――ぐぅぅぅぅぅ…が……ガッ くぐっ ウガ……う くそ ぅうううおおおっっっ!!
「ユートさま? ユートさまっっ!? ど、どういたしました? お気を確かにっ! ユートさまっ!」
バタンドタン。
――ぐあぁぁぁぁっっっ!!
ゴロゴロ。ドスン。
「ユートさま!! くっ、こ、これは、これはまさか!?」
――ぅぅ……。
「ユ、ユートさま……? だ、大丈夫ですか?」
――く、くくくくく。
「!」
――くくく。久しいな大地の妖精よ。
「やはり……あなたは『求め』」
――そうだ。だが、俺は既に俺だ。もうこの男の意識は食い尽くしたも同然。この意味が分かるだろう? 妖精よ。
「世迷い言を。そのような事このわたくしがさせませんっ。『求め』よ、ユートさまの体から退きなさいっ!」
――くく。以前とは違うことも分かっているだろうに健気な事よ。いまの俺をお前如きが止められるのか?
「…………」チャキ。
――ふ、よかろう。何時ぞやの約束今ここで果たさせてもらおう。お前のマナの味、さぞ美味かろうな。くくく。
「くぅっ、負けません!」
ドタン ゴト ズン ガスッ
ビシッミシミシ
バタン
……
キャー
「で、なんなのこれ……?」
パラパラと埃の落ちてくる天井を見上げてセリアは呟いた。ソーサーごとカップを持って手で蓋をして埃除けとする。
「ん」
対面のアセリアは全く慌てる素振りもなくズズッ、と茶をすすった。
天井の向こう側、すなわち二階からは異常なマナの高ぶりは感じられない。それもそのはず。既に『求め』はサーギオス城での決戦でへし折れ、消滅しているのだから。
ズズッ。セリアも茶をすする。そのまましばらくの間、静穏だけがこの部屋を支配した。
夜中。女二人で食堂で茶をすする。しかも無言で。
頭上の喧噪はぱったりと止み、時折ミシリと音を立てる。
出るのは溜息とお茶からの湯気だけ。
気のない素振りのアセリアの、相変わらず一本だけ逆立った前髪が揺れた。ようよう顎を上げて中空を見て二言三言。
「……オルファ言ってた。ん。けんたいきには刺激が必要だ……そうだ」
ガタリ。不覚にもイスから倒れそうな体を鼓舞しつつ、額に手を当てつつ、
「エターナルでも何でも良いからさっさとなりやがれっ!」
下を向いて小さな声で口汚く罵るセリアさんは、三つ子の魂百までなエスペリアの教育の賜物。
「セリア、熱あるのか? 私の部屋で寝るか?」
「じょーだんじゃないわ」
二階にいく気になるかっての! とテーブルに突っ伏し毒づくセリア。
ミシミシ。パラパラ。
秋の夜はまだまだ長い。