先日、北方五国は我がラキオスによって統一された。
それによって力を得た父様は戦争を続けるだろう。
戦争。人は何もせず、スピリットばかりが傷つき消えていく。
スピリット。人に従順で、それ故に道具として扱われる彼女達。
それともう一人。妹の為に自分を偽り痛みに耐えながら戦い、仲間の為に辛いであろう神剣の干渉に耐える異世界の少年。そんな彼があの時見せたのは喜びだった。
心が乱れ、考えがまとまらない。このような時に話せる相手はいなくなって少し寂しいが、彼女達が嬉しそうならそれでいい。
結局、考えるのが面倒になった私は、考えなくていい私になることに決めた。
ヨフアル買ってあそこに行こーっと
二人分のヨフアルを抱えて高台へ。そこに広がる景色のなかにユートくんは居なかった。当たり前なのかもしれないが、少し寂しい。それを感じた自分は期待していたとわかって赤面。
顔を赤くしながら、しょうがないよ、と開き直り腰を下ろす。
今日は天気がよく遠くまで見渡せる。髪を揺らす風が心地よい。
そのまま何も考えずに風を受けていると、不意に足音が聞こえた。この高台に人を見ることはあまりなかったので、振り向いて確認する。すると、
ユートくんがいた
お互い軽く挨拶をして、久しぶりだな、なんて言われたらこっちもそう返すしかない。何日か前逢ってるのに…。
奇遇な事にユートくんも、私に逢えるかな~って思ったからここに来たみたい。少し嬉しい。
平和、ずっとこのままならいいのに。
思ったことをそのまま言ったらユートくんは同意してくれたみたい
逢えると思ってなかったのか?
一瞬強い風か吹き髪を抑える。
半々かな、逢えればいいなとは思ってたけど。
なんて応えたけど、少し嘘。本当は逢えるとは思ってなかった。だから聞いてみた。ここにはよく来るの?ユートくんの応えは、否。まだ二回目らしい。
なぜか嬉しくなった私は、私もだ、と言う。これは偶然なんかじゃない、きっと運命なんだ!なんて思っちゃう。
でもそんなことを断言するのは、いくら私でも恥ずかしい。なので控えめに。
赤い糸、と話しはじめて、ユートくんはこの世界の人じゃないと再確認。
改めて赤い糸の話を。熱い心、情熱の色と言ったらユートくんは何かを考えていた。聞くと、
同じような迷信があるとのこと。相づちをうって、そこで気付く。ヨフアル!
脇においてあったまだ暖かいそれを差し出す。
ワッフル、好きだな…
呆れ気味のユートくんの声。
ワッフルじゃないよ、ヨフアルだよぉー!
これだけは譲れない
これは多すぎるだろ。それはユートくんの分も買ったから。逢えるとは限らないだろうに。その時は自分で。
あぁ~やっぱり美味しい~。いそがなくてもいいだろう、との声。わかってないねユートくん、焼きたてが美味しいし美味しいときにいっぱい…って案外食い意地はってるな!?
そんなんじゃないもん!なんて言っても無駄みたいで。
説得力無いって、って力の抜けた笑み。
……これを見るためなら何言われてもいいかも。
風が気持ちいいねぇ~
そうだなぁ~、とぼんやりした声で返事。謁見の間でのものとは比べものにならない。前見たときはシャッキリしてたと言ってみた。ユートくんにとってはこれが普通らしい。
つい、本当のユートくんはこっちなんだ、なんて言っちょって怪しまれたけど、とりあえずヨフアル食べさせて誤魔化した。
美味しいといってくれた。同じものを美味しいっていえるって幸せ
毎日がこうだといいな、でもたまにだから幸せだと思うのかもね。
ユートくんはヨフアルを食べながら相づちをうつ。
お仕事の方はどう?なんて聞いてみる。ユートくんは、仕事なのか?って言った。
町とか人を守っているから仕事だよ、と思ったまま言うと、守るなんて考えて無かった、なんて返事をする。
胸が痛い。罪悪感と少しの何かで。 この国、嫌い?
嫌われたくない。つい顔が強ばる。
よくわからないけど、前までこの国の為なんて思ってなかった。
やっぱり…そう、なんだ
でも今はこの国を守る必要があるかも。
……え?なんで?
その問いの答えは、私が居るから。そしてこの国が気に入ってるともいってくれた。
嬉しい。物凄く。嫌われてない。
思い浮かんだ言葉で礼をすると、ユートくんは恥ずかしそうにしている。
私も恥ずかしくなってきて照れ隠しにヨフアルを突き付ける。ついでに、この国を守っている報酬として、という言葉もつけて。
ユートくんは安すぎると言っているけど万更でも無さそうだ
楽しい時間は速く過ぎるもので。そろそろ戻らなくてはいけない。
立ち上がるとユートくんに、忙しいのか?と聞かれた。王女さまはちょー多忙なんですよ、なんて思いながらにやりと笑って頷く。私の正体知ったら驚くよ?なんて言葉を脳内で再生して、思いつく。
ユートくんにゲームをしようと提案。唐突なことに文句を言われるも、自信満々に返す。
三回目の偶然が起きたらデートする
ユートくんは、なんだそりゃと呟いた。
今度は詳しく、時間も場所もわからない次偶然逢ったらそこからデート、説明した。
そんな暇じゃないとユートくん。私だって忙しいもんと言ったら、ワッフルたべるのがか?なんて茶化された!ユートくんの意地悪
おっと脱線
デートの内容を聞いてきたので応える。前に佳織に聞いたものそのままに。
ユートくんの感想は人に聞き齧ったようなものだな、だった。図星。
しょうがないじゃない識らないんだから、と脳内で開き直り。
ユートくんはもっとちゃんと、なんて言うけど聞く耳もたない。
いくら説得しようがもう決めた。普通じゃダメ、運命がいい。
ユートくんが理由を聞いてきたのでかんがえる。
運命には厭な思い出しかない、だから好い運命もあるって信じたいから。
でも恥ずかしかったので冗談を言ってみたら、ユートくんが近づいてきて握りこぶしをこめかみに、
グリグリグリグリ
私の応えが気に入らなかったようで、冗談と認めたらやめてくれた。痛ぃ
本当の理由を言う。素敵な未来がやって来るって信じられそうだということを
おまじないを教えてもらおうと思う。ハイペリアの約束のおまじない。予めえっちなのはだめだと言っておく。しないとは思うが万が一というやつだ
言われたとおりにしたら、ユートくんが小指を絡めてきた。…ちょっとえっちぃ
絡めている間に約束を、次に逢ったらデートする
ゆびきった
ゆびきった。不思議な響き。何されるかわからなかったので少し安心、ついでにユートくんをからかおう。ほっぺにキスまでなら、と言うとユートくんは真っ赤になった。
わかりやすいなぁ。面白いかも、なんて思いながら最後のつもりに一言。
毎日出歩けば逢える確立あがるかもよ?
その後に予想外な言葉を耳にして動きがとまる。えっと、それもいいかもな?
ユートくんは言葉を続ける。自分が望むなら運命だって引き寄せることが出来る、そう思いたい。
運命を引き寄せる、だなんて考えもしなかった。そうゆう考え方もあるんだ。
ユートくんは凄い。でもなんだか悔しくもある。ということで、
望む未来が私とデートすることって遠回しな告白?
とだけ言って駆け出す。後ろで何か言ってるけど気にしない。ユートくんが私を、ね……本当だったら嬉しいかも
気分爽快、今の私はなんでもできる!運命だって引き寄せて見せようじゃないか!