封印されしもの

まだ占領後間もない、砲煙も未だ収まらないスレギトで。


「えっとぉ……今が……あと、これだけかなぁ……?」
オルファリルはうんうんと唸りながら、何やら指折り数えていた。
「う~んもうちょっとなんだけどなぁ。でも頑張りすぎるとまた……」
そうしてもう一度。モミジのような手の平を開き、小さな指を折り直す。
「あ~んダメだよう。どうしてぇ、オルファこんなに頑張ってるのに~!」
散々首を捻り倒した後、やがてオルファリルは諦めたようにがっくりと肩を落とした。

「おーいオルファ。ちょっといいか?」
「あ、パパ! なになに?」
腹立ち紛れに覚えたばかりのおるふぁきっく絶を瓦礫の山に向かって仕掛けようとしていると、
街や部隊の様子を巡回していた悠人に声をかけられていた。
「ああ、今ヨーティアから通信があってさ、どうやら少し急がなくちゃいけないようなんだ。
 それでさ、オルファには俺と一緒にニーハスに侵攻する部隊に加わって欲しいんだけど、どうかな?」
「え? う~んとね、ちょっと待って」
「ああ。いいけど、出来るだけ早く決めてくれ。他の部隊の事もあるし」
「うん、わかったよ!」

元気良く片手を上げて返事をすると、オルファリルは顎に小指を当てて考え始めた。
選択肢は、4つある。ここに残って防衛するか、ミエーユに向かうか、デオドガンに向かうか悠人と行くか。
「ええとええと、みえーゆとでおどがんは当分防衛してからだよね……そうすると2……3……」
「?」
「にーはすだとパパと一緒かぁ……えへへ……あ、でもでも、それだと占領が……」
「オルファ?」
「あ、ううん何でもないよ! ……えっと部隊が……3掛けて……うん! パパと行くよ!」
「そうか。よし、頑張ろうな」
「うん!」
結局もうフラグも立ち終えたスレギトで、オルファリルは悠人と一緒に行ける部隊を選んだ。そしてそれが後悔の始まりだった。

「先制攻撃~♪ このまま一気にやっつけちゃおっ!!」

ズガガガガァァァァン!!

「やばっっ! ちょっと痛すぎる……かもっ!」
「……あれ?」
今まで通りに放ったいぐにっしょんで、相手が倒れてくれない。
しかも中途半端に瀕死状態でふらふらになっている敵に対して、
「今だ! ヘリオンッッ!」
「はいっ! 血塗られた剣……でも、これで守れるものがあるなら!」

ザシュッ!
「あぁぁぁぁっ!! これじゃ……んぐっ! あ、目がかすんd」「居合いの太刀っ!」

ザシュッ!
「きゃぁぁぁぁぁっ! もう、ダm」「居合いの太刀っ!」

ザシュッ!
「きゃぁっ! いけない、これじゃ耐えきれな」「居合いの太刀っ!」

ザシュッ!
「くぅぅっ! だめ、だ……強すぎる……」

などと情け容赦の無いヘリオン自慢の4連撃が敵を一掃してしまう。
悠人がスタートサポートで放ったパッションのおかげかはたまた声を掛けられた嬉しさからか、
振るう『失望』の斬れ味がやけにいい。気のせいか、表情までもが活き活きとしている。

「あああああ~~。またぁ~?」
一方オルファリルは、敵が居なくなって見通しが良くなりニーハスが遠望出来るようになった街道で、
一人がっくりと膝をついていた。とてもたった今局地戦を制した部隊の一員とは思えない。
「おっかしいなぁ~。敵さんがこんなに強いなんて、聞いてないよぉ」
事態は、深刻だった。敵を一人も倒す事無く、いぐにっしょんの弾数は尽きようとしている。
残っているのはこの場合全く役に立たず、なんで使えるのか良く判らないひ~とふろあのみ。
このまま神剣魔法が撃てなくなれば、ただ部隊について行ってニーハスに入るだけ。それだけは避けたい。
そもそもダスカトロン砂漠を抜けてくる間はニムントールと二人っきりの部隊だったし、
殆どの敵がいぐにっしょん一発で全滅してくれていたから気がつかなかった。
アタッカーがこんなにも厄介な存在だったとは。
「うう~、大体ヘリオンの攻撃回数、多すぎだよぉ~」
オルファリルは向こうで悠人と楽しそうに話すヘリオンを恨めしげに眺めていた。


その時悠人の『求め』を通して、オルファリルにとっては救いの声が響き渡る。

『ユート様、拠点が占拠されました。急ぎ奪還を』

「……やったっ!」
どうやら敵の後続部隊がぎりぎり間に合ってニーハスに到着したらしい。
オルファリルは急いで『理念』を確認してみた。精神を集中して力を引き出してみる。
「……あれ? あれれ?」
しかし、依然として今まで以上の力は出てこない。『理念』の意識が拡大する気配も無い。
「どうしたオルファ、急ぐぞ!」
「あ、は~い!」
オルファリルは首を捻りながら、先を行く悠人の後を慌てて追いかけた。

すんなりニーハスに入った悠人達が湧きかえっている中、
オルファリルは街の入り口で躊躇うように足を前に出したり引っ込めたりを繰り返していた。
遠目でそんな様子を見かけたヘリオンが笑いながら近づいてくる。
「どうしたんですか、さ、行きましょう! ユートさまが暫く休むようにって」
「あ、ちょ、ちょっと待っあああぁぁぁ~」
「わっ! だ、大丈夫ですか? 私、そんなに強く引っ張りました?!」
「あ、ははは~。なんでもないよ~」
無理矢理街の中に引き込まれたオルファリルは項垂れ、乾いた笑いで顔面を引き攣らせていた。
もう笑うしか無かった。


「……うんっ、やっぱりお願いしよう!」
暫く頭を抱えていたオルファリルだったが、気を取り直し、悠人の所へと赴く。
「あのねパパ」
「お、丁度良いところへ。オルファ、一緒に来るか?」
「え? ど、どこに?」
「この先の森でマナ結晶が見つかったらしいんだ。それを回収しようと思ってさ」
「え、マ、マナ結晶? えっとオルファ、ちょっとお腹が痛くて」
「はははそっちは頭だぞオルファ。さ、行こうか」
「ああああぁぁぁぁ……」
慌てて思わず頭を指差してしまい仮病も上手く使えなかったオルファリルは、
だばだばと大量の涙を流しながら悠人に引きづられていった。

『解放いたしますか?』

「お、これだ。結構大きいな」
「ねぇパパ、念のために訊くけど……」
お目当てのマナ結晶を掘り出し上機嫌の悠人に、オルファリルはおずおずと声をかけてみた。
「ん? 何だ?」
「それってやっぱり、解放しないんだよねぇ?」
「ああ、今更マナなんて要らないしな。それがどうかしたのか?」
「ううん、なんでも。はぁ~」
「なんだ元気ないな。まさか本当にお腹が痛いのか?」
「……パパ、そこは頭だよぅ」
いつもは嬉しい頭撫で撫で。それが今はやけに切なかった。


「こうなったらもう……これ以上はなんとしても防がないと」
帰り道。悠人の後ろを歩きながら、オルファリルは決心していた。
おもむろに懐から板のようなものを取り出すと、禁断の呪文を唱え出す。
「ええと……ミギ、ターン終了、Ok、ミギ、ターン終了……Ok……ええと、C、t、r、l……」

しかしその途端、止めと言わんばかりに次々と飛び込んで来るエスペリアの報告。

『デオドガンを占領しました。ヒエレン・シレタを占領しました。ミエーユを占領しまs』

「よしっ、みんな良くやってくれた! これでSSは確定だな、俺達もこのままマロリガンに進むぞっ!」
「いやあああぁぁぁぁぁ!!! あぽかりぷすⅡが遠いよぉぉぉぉっっっl!!」

森中に叫びが響き渡る。ハード3週目、オルファリルにとってはMd100を下げる為だけの周回であった。