少女が泣いている。 
 小さな体に大きな白い帽子。 
 それに合わせるように白い可愛いらしい服。 
 そしてそれより白い真白の髪。 
 少女が泣いている。 
 まるで雪原のように辺りを覆いつくす白い花々に囲まれて。 
 涙に顔を染めながら少女は泣いている。 
「ひっぐ、ひっく、お、お父様、お母様、どこ?」 
 何度も泣きながら尋ねる。 
 けれどその声を聞いているのは白い花だけ。 
 花は何も答えずただそこに咲いているだけで。 
「おか、おかあさま、ぐすっ、おどう、ざまぁ~」 
 もう何度呼んだだろうか。 
 何度呼んでも答えがなくて。 
 泣きながらさ迷い歩いている。 
 足が痛い。 
 朝ご飯を食べてからどれ程の時間がたっているんだろう。 
 お腹が空いた。 
 もう嫌だと少女はその場に座りこむ。 
 もしかして自分は知らない間に別の世界に来てしまったのじゃないだろうか。 
 だからもう二度とお父様にもお母様にも会えないんじゃないか? 
 そんな根拠のない考えが頭に浮かぶ。 
 怖い。 
 違うと思うのにその考えはどんどん膨らんで。 
 涙は止まらず泣き声は大きくなるだけで。 
 少女が泣いている。 
 白い白い花々の中に埋もれるように真白の少女が。 
 静かな花畑に少女の泣き声だけが響く。 
 どれ程泣き叫んでも差し延べられる手はそこにはなくて 
 少女はただ泣いていた 
 夢を見た。 
 夢らしいよくわからない夢を。 
 笑えた。 
 ああ、自分にもまだそんな人間らしい部分があったなんて。 
 まあけど気にすることではない。 
 どうせすぐ忘れるだろう。 
 それよりも今は大事なことがある。 
 さあ、始めようささやかなゲームを。 
 さあ、終わらせようこの世界を。 
 もうそろそろ時間だ。 
「さて、そろそろ行きましょうかタキオス」 
傍らに控える彼に告げる。 
「はっ。準備はできておりますテムリオン様」 
もう数え切れぬ程繰り返されてきたやり取り。 
「さて、そろそろ行きましょうか。ふふ、時深さんのお気に入りはどんな人でしょうね。楽しみですわ」 
さあ、それでは終わりを始めようか。 
 -それは世界の命運を賭けた物語- 
 -それはとあるお姫様と魔女の物語- 
 -それはある一匹のうさぎの物語- 
 -それは- 
 少年と少女の恋物語