ん、むに~~。う~~……むむ。 
寝てた。今起きた。ふわぁ~ってあくび。 
背中があったかい。お姉ちゃんの温もり。 
さわさわって音がする。詰所の中庭にある大きな樹の下。頭の上で葉っぱの音。 
目をこすって開けた。 
月。……三日月いっぱい。 
むに? あれ……なんか違う……と思う。 
だって明るいし、夜じゃないもん。だから、なんか、変。 
もう一回目をこすって見た。風が動いてる。一緒に木漏れ日が動いてる。地面の月も一緒に……変! 
勢いよく見上げる生い茂る枝葉は変わりなし。 
だけど葉っぱに邪魔されてチラってみえた太陽の形はネリーがかじったヨフアルみたいに思いっきり欠けてた!  
「お姉ちゃん起きて! 太陽が月になっちゃったよ!」 
マスクを外して寝てたお姉ちゃんは直ぐに目を覚ましてくれた。 
「どうしたのニム。変な夢? 見たの?」 
ぽやーっとした目のお姉ちゃん。いっつも寝起きが悪い。寝坊するのはニムの方だけど……そんなの今はどうでもいいっ。 
ニムはお姉ちゃんを揺すって地面を指さした。 
「月、ね……っ!」 
まだ眠気が残ってたお姉ちゃんは、次の瞬間にはマスクを引き上げてニムを抱えて跳び退った。 
ニムはお姉ちゃんに抱きついたまま目を細めて空を見上げた。お姉ちゃんも同じに見た。 
「太陽が!? これはっまだ昼間なのにっ……赤と緑のマナが退いていく? 月の黒いマナが……満ちていく!?」 
お姉ちゃんが驚愕して言った。ニムにも分かる。マナがずれてく。青い空の太陽が……細い月の形になってるんだもん! 
「お~い……ファーレーーーーーン、ニムントールーーーーーー」 
そん時、緊張感の欠片もない声が聞こえてきた。お姉ちゃんはニムをかばってそっちを見た。 
近づいてくるのは、だらしないカッコで髪もボサボサ、しなびたタバコをくわえたヨーティア。この国というか、 
この世界随一の頭脳の持ち主らしい……けど嘘っぽいと思う。 
「詰所に誰もいないんだこれが。ボンクラもいないから飯食わせてくれないか」 
いきなり何言ってんの。ニム達の雰囲気に気付かないってやっぱり大物ではあるけど賢者だなんて思えない。 
「ヨーティアさま。あ、あの、空を、太陽を見てください」 
お姉ちゃんが結構うろたえてる。 
「ん?」 
ようやく、ヨーティアもこの事態を分かったみたい。 
空を見上げて……「あああああああーーーーーーーーーーーっっっ!!!」 
ひっ……いきなり驚かすなっ。 
ニムとお姉ちゃんは急に素っ頓狂な大声を上げて太陽と地面を交互に見ては、 
頭をがりがり引っ掻くヨーティアをしげしげと見つめた。 
「ああああ……今日、だったのか……」 
でろーんって感じで両腕を下げて背中を丸めて嘆いてる。 
「イオにどやされるなあ……でも今さら機材の準備しても……はぁしょうがない」 
言うが早いかいきなり晴れ晴れした顔で元気になった。 
そんでどっかと座って……寝ころんだ。 
「ヨーティアさま、あ、あれがなんなのかご存じなのですか?」 
「ああ、ありゃあ日食だ。十年に一回って位のイベントなんだがねえ、色々用意が全部オジャンさ。 
ほれ、折角だから、おまえらもしっかり見ておけ。ついでに解説もしてやる」 
お姉ちゃんはニムをチラッと見て、座りましょうって言った。 
ヨーティアが言うんならって信用したみたい。ニムはお姉ちゃんが言うならまあ信じる。 
さっきまでニムとお姉ちゃんが寝てた大木の影から僅かに離れたところに座った。 
太陽を見上げるとちょうど薄い雲が流れてきて光を弱めてくれた。お陰でハッキリ見えるお日様の形。 
変なの。三日月みたいに半分以上欠けてる。ほんのり辺りが暗い。気温も少し下がった気がする。 
そして、地面を見ると木漏れ日も同じ形をしてる。やっぱり変……というか不思議に思う。 
ヨーティアが解説してくれた。地面に小枝で図を書いてくれたけど正直なとこ良く理解できないけど、 
この現象に月が関係してるってのだけは理解できた。 
月が太陽を隠してる――「えんぺい」とかなんとか難しい言葉で説明してた。 
お姉ちゃんは両手の人差し指を突き合わせてくるくる回してる。困ったときのお姉ちゃんのくせ。 
「え、えっと済みませんがもう一度説明願えませんか」 
お姉ちゃんがんばってる。 
「おーいいぞ。しかしこれ終わったらメシ頼むぞ」 
図々しい。どっかのムカツク男とおんなじだと思う。 
でも、お姉ちゃんの月と、ニムの太陽。お姉ちゃんと一緒でなんだかうれしい。 
今、見えなくても空には月が存在してる不思議。それは、ニムとお姉ちゃんがいっつも傍にいるのと同じ事。 
そう考えれば何も変なことはないって思う。 
時間が過ぎていくと共に太陽の形が戻っていった。マナもいつも通りで安定。 
お姉ちゃんはお昼ご飯を作りに厨房にいった。ヨーティアも腹ぺこだって騒いで付いてった。 
ニムもお腹すいたけど、もう少し、ここにいたい。木陰にもどって、さわさわ揺れる木漏れ日を見る。 
それは何事もなかったかのようにいつもの形。 
お姉ちゃんと少しくらい離れてたってニムは平気。月はそこにあるから。 
………… 
…… 
… 
「ニムーお昼よー」 
あ、ご飯できたんだ。眠りかけの体を起こして、ニムはお姉ちゃんの所に駆けてった。