這えば立て、立てば歩めの親心

先ほどまで、当たり前に人が過ごしてきた風景。
それが想像も出来ない程に破壊されてしまった街の広場の一角。
放射状に抉れてしまった地面の丁度縁の部分に、黒き妖精は舞い降りる。
一部始終は、観察していた。この惨状も止むを得ない。そう判断しても、やはり躊躇う。
陥没している地面の、同心円の中心で佇む、緑色の髪の少女の気だるそうな背中を見ては。
一体、どんな風に声をかけてやれば、良いのだろう。
「……お姉ちゃん?」
戦う事がスピリットの定めとはいえ、殺す事に慣れている訳では決してない。
ましてや彼女の足元でマナへと還ろうとしている者は彼女に明確な危機感を与えていた。
防衛反応が幼い少女の潜在能力を極端に高めたが為、手加減などは無用の事態。
それはきっと、少女も判っている。だからこそ、その背中にも倦怠が見え隠れしてしまう。
「はは……やっちゃった」
「ニム……」
「めんどくさい、よね……」
ニムントールは、ただ呆然と金色のマナを見つめ続けている。
普段なら姿を見つけた途端駆け寄ってくる、嬉しそうな表情が今は酷く遠く思えてしまう。
「……あの、ね?」
ファーレーンはようやく声を絞り出し、ゆっくりと歩み寄る。
溺愛する少女の、逃避しようとしている小さな心を繋ぎ止められるのは自分だけだと信じて。
出来るだけ優しく、危機に瀕した少女へ救いの手を差し伸べる為に。

「ニム、ごみはちゃんと捨てるように、って言ったでしょ?」
「……ぅに」

二人はてきぱきと、大振りな『因果』が見えなくなるまで土を被せる。
僅かな証拠も隠滅するように、慎重に。
ときどき聞こえる、ちょ、ホント、勘弁しっなどというくぐもった声は殊更無視しつつ。
妹同然の少女に所構わずちょっかいをかけてくる存在など、ごみも同然。
覆面の下で冷徹な笑みを浮かべる、それがファーレーンのじゃすてぃす。
逆らわないのがニムントールのじゃすてぃす。