二羽は、互い螺旋を描きつつ舞い降り、つるぎを振るう。 
守る為に白翼を広げ、儚く美しい四肢を深紅の血に染めて。 
無数に浮かぶ羽の中、地面すれすれを滑空し、神剣魔法を撃ち出すのはセリア。 
水の加護の元、青く靡くポニーテールに気高きマナの粒子が散りばめられる。 
「アセリア!」 
「ん。任せろ」 
散りばめられた水のマナを割るように、敵へと接触するのはアセリア。 
コンビネーションの果てに生み出された推進力は家屋の壁をも突き破る。 
市街戦に妖精の能力は余りにも大きく、衝撃波は街路樹を薙ぎ倒し、 
丈夫な石造りの建物を容易に崩し、敵と一団になって屋内へともつれ込んだ蒼い牙の周囲には 
砂塵とガラスの破片と大量のマナが入り混じった煙幕がもうもうと立ち昇っては視界を濁らす。 
しかし、遅れて飛び込むセリアに躊躇は無い。そこにはもう危険などは無いと確信している。 
「……ふぅ」 
散乱した部屋の中、佇んでいるのは輝く『存在』を携える、セリアが最も信頼している相手。 
紫色の瞳は無表情のままこくり、とただ頷く。既にマナへと還った敵の金色を見つめたままで。 
近寄りがたい雰囲気がアセリアの周囲には満ち溢れている。深い、哀しみと共に。 
瓦礫を踏みしめながら、セリアは思う。こういう時、どんな言葉をかければ良いのか。 
そんな簡単な事に限っていつも何も思いつかない。崩れた天井から見える空は、こんなにも青く澄んでいるのに。 
戦うのがスピリットの宿命とはいえ、アセリアに垣間見える後悔が解るのは、唯一自分だけなのに。 
「ん、セリア。帰ろう」 
一陣の風が、大気を震わせる。猫を思わせる、誤魔化すように無理を押し殺した仕草。 
顔を上げたアセリアは、既に再びウイングハイロゥを開き、背を向け、飛び去ろうとしている。 
このまま後を追い、部隊と合流し、彼女の焦りの様な「何か」を見過ごすのは簡単だろう。 
だが、それでもセリアは意を決し、ゆっくりと手を伸ばし、そっと小さな腕を掴む。 
ぴくっと細かく跳ねる華奢な背中。その壊れそうに怯える心へと、出来るだけ優しく語りかけるために。 
  「いつも言ってるでしょ。自分で散らかしたんだから、放ったらかしにしない」 
  「……ん」 
しぶしぶ頷くアセリアに、その辺に落ちていた箒とちりとりを渡し、後は黙々と掃除を始める。 
僅かな塵も埃も見逃さないように、慎重に。時々目を盗もうとするアセリアを視線だけで牽制しながら。 
どんな時にも躾と規律を忘れない、それがセリアのじゃすてぃす。逆らわないのがアセリアのじゃすてぃす。