゥを解き、くん、と逆手に持ち替える。
すぐに呼応した『曙光』の刀身がマナを迸らせてその身を緑に輝かせた。
訓練どおり身体全体を弓のように撓らせ、その反動でレッドスピリットに照準を合わせ――――

「違う! ファーレーン、詠唱する敵だ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
「ッ! はいっ! てりゃああぁぁあっ!!」
突然視界に飛び込んできた、薄汚い羽織。そして黒い髪。
お姉ちゃんは咄嗟にその声に反応し、ブルースピリットを置き去りにして身体を捻る。
そのままレッドスピリットとの間合いを一瞬で詰め、次の瞬間には詠唱途中の敵をマナの霧へと変えていた。
そしてその間に、割って入ったユートがブルースピリットを圧倒的な神剣の位の差で吹き飛ばしてしまっている。
「…………ふう。大丈夫か、ファーレーン」
一度深呼吸をしたユートは、お姉ちゃんに振り向いてにっと笑いかけていた。

「はぁ、はぁ……え、ええ。ありがとうございました、……ユート様」
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、先程までの勇敢さはどこへやら、
もじもじと照れて両手の指を合わせながら、しどろもどろにそれでもちゃんと返事を返す。
ぺこり、と頭を下げた後の上目遣いの仕草なんて、見たことが無いほど嬉しそうで。
「いや、いいよ礼なんて。ファーレーンが居なかったら俺も神剣魔法を防ぎきれなかったかも知れないし」
「いいえ、ユート様が叫んで教えて下さらなかったら、わたしは彼女に気づきもしませんでした」
「ファーレーンが――――」
「いいえ、ユート様が――――」
二人のじれったい会話は続く。……ニムがこうして、『曙光』を構えたまま固まっているのに。
どこで降ろしていいのか、タイミングが掴めない。それに、何だか面白くなかった。
「ははっ、まあいいか――――ニムも無事で良かった」
「っっっっ!!」
突然思いついたように、ユートがこちらを見る。
つられたお姉ちゃんがあ、と小さく口を丸めた後、じろりと眉を顰めた。
「あ、そういえば……ニム? また攻撃しようとしてましたね、あれほどだめって言ったのに」
「~~~~し、してないっっ!」
「あ、ちょっと、待ちなさいニム!」
「ん? なんだ、どうしたんだニムの奴――――」

思わず、逃げ出していた。
脳裏をよぎるのは先程の、うっかり見惚れそうになった程の連携の良さ。
最近、ユートがやけにお姉ちゃんと仲が良いのは知っている。
戦闘で助け合うのも、神剣の位が近いのだから、仕方がないのだろう。
それでお姉ちゃんを護れる可能性が上がるのなら、ニムにも文句はない。

 ――――だけど、ニムだって。

「お姉ちゃんを、護れるんだから」
駆けながら、思う。もっと、強くなりたい。お姉ちゃんの隣に、いつでも立っていられる位に。

「あ、いたいた。お姉ちゃん、今日も一緒に訓練しよ――――」
いつもの昼下がり。いつもどおりの場所。
お姉ちゃんと、訓練をしている川のほとり。誰もめったに来ない、ニム達だけの場所。
「まぁ、そうなんですか……くすくすくす」
「ああ、それでアセリアの奴、料理に目覚めたのはいいんだけどさ――」
そこに、ユートが居た。お姉ちゃんと並んで草叢に腰掛けて。
思わず木の陰に隠れる。隠れてから、何でニムが隠れなきゃならないのかと腹が立った。
でも今更改めて出て行けるような雰囲気じゃない。
「でもユート様は、ちゃんと食べて上げたのですよね。お優しいです」
いつもの覆面も外し、楽しそうにころころと笑う。そんなお姉ちゃんは珍しい。
だから、良い事の筈なのに。なんでこんなに胸がズキズキと痛むんだろう。

「優しいっていうかさ。俺、妹がいるから。慣れてるんだよな、そういうの」
「ええ、判ります。わたしにも……ニムは、妹みたいなものですから」
「うん。だからさ、あるだろそういうの。はらはらしても、成長とか見守りたいのかもな」
「そうですね……ニムもまだ、戦場では危なっかし……あら?」
「ん? お、来たな…………って。おーい、ニム? ……おかしな奴だな、行っちまった。折角待ってたのに」
「すみません。無理を言ってニムの訓練相手をお願いしていたのに……後で良く言って聞かせますから」
「いいって。ファーレーンと話せて、楽しかったしな」
「え、え? そんな――――」
駆け足でその場を離れる途中、風に乗ってそんな会話が聞こえてきたけど、もう戻る気は無かった。

「お、ニムントールちゃん。どした?」
「――――クッ!」
ガスッ!!
「……グヘッッッ!」
曲がり角で、正面に立った邪魔な影を反射的に殴り倒した。
綺麗に決まったのか、尻餅をつきながら無精ひげの辺りをさすっている。
だけど、謝るより不快な気分の方が強い。このエトランジェは、何だか苦手だ。
「コ、コウインはあっち行け!」
「あ痛たた。おいおい、いきなり『曙光』はないだろう……ん? 泣いてるのか?」
「な、泣いてなんかない!」
言われて、慌ててごしごしと目元を擦る。少し痛いので、赤くなったかもしれない。
ふと、まだじっと見上げてくる視線を感じた。
「~~~なによ、あっちへ行けって言ったでしょ!」
「いや、なあ。ニムントールちゃんの攻撃、どうやら足にきてるみたいなんだ。起こしてくれないか?」
「――――ゔ」
痛い所を突かれたからか、ちょっとだけ冷静になれた。しぶしぶだけど、腕も伸ばす。
「お、さんきゅ」
「ゔ~~~」
「そう唸るなって……よっ」
手を握ったコウインは、しかし、全然ニムを引っ張るでもなく、軽々と立ち上がっていた。
あっけにとられていると、ぱんぱんと付いた埃を払い、にっと笑いかけてくる。
内心ちょっとびっくりした。その仕草が、あのユートにそっくりだったから。……全然似てないのに。

「あ~、驚いた。いやいや、ニムントールちゃんは強いなぁ」
「……自分で立てるんじゃない。ばっかじゃないの? 大げさ」
「お、言ったな。じゃあ証拠を見せよう。ほら、俺は今、『因果』を持っている」
そう言いながら見せる、大振りな格好悪い剣。でも、強い。
急に真面目な表情になったコウインが持つと、味方と判っていても、つい身構えてしまう。
「…………それで?」
「まあそんな目を細めずに聞けって。つまりだ、この『因果』ってやつは、常に俺を“加護”している訳だな」
「?…………あ」
「そう。一応エトランジェなんて大層な名前で呼ばれているこの俺の加護を、ニムントールちゃんは?」
「…………破った…………ほんとに?」
「おいおい、自分で言っておいて疑うなよ。なんなら御仏に誓ってもいいぜ」
「……ミホトケって、なに?」
「ああ、う~ん。そうだなぁ、じゃ、こういうのはどうだ? 再生の剣に誓ってってのは」
「あ……うん、それなら判る。……そっか、ほんとなんだ」
「そういう事だ。じゃ、話がついた所でこれからお茶でも――――ゴハッ!」
「あのさ、ありが……あれ? コウイン?」
悔しいけど、今回だけはお礼を言おう。苦手だけど。
そう思って顔を上げると、コウインはいつの間にか居なくなっていた。

「……アンタ、知ってたの?」
「おー痛て、もう少し力加減ってもんをだな……ん? 何の事だ?」
「とぼけちゃって、“加護”なんて出さなかったくせにさ。まぁ、ファーレーンが過保護なのは判るけど」
「……ああ。それで仲間外れだと思っちまうなら、ニムントールちゃんが可哀想だからな」
「でもいいの? これじゃあ、戦場でもっと危ない目に合うかも知れないわよ」
「そんときゃ悠人が何とかするさ。悠人がどうしようもなけりゃ、俺がいるしな」
「……ちょっと、カッコいいじゃない。珍しく」
「なにをいう。俺はいつでも格好良いぞ。今頃惚れ直すなんて遅いな今日子」
「はぁ~~。これが無けりゃねぇ……」


錆臭い、血の匂い。
炎に焦がされる、草木の悲鳴。
巻き上がる風。搾り出される叫び。
何もかも、嫌なもの。それでも、ここに居る。
一緒に居なきゃ、いけないから。一緒に居なきゃ、護れないから。
「ニム、来ちゃだめ!」
でも、今日は違う。いつもより、“積極的”に護る。もっと、お姉ちゃんの側で護る。
だってニムには、出来るんだから。ユートよりずっと上手く、出来るんだから。
「大丈夫……いっけぇぇっっ!!」
ひゅん、と唸りを上げながら手元を離れる『曙光』。
間を置かず、その剣先がザクゥ、と鈍く深い音を立てて敵の腹部に突き刺さる。
「――――グハッ!」
「……やった!」
放散した敵のマナが、『曙光』を通じてニムの中へと入ってくる。
湧き上がる、高揚感。全身が羽根のように軽い。いける、そう思って口元が緩んだ。

「いける……いける!!」
シールドハイロゥ全開のまま敵を大木へと磔にしている『曙光』に駆け寄り、
ぐい、と捻って力いっぱい薙ぐと、円形の刃がずぼりという奇妙な音を立てて肉を弾く。
滴る血がすぐに金色の輝きへと変わり、そしてそれも『曙光』が飲み込んだ。
「ふ……はは……ふふふ……」
膨れ上がる、『曙光』の力。何だか判らないけど笑いが止まらない。
誰かが後ろから気配も隠さず駆け寄ってくる。……ばればれだ。
そんなので、ふいを突いているつもりなんだろうか。今のニムをナメないで欲しい。

「――――そこっ!!」
「グッ!」
振り向きざまお姉ちゃんばりに身を屈み、そこから斜め上への打突。両手に伝わる肉の手ごたえ。
「……チッ」
でも、ざくりと貫いた部位は、予想を少し外した肩口だった。舌打ちしながら“敵”を確認する。
高い、やや仰け反った体。薄汚れた、余り見かけない羽織。硬そうな黒い髪。―――硬そうな、黒い髪?
「――――ユ、ユート……?」
「痛つつ……よ、ニム、気がついたか?」
「え? あ、あれ? ニム、一体……」
薄っすらと霧がかかったような頭で必死に整理する。
少し前からの記憶が無い。何だか気持ちが良くて、それから――――
「ニム! 早く、『曙光』を! ユート様から抜いてっ!!」
「え……お姉ちゃん? 抜くって……あ、ああっ!!」
血相を変えて駆け寄ってくるお姉ちゃんの声。
そこで初めて気がついた。ユートの肩口に、ざっくりと『曙光』の矛先が食い込んでいる事に。
慌てて引き抜くと、真っ赤に広がる視界。そこでニムはすっと気を失った。

「お~お~しっかしこりゃまた派手にやられたなぁ、悠人よ」
「てて……しょうがないだろ。あの場合、飲まれたニムを止めるにはこうするしかなかったんだからさ……痛っ!」
「ふん、まだ痛みを感じられるんなら死にはしないさ。ニムントールちゃんに感謝するんだな」
「……あん? どういう事だ?」
「あれは矛先だけで敵を倒す形状の剣じゃない。そこで止まったのは、ニムントールちゃんの理性がまだ残ってたからだ」
「……そうか。そのまま薙ごうとすれば、俺は」
「まぁ、真っ二つだ。全く優しいよなぁ、ニムントールちゃんは。こんな鈍いヤツにまで中々気は使えるモンじゃない」
「? おい、もうちょっと判りやすく話せ」
「おっと、ここから先は自分で考えるんだな。いくら俺様でもこれ以上は面倒見切れないぜ……ほらよ」
「あ、ああさんきゅ。うん、もう大丈夫みたいだ。で、お前何言って」
「なぁ悠人、お前、佳織ちゃんは寂しがってると思うか?」
「? 当たり前だろ? たった二人の兄妹なんだぜ。今更なんだよ」
「……そうか。じゃ、俺はもう行くぞ。今日子を放ったらかしだからな。ファーレーンにも宜しく言っといてくれ」
「お、おい光陰…………なんだよ、ファーレーンって。結局何が言いたかったんだアイツは――――っ?!」


いつもの、二人だけの場所。川辺の草叢。
戦場から戻ってきた。そしてそれから、お姉ちゃんは一言も喋らない。
隣で、ずっと膝を抱えて水の流れを見ている。怒っているようにも見えた。
沈黙が、耐え切れない。剣を構えてからの事は良く憶えてないけど。とりあえず謝ろう。
「…………お姉ちゃ」
「ニム、ごめんね」
「え……?」
突然、お姉ちゃんの方が謝ってきた。
「私がもう少ししっかり見ていれば……ううん、もう少し“慣れ”させておけば……」
お姉ちゃんの声は、掠れている。膝に顔を埋め、細い肩も小さく震えている。
こんなに苦しんでいるお姉ちゃんは、初めてみた。どうしていいか、判らない。

「よ、もう大丈夫そうだな、ニム。ファーレーンもどうした?」
急に辺りが暗くなったと思ったら、ユートが突然上から覗き込んでいた。
「ユート?!」
「ユ、ユート様?!」
驚いて見上げたニムとお姉ちゃんの声が、綺麗に重なった。

「ふ~ん……神剣に慣れさせる、ねぇ……」
「はい、ですからそうしておけばニムもユート様にあんな事を……」
お姉ちゃん、ニム、ユート。
二人はニムを挟んで座り、ニムの頭越しにニムについて話し合っている。
悠人はまだぐずついている涙声のお姉ちゃんを、何だか必死で宥めようとしてくれているようだ。
とっても落ち着かない。ニムだけ話が判らない。ニムは何かしたのだろうか。
両手で揃えた『曙光』の柄をなんとなく弄る。くるくると回る穂先。
「でも、ファーレーンも知ってるだろうけど、アレはかなり苦しいんだ。俺は反対かな」
「ですが……!」
「まあ聞けって。一緒に戦ってれば、その内イヤでも慣れる。その間、苦しいのはニムじゃなくて、俺たちじゃないか?」
「あ……」
ニムには判らない難しい話をしながら、ユートがぽむ、と唐突にニムの頭に手を置いた。
無意識なのか、続けてぽむぽむと軽く撫でられる。一瞬むっとしたが、ちょっと考えて、今は我慢することにした。
逃げてもお姉ちゃんが困るだろうし、それに……なんとなく、そんなに嫌じゃなかった。
「ファーレーンは“お姉ちゃん”なんだろ? ならさ、ちゃんと見守らなきゃな。ファーレーンのフォローは俺がするよ」
「ユート様……」
ふと見ると、いつの間にか泣いていた筈のお姉ちゃんの瞳はきらきらと輝いている。
向いているのがユートの方なのがちょっと気に入らなかったけど、さっきのお姉ちゃんよりかはずっといい。
そして安心したら、さっきからの退屈な時間のせいもあって、唐突に眠くなった。
「ふぁぁ~~……」

ぽふ。

「あら……? ふふ、ニムったら」
「疲れたんだろ、神剣の力を初めてあんなに解放したんだから。なんだかんだ、一生懸命なんだよ」
「……そうですね。もっとニムを信じてあげなくちゃいけないのかも知れません……」
そんな声を聞きつつ、目を閉じた。あったかい、お姉ちゃんの体温を感じながら。


こつ。

 ――――――ん?

こつ、こつ。

 ――――――ん゙ん゙ん゙~~?

「……んにゃ」
「あら? ニム、起きた?」
「んぁ……お姉ちゃ……ん?」
こつん。また、なんか頭に当った。ちょっと顔を捻って見上げる。黒い、硬そうな髪。
「ん、う~ん……」
「…………ユート?」
「……ええ。多分、『求め』が回復の為に、睡眠を要求しているのだと思います」
「ん~~~」
目を、こしこしと擦る。眠いから、よくわからない。よくわからないけど、邪魔。
ユートの方が頭が大きいせいで、お姉ちゃんの膝の半分以上を取られてしまう。
大体、なんでユートがお姉ちゃんの膝で寝てるのよ。ニムに頭突きしないで。
「この……んしょ」
「こらニム、ユート様が落ちちゃうでしょ?」
「んむ……ふぁあ~~」
なんだか面倒くさくなってきた。そっと撫でてくれるお姉ちゃんの手もくすぐったくて気持ちいい。
良く見ると、ユートの髪も撫でているけど、ユートもきっと気持ちいいだろう。そうじゃなきゃ、許さないんだから。
「ん~……寝る」
「くす。はい、お休みニム」
もう一度、目を閉じる。するといつものお姉ちゃんの匂いに混じって、野暮ったい汗臭い匂い。
くんくんと鼻を鳴らしてみると、それはユートの匂いだった。――――不思議。とっても安心出来る。
ちょっとだけ、頭をずらしてみた。こつん、と当る硬い髪。少し引いて、距離を調節する。
うん、こんなもの。ちょっとだけ、ちょっとだけユートに場所を譲った所に、ニムの居場所を見つけた。
お姉ちゃんの膝を、丁度ユートと半分こしたところ――――

「おいおい、まるで親子じゃないか」
「ほんとにねぇ。ふふ、ファーレーンまで幸せそうにすうすう寝ちゃって」
「なぁ『因果』。少し力を貸してくれ」
「え? ちょっと、何する気?」
「いやなに、決まってるだろ。こういう時には祝福の光が与えられるもんだ」
「……アンタ、本当に寺の息子?」
「まぁそう言うなって。どっちにしても、もう少し回復が必要だろうしな」

夢の中で気のせいか、キョウコの笑い声と、ちょっぴりニムに似た緑の光を感じていた。
頬に感じる木漏れ日に混じった、あったかい光。もう、寂しくない。川のせせらぎが、耳にとっても心地良かった。