再生の理由

「だーめーでーすー!」
白昼の街角で小さな女の子に説教されてる男が一人。
人差し指をフリフリ揺らし、結われた二本の赤い下げ髪も黄色いリボンと明るく混じり合って鮮やかに踊る。

――リティル・クハ・トーサ
この世界の名前。意味は知らないけど、どことなくファンタズマゴリアに似た世界。

「聞いてるの~~パパ?」

――Eternal cycle 0231
誰がカウントしてるのか不思議だけど、俺達エターナルが使う暦法となっている。今はその名の通り0231年なのだ。多分。

俺は雑踏の中、てつがく的に思索を深め周りを遮断する。
そうだ、現は夢。夜見る夢こそ現実ってやつなんだ。腿をつねられる痛みも本当の俺じゃないんだ。
だけど、泡と消えるはずの目の前の光景は相も変わらずで、小さな女の子は眉をつり上げていて、指にはさらに力を入れる。
あ、怒った顔も可愛いよな……そろそろ痛い……視界の隅にはぐるりと人だかり。
ひそひそ話が始まっているのが聞こえるけど、恥ずかしくて顔を上げられない……。
ダメだしされてる男は……言うまでもないですか。

……俺、かっこ悪い。

現実って切ない……。

「もーパパ。どうしてしっかり分けられないの」
オルファは今し方俺が捨てようとしたゴミをガサガサ探って、燃えるゴミと再生用ゴミに完全に分けてしまう。
しかもなんだか生き生きしてる……?

「何度言っても分からないのですから。ちゃんと再生しないとダメなんです」
うう……、お姉さん振ってる。いつのまにやらエスペリアの口調を完全に自分の物にしてるし。仕種まで完璧だぞ。
これじゃ、俺の体にすり込まれた本能は無条件で尻に敷かれるのを是としてしまう。
大体オルファって俺より遙かに強いんだよな……。情けな【情けないぞユウト】
(……先に言うな)
萎えながらむかつく。
【『再生』の契約者に遅れを取るのは構わぬ。だが、尻には敷かれるな】
(『聖賢』が言えた義理かよ。自分は『再生』に頭が上がらないくせに)
【…………】
小さくム、と唸る声が頭に響く。何度目か分からない空しい勝利? に乾杯……。

今いる世界は、ファンタズマゴリアから見るとかなりの数の門を隔てた遠い世界になる。
文明様式もファンタズマゴリアに似たものを持っている、リティル・クハ・トーサ。
いわゆるマナサイクルは存在しないけれど、何でもかんでも再利用するのがこの大地の習いとなっている。
郷に入っては郷に従え。だけど、分かっちゃいるけどやめられない。エターナルになったからって生来のズボラはそうそう変わるもんじゃない。
そうだよな佳織? と青空を見上げて再び現実逃避してみる。
遠い遠い昔の記憶。その中で生きている俺の妹は、成長しない兄に相変わらず苦笑いしているのだろうか。

そして現実。
何も知らずに平和を謳歌する人込みの中、歪みである物騒な俺達は街のパトロール。……だったんだけど。
鼻歌まで入りはじめたオルファは、ゴミ回収所に乱雑に置かれていた何回も使い回すのであろう果汁ジュースのビンをキレイに籠へ並べていく。
――リターナルオルファ。
そんな言葉がふと浮かんだ。