街から離れた草原で、俺と光陰は向かい合っていた。
「ユウゥゥゥトォォォォォォォオオオ!」
「コオォォウイィィィィィィィィィン!」
俺は『求め』を振り上げ突進する。光陰もまた『因果』を手に向かっ
てくる。互いの剣が衝突する。近くに立っているだけで弱いスピリッ
トは消滅してしまいそうな程の闘気が周りに突風を生む。草原に生え
た草が広がっていくように倒れていき、草原の真ん中に二人の決闘場
が完成した。
「おとなしく退け!みんなが俺を待っているんだ!」
「抜かせ!お前を待ってるヤツなんているもんか!」
「「うおぉぉぉぉぉおぉぉ!」」
「で、あの二人はなんで戦ってるの?」
咆哮の中心を遠くから眺めつつ今日子が隣に聞く。ちゃっかり木陰に
シートを敷いて観戦ムードだ。
「光陰殿に頼まれて『ヒナマツリ』ってヤツに使うセットを作ったん
だが、男が座る席が一つだけなんだとさ」
シートを持ち込んだ張本人、ヨーティアが欠伸をしながら答える。や
けに眠そうなのはそのセットを作るために徹夜でもしたのだろう。手
に持っているのは酒だろうか。少し甘い香りがした。
「ヒナマツリ・・・ああ、雛祭りね」
「面白そうだから作ったのは良いが、どんな用途なんだ?あの階段状
に席を並べてヘンなものを並べてるだけのものは」
ちなみにヨーティアの後ろにはイオが立ち、万が一に備えつつヨーテ
ィアの肩を揉んでいる。
「コウイン様の話では、女子の祝い事に使うそうですが」
「祝い事・・・まぁそうなのかな。って言っても普通は人形を飾って終わ
りなんだけどね。等身大のものなんて、何処かのイベントで使われる
かどうか、って感じ。・・・あ、でも・・・確か――」
「隣にオルファタソを座らせるのは俺だっ!」
「知るか!いい加減目を覚ませ!お前の隣に座りたがるヤツが居るわ
けないだろっ!」
後ろに飛んで一気に距離を取る。そのまま詠唱。光陰に向けてオーラ
フォトンビームを放つ。
「俺は冷静だ。いつもいつもお前ばっかり良い目見てるだろう。俺な
んかいつも今日子の雷で死に掛けてるんだぜ。これくらい良いだろ!」
光陰も全力で加護のオーラを纏う。高速詠唱で放ったオーラフォトン
ビームじゃ砕けないか・・・!
「そんなことで死ぬタマじゃないだろう?」
「良いから退いとけ。今の俺には勝てないぜ」
「「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「・・・なるほどねぇ。それじゃ、あのセットは来年まで封印かな」
溜め息をついてヨーティアが言う。何処となくがっかりしたように肩
を落とした
「婚期を逃す、って言うし。早めにしまったほうが良いかもね」
苦笑いしつつ言う今日子。
「ヨーティア様には縁のない話です。既に女子と言える年齢ではない
ですから」
「・・・ズバリ言ってくれるな、イオよ」
イオに追い討ちをかけられて、ヨーティアがシートに倒れこんだ。
「で、あのお二人は放置ですか」
「近づいてとばっちり食らいたくないし。危なくなったり戦いが終わ
ったらちゃんと伝えるわよ」
「せいっ!」
出し惜しみはしない。習得した型の全てをここで!
「甘いぜ!せやっ!」
それをアッサリ防御し、光陰も斬り返して来る。
「くっ!負けるかぁ!」
「ぬおっ!・・・やるな、悠人!」
「ここで負けたら、みんなの嫌味は全部俺に来るからな!」
「俺なんか勝っても負けても雷なんだ。せめて勝たせろ!」
「「があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「今日はもう3月5日だ、ってね」
数時間後、悠人の提案した「30分で交代」という案を受け入れ友情を
確かめ合った傷だらけのエトランジェたちは、涙を流し叫びながら夜
の山に消えていった。
「「来年こそは、みんなの晴れ着姿をぉぉぉぉぉっ!」」