いやし棒

「ふう……」
今日も何かと疲れた。思わず出る嘆息。
既に宵も過ぎた時間のベッドの上、両目に帳が落ちそうなうつらうつらの小康状態をギリギリ保ちながら、
今日一日を反芻する。ベッドの上に放り出された『紡ぎ』は沈黙を保っていた。

――コンコン。
静寂の調べに、なでるような音が混じる。睡魔の淵でなんとかかんとか意識が振り返り、
ロティは億劫な体を起こして立ち上がった。昼間のことを思い出して(「規則満面」参照)、ちょっと警戒。
まさかね……。

ドアの前に立つと、ロックされていないドアは勝手にスライドした。そこにいたのは――。
「こんばんはです~ロティさん~」
ハリオンだった。
「ハリオンさん……な、なにか用ですか?」
そよ、と薫るハリオンの匂いにドギマギする目線を揺らしながら、
「えっと~」
小首をかしげ、人差し指を頬に当てる思案顔につられてたゆんと揺れるふたつのモノとモノから視線を必死に引きはがす――どう見てもお風呂上がりです――こんな努力を払う世の男共を知ってか知らずか、ハリオンは常と変わらぬマイペースだった。
「ロティさんと~気持ちいい事しに来ました~」
微笑みと方向の違いすぎる発言はロティをギョッとさせるに十分の威力だ。思わず体を引いたロティは、じょ、冗談でしょ、と言う言葉が上手く口で形作れないうちに――。
「んふふ~♪ あ、ほらロティさんの持ってるもので~わたしを気持ちよくして欲しいんです~~」

え、あ、や、め。
完全にうら若き単音発声体なロティ――へっへっへ、声と違って体は正直だぜ?――に滑らかにハリオンは近づいた。既に硬直し始めているロティにぴとっと。
知らず知らずぎゅうっと目をつぶるロティ。固いモノに触れるのは5本の白い指先。優しくきゅっと握りしめてくれ――あ、あれ?
期待にワクテカなロティのモノは未だ何の触感も持ち主に伝えてはくれない。
なんだか後ろめたさと情けなさとお預けな気分に負けて恐る恐る見開いたロティの目には――。
「んっふふふ~。これですよ~ほらロティさん似てると思いませんか~?」
「え、えっえ?」
「ほら~船に乗る前に聞いたガロ・リキュア放送局でやってたじゃないですか~、細長くて、固くて、先端にちょっと丸みがあって~」
「な、何の話しなんですっ?」
「あ、もう聞いてないんですね~メッですよロティさん~。ほら、放送の中でよく通販があったでしょう~?」
激しく混乱中のロティの目の前で、無意識にベッドから持って来てしまっていた『紡ぎ』が、いつの間にかハリオンの5本の白い指の中に収まっていた。
「その中で、肩凝りに効く防水性マッサージ器があったんですぅ~~」
「あ、つm」ピイィィィィィィィィィィィィンンンーーーーーーーーー。「あぐぅ!」
「『紡ぎ』さんて~、放送で言ってた形にそっくりだなあって前から思ってたんですよ~、それで~」
ピィィーーーーーーーーーーーーーーン。「ぐあ」

「ああ~ほらやっぱり間違ってませんでした~肩に当てると気持ちいいです~。ぶるぶる~って震えてます~~」
ピィィーーーーーーーーーーーーーン。【主よっ】ピィィーーーーーーーーーーーーーン。
【主よ! 特急だ。この妖精を抹殺せよ!】
「そ、そんなことい、ぐぁぁぁっっ!」ピィィーーーーーーーーーーーーーン。
ピィィーーーーーーーーーーーーーン。ぶるぶる。「ああ~気持ちいいです~~先端が効きますぅ」ぶるぶる。
「凄いです~どんどん激しく振動してますよぉ~ロティさん~」
【主よ!!】ピィィーーーーーーーーーーーーーン。ぶるぶるぶるぶる!。
「あ~~天国です~癒されますロティさん~気持ちいいです~~」ぶるぶるぶるぶるぶるぶる!! ピィィーーーーーーーーーーーーーン!! 「ぐわああああ!」
ピィィーーーーーーーーーーーーーン! ピィィーーーーーーーーーーーーーン!
ピィィーーーーーーーーン!
ピィィーーーーン。
ピィィーーン。

…………
……

う、ううん。
呻き声が小さく部屋に響く。ロティはようやく悪夢? から目覚めた。
天井が見える……ここは柔らかなベッドの上だ。どうやら……気を失っていたらしい。
【起きたか、主よ】
右の方から聞こえた声にロティは顔を向けた。『紡ぎ』の声には少しだけの気遣いと大量の苛立ちが有った。
向いた眼前にはハリオンの寝顔がすやすや。そして……。
「ぶっっ」
【主よ……早急に我を抜くのだ】
一触即発で剣呑な声の調子もロティに届いているのかいないのか。ロティはそのままタヌキ寝入りをしたい気持ちで必至だったが、目は釘付けにならざるを得なかった。
何故なら『紡ぎ』は――窮屈そうにハリオンのふたつのモノとモノに挟まれていたのだから。
ピィィーーーーーーーーーーーーーン。