幻月

 月光の下で舞う剣と剣。
「はぁっ!」
その片方から斬撃が放たれる。
夜の闇に紛れ三撃。
とった、そう思ったその瞬間
「え!?」
目の前にいた筈の人物は一瞬のうちに消え、
「残念ながら。」
その声は背後から。そして首には冷たい刃が当てられている。少しでも力をいれればその瞬間に鮮血が飛び散るであろう。だが、
「・・・ふはぁ。」
刃は血に染まることなく鞘に戻される。
「はぁ~、やっぱりウルカ隊長には敵いませんね。」
「ふふ、貴方とて確実に腕を上げている。自信をもたれよ。」
「はぁ」
そうはいわれてもいまいち実感がない。
神剣の位が低く実力に自信のない自分に隊長が毎晩訓練をつけてくれてから数日がたっているのだが、
(ただの一度もかすりもしないなんて。)
流石は帝国最強の漆黒の翼、といったところだろうか。
(けれど・・・その隊長がおっしゃっているんです。私だって強くなっているはずです!)
素直かつ単純なのが彼女のいいところである。
とりあえず前向きにいこうと決め、上を見上げてみれば
「うわっ、隊長、ウルカ隊長!凄いですよ。上、上を見て下さい!」
「上?」
見上げれば そこには 光り輝く 満月が
「あー、やーぱっりここにいた。隊長ー。」
「あれは、うちの隊の者達。何故ここに?」
「お月様が~きれいですから~お月見しようと思いまして~。」
「ちゃんとお酒とつまみはお城から拝借して来たわよ。」
「拝借って、お前達・・・」
「も~、ウルカってば固いんだからあ~あはははは♪」

 「・・・もう酔っているのか。」
見れば他の何人かも、もうすでに顔が赤い。
「はあー、このようなところ他の者にみられたらなんと言われることか。」
「もーひっく、隊長~だがらひっくかたいって~ひはれふんでひゅよ~ひっく。」
もはや後半何を言っているのかわからない。
「いいんじゃない?どうせ他の連中からは嫌われてんだし。なんにもなくったってガミガミいってくるわよ。
「・・・そういう問題ではないのだが。」
「まっ、それよりも、ほら新入り!あんたも飲みなさい。」
「ん・・・飲め。」
「へ?ふわっや、やめてくださ・・・た、隊長、助け、あ、あああ~~~~。」
ああ なんて なんて 楽しいのだろうか。
「ふふふ、ほら貴方も、食べてばかりいいないで飲みなさい。」
「いい。好きじゃない。」
「よおーし、なら無理矢理飲ませちゃえー。」
「ちゃえー。」
「ちょ、離し、うわっや、やめ・・・。」
他の隊ではこうはいかないだろう。
 この隊だからこそ。あの人の下だからこそ。
私は今日この日を忘れない。例えこれからどれ程辛く苦しいことがあろうともきっと、この空に月が浮かぶ限り今日のことを思いだして

「い・・・いや、やめて。」
「ふふ、やめて?スピリットごときがそのような口を聞いていいと思っているんですかね。まったく、この隊のスピリットどもは。」
「や・・・だ、たい・・・ちょう。」
「隊長?ああ、まだ言ってませんでしたね。今日から私が―――。」

―たとえ どんなに つらく くるしい ことが あっても―

「今日から私が貴方達の隊長なのですよ。」
「う・・・そ。」

―この そらに あのつきが あるかぎり わたしは―

「残念ですが、本当ですよ。さて、分かってもらえたところで―――」


―きょう このひの ことを おもいだして―

「ひひ、ひゃひゃひゃ、ひゃ ――ははは!」
「や、いや、いや――――――――!!!」
「さあ!貴方の翼も漆黒に染めてさしあげましょう!!!」

―オモイ ダシ テ―
「あ、ああアアあァアァァ――」

―アア ソラガ クロク ソマッテ ユク ツキガ ツキガ ミエナイ―


ぶつかり合う剣と剣。
その刃に殺意と悲しみを込めて。

「っ!」
片方より闇にまぎれて刃が放たれる。
トッタ
そう思った。
だが―
「っく、ああああ!!!」
 まるで悲鳴のよう声は背後から。そして、
 -アア ヤッパリ
 振り返る間も無く
 斬られた
  かなわない―

雨?肌に水の感触。
ああ、いやだな、雨は。
だって、月が見えないから

雲が空を覆い完全なる闇夜の下で行われた戦いは今静かに幕を下ろそうとしていた。
ある意味勝者など存在しない戦いが。

目を開ける。そこには――隊長がいた。
「たい・・・ちょう?あれ、なに・・・泣いて・・・るんですか?ほら・・・見てくださいよ・・・。」
空には雲が覆い決して見えないけれど、
―きっと 彼女には あの時の輝きが あの時の皆の笑顔が―
「月が・・・綺麗・・・です・・・よ。」
―その瞳に焼き付いていることだろう―