鉄壁の破壊力

それはいつも一緒の部隊だったエスペリアの"とことこ"とした足音にもいい加減飽き、
たまには気分転換も良いだろうとハリオンと組んでみた、とある戦闘時の事だった。
別にハリオンを選んだことに特別な意味は無い。ただこれだけは言える。巨乳はいいものだ。
それはそうと、その戦闘で、俺はカナリ驚いた。
正直、仰天したと言ってもいい。まさかそんなディフェンス法があったとは。
仲間内でも場合によってはエスペリアを凌ぐ防御のエキスパートと評判では聞いていたが、
実際に目撃するとそれも深く納得せざるを得ない。
これは燃え易いとか防御スキルの回数制限が厳しいとか、最早そういったレベルの問題じゃないだろう。
それ位、そのとある戦闘の印象は強烈だったのだ。

それは、丁度うっかり攻撃回数制限を忘れて棒立ちになった俺の横を敵が駆け抜けていった時のことだった。
「! ハリオン、危ない!」
敵はブルースピリット。一撃必殺のスキルを放とうと、ディフェンスであるハリオンへとその標準を定めている。
しかし対してそのハリオンはぽやぽやと夢見がちな表情でのんびりと『大樹』によりかかり、半分昼寝をしているという有様。
「……ん~~あらあらぁ~?」
ようやく目覚めかけてはいるものの、シールドハイロゥも付け忘れたハリオンの頭上にブルースピリットの刃が迫る。
そして猛烈な青のマナを遮るものは何も無い。ハリオンは、何を思ったのか諸手を上げる。
その手に『大樹』は持っていない。地面に突き刺したまま忘れているのだ。
勿論、降参とかが通じる相手でもない。俺は次の瞬間に訪れる筈の悲劇を予想して、凍りついた。

「ハリオーーーンっっ!!」
「えいっ☆」
がばっ。
「ッッンッ! ン、ン、ン~~~ッッッ!!!」
「んもう、こんな危ない事しちゃ、めっ、めっですぅ~」
「ンンンッ! ン、ン、ンンンン!!!」
「……あー、えっと」
ブルースピリットの一撃を、一歩踏み込むことで間合いを消して止めたのは、まぁいい。
どうやって動いたのかも良く判らないが、その剣を敵から奪ってしまった有り得ない動きもまぁハリオンならありかもしれない。
しかし、ハリオンマジックの許容限界はそんなものではなかった。彼女は更に敵の頭部を、自らの胸へと押し込めてしまったのだ。
あの巨大な楽園に強制的に招待される。その抱擁がどの位の恐怖を伴うかは喰らったことのある奴にしかわからないだろう。
なにせ俺の角度から見て、ブルースピリットの首から上が全く見えないのだから。すなわち、類い稀なる豊満な胸に埋没して。
うらやましいと言う事なかれ。いや、うらやましいのも気持ちいいのもごもっともなのだが、とりあえずは呼吸が出来ないのだ。
ああ、言ったそばからブルースピリットの手足がぴくぴくと痙攣してきた。さっきまでは子供の喧嘩のようにじたばたしてたのに。
「いいですかぁ、剣で斬ったら痛いんですよぉ?」
「……ン、……ン、……」
隊長、臨界を突破したようであります。ブルースピリットは何かしおしおになって項垂れているように見えなくも無いが、
確実に反省しているのではなく単に事切れようとしているだけなのだと、自覚していないのはハリオンだけだというこの極楽地獄。
しかし説教をしながらも慈愛の心も忘れない生粋のグリーンスピリットであるハリオンは、止めとばかりに敵の髪を撫でる。
何が止めかというと、それによって頭部が更にめり込み、そうなってはもう当のハリオンでさえ取り外しが困難になってしまうからだ。
正に、究極のディフェンス。いや、アタックというべきか。ちなみにサポートのヘリオンは先ほどから戦場の片隅でいじけてしまっている。
背中に陰を背負い、蹲って足元の土に指で何を書いているのかと思えば「貧乳上等」だった。どうやら飾りだと訴えているらしい。

「あらあらあらぁ~? どうかしましたぁ~?」
「――――ブハァッッ」
そうして僅か数十秒。ブルースピリットはその短い生涯の最後を桃源郷で過ごし、そして現世へと帰還した。
というかようやく彼女の異常に気がついたハリオンに開放されただけだが。安らかな死に顔だった。
「死んでないっ! ……ゼッゼッ……くそっ、覚えてろっ!」
「さようならぁ~、また会いましょうねぇ~」
「二度と会うかっ!!」
こうして後2回も攻撃回数が残っているにもかかわらず、矛盾した捨て台詞を残し、敵はあっけなく撤退してしまった。
何故か頬を真っ赤に染めていたのが印象的だったのだが、酸欠だけが理由ではないだろう。
しかしそれにしても、防御をする必要も無いなんてなんて恐ろしい防御、いや、攻撃か?
「まぁいいか。おいヘリオン、いつまでいじけてるんだ、帰ろうぜ」
「いいですよぅ、どうせ私なんて小っちゃいですしぃ、台詞これだけですしぃ」
「……ふう、しょうがないなぁ。あのさ、需要なんて人それぞれだろ? 俺はヘリオンの貧、その、控えめなソレでもコレがアレで」
「ユートさまぁ~、えいっ☆」
「~~~@#%$&★★★♪!!!!」
ただ、これだけは言える。巨乳はいいものだ。