――アレ?
ええ、知ってるわ
話すと長いけど
憂鬱な話よ
知ってる? 胸には3つの要素があるの
形
大きさ
柔らかさよ
アレは――
確かに 巨乳だったわ
彼女は 『騎士』と言われたスピリット
私が追う ある『胸』の同僚
最近 ラキオスを巻き込んだ論争がある
『美乳論争』
その渦中に身を置き
しかし正体の知れない スピリットがいる
劣情と羨望の狭間で生きる
一人の菓子屋
私はその胸を追っている
そして――
『騎士』の言葉で 物語の幕は上がる
あれは ようやく訓練に慣れた頃だったわ
大きくなるたび その動きが目についたわ
ひたすらに揺れる
時間も場所もわきまえずに
能天気に揺れてた
巨乳の申し子
すべてをなぎ倒すおっぱい
並んであるく私の劣等感はおかまいなし
気がつけば
いろんな人がアレを見てた
街を歩く度 視線が増えてたなぁ
子供も 女の人までもよ
皆あの胸を目に焼き付けようとしていた
私も――
もう少し欲しかった
『騎士』
本名ヒミカ・R・ラスフォルト
旧ラキオス軍スピリット隊
そう 彼女の相棒であり 共同経営者でもある女性
私も大きくなるはずだった
でもならなかった
重点的なトレーニングを課してたどり着いたのは
ただの筋肉のコブだった
何もない胸
それがなんだか 悲しくてしょうがなかった
でも他にも胸が小さい人はたくさんいた
私は彼女たちに助けられたの
女に胸なんて必要ないのかもしれない
でも 開き直るだけで変わるんだろうか
きっと 女を変えるのは
自分を信じる力なんでしょうね
いい所を自覚して自身を持てば
胸の大きさなんて気にならない
でもそれができないのも女なのよね
私はまだ バストアップ体操を続けてる
もう日課みたいなものね
確かめたいのよ 胸の意味を
その大きさの価値を
ここに答えなどないのかもしれない
でも 探したいんだ
そう 今はそう思う
それでいいと思う
このインタビュー、ハリオンも見るの?
毎日顔合わせる私がこう言うのもなんだけど
会ったら伝えてくれる?
ねえハリオン その胸 まだ成長してる?
少しはしぼみなさいよ
それじゃあね
『大樹のハリオン』
美乳論争を駆け抜け
劣情と羨望の狭間で生きた巨乳
『彼女』はほんの数ヶ月の間だけ
人々の噂話の中に存在していた
その後の調査は失敗
ついにその触感にまでは
迫ることができなかった
ただ彼女のことを話すとき
皆 小さくため息をついていた
それが答えなのかもしれない