セリアの頼むから徒然させろっちゅーねん日記

思い出したくも月 ないわよっ!日

最悪だ。

始まりは、たまたまアセリアに用があって第一詰め所をたずねた時のことだった。
玄関から声をかけ、キッチンから聞こえたエスペリアの声。

「あら、セリアですか?アセリアなら、いつものように部屋に閉じこもっているけれども」

全くあの対人能力決定的欠如半引きこもり娘は、とぼやきながら階段をのぼる。

「よ、セリアか。何だ?何か報告か?」

のぼる階段の途中、上の段からユート様が能天気にニコニコ手を振りながら下りて来る。
アセリアに用があって来た事を簡潔に述べて、一応丁寧に応対しながら階段をのぼる。

…何故、そこにたっぷり水を含んだ濡れ雑巾があったのだろうか?

あ、と思う間もなくユート様が足を滑らせ身体を宙に踊らせ顔面から私に突っ込む。
耳から頭蓋の中にかけてイヤな音を遠く聞きながら、互いにもつれあって階段を落ちる。
拭えない違和感が唐突に感じられるまま、そのまま二人して気を失った。

目が覚めた時に開いた目に飛び込んできたのは、ユート様の部屋の天井だった。
何だかくらくらする頭を振りつつ上半身を起すと、エスペリアが心配そうに顔をのぞきこんでくる。

「大丈夫よ、エスペリア。普段訓練してるからどうって事ないわ。…受身は取りそこなったけど」

そう喋って、自分の耳に聞こえてきた自分の声がいつもの自分の声じゃないのに気づく。
エスペリアが、両手で口元を押さえて何か確信に満ちた驚愕の表情をしている。
ふと、部屋の隅っこで椅子に座って落ち着き無く私を見ている私に気づいた。

…私はここにいるのに、向こうに私がいる?

「あー、セリア…その、気がついて良かった…のか?その…ごめん」

一瞬合った視線を逸らし、目を空に泳がせながら私がユート様のような喋り方で謝る。
エスペリアが、ごくりと唾を飲み込みながらそっと手鏡を差し出してくる。
手鏡をのぞきこむ私の目に映ったのは、顔を引きつらせているユート様の顔の私。

というか、私がユート様でユート様が私だった。

精神的な疲労がどっと襲ってくると同時に頭痛が走り、眉間を指でおさえる。
深呼吸して、目をごしごしこすってから手鏡をのぞくも、鏡に映るのはやっぱりユート様。

突然襲ってきたかつてない大理不尽に盛大なため息をつきながら私のほうを見る。
私の身体のユート様は、いつのまにか椅子をたち、気まずい表情で…お尻をポリポリ掻いていた。

撲殺音。

「ご、ごめんっ、つい、いつものくせでっ…!」

血の海に沈む、ユート様IN私(セリア)を見下ろして、また途方に暮れる。

「それにしても、服も身体も汗臭いですね。ちゃんと清潔にしていただかないと隊の士気にかかわ…」

あろう事か、それは大きな鼻くそをほじって指でぴん、と飛ばしているユート様IN私(セリア)。

折檻音。

「ごめ、ほんとマジでごめ、わざとじゃないんです許してくださいセリアさん…」

再び血の海に沈みながらマナの霧と散り始めるユート様IN私(セリア)を私は遠い目で見ていた。