朝の日差し

 私は目を覚ました。時間はわからないけれど、今日もおそらく日の出直後くらいでしょう。睡眠時間
は多くはなかったはず。確か昨日も日が変わってから床に就いた。ラキオスの暖かい気候と相俟って、
まだ布団に包まっていたい気分だった。このような事をハイペリアでは『春眠暁を覚えず』と言うらし
い。戦争中にキョウコ様から聞いた覚えがあった。
・・・このままでは抜け出せなくなるわね。
 自分の意思が弱いとは言わないが、ここまで心地良いものだと負けてしまうかもしれない。嵌ってし
まう前に布団から抜け出して体を起こす。カーテンの隙間から朝日が漏れていた。
 寝台から降りて、習慣となっている一通りの柔軟。その後窓に歩み寄ってカーテンを一気に開いた。
刺し込む朝日。眩しさに手で目を覆う。まだ起き掛けの目には辛い。
 一度窓から離れて、着替えることにする。寝間着を脱いで着るのは機能性重視の服。スカートなんか
をつけても気にして動きを制限されそうだし。エスペリアみたいなエプロンドレスを着ようと思ったこ
ともあったけれど、借りて着てみたところをハリオンやヒミカに見られた。驚きから苦笑へ変わるヒミ
カの表情と、いつもの笑顔でハリオンが言った可愛いという言葉に我に返った。本当に良かった。それ
をコウイン様になんか見られたら一生笑われそうだった。と言っても話自体は仲間たち全員に広がって
いるようだけれども。
 着替え終わったら鏡台の前で髪を整える。最近やっと短い髪の自分に慣れてきたところだ。この国が
名前を変えた頃に切った髪。最初は起き掛けに鏡を見て、誰だか分からなかったりもしたけれど、最近
はそういうこともない。
・・・みんなにはからかわれたけどね。
髪を切った姿を見た仲間たちの反応は未だ脳裏に焼きついている。やはり若干一名、莫迦なことを言う
者も居たが、御馴染みの雷撃を食らってもれなく気絶していた。

髪を整えた後、また窓に近づく。日差しは暖かく、雲の少ない青空が広がっていた。
・・・今日は暖かそう。洗濯物が良く乾きそうね。
真っ先にそんな事を考える。ネリーやシアーの前で言ったら勿体無いだとか年寄り臭いだのと言われそ
うだ。尤も、実際に言ったらただでは済まさないけれども。
街並みに光はまだ少なく、店の開いてる気配もない。ほとんどの家は寝ているようだった。
数分ほど外を眺めた後、私は窓に背を向けた。
・・・こんな良い日だったら、下で寝ている子供たちは大はしゃぎで遊びまわるんでしょうね。
数刻後の忙しさを思い息を吐いた。そして、自分が微笑んでいる事に気がついた。
一日中、いつも以上に慌しくなると予想出来る朝。子供たちは遊んで服を汚すし、はしゃぎ過ぎてなに
かしら物を壊してしまうかもしれない。
それでも、微笑んでしまうのはきっと・・・。


今が、私が一番望んでいた風景だからなのでしょうね。

End.