トウソ、セィン アネース ナイハムート

随分と誤解を招きかねない、下手糞な言葉を残したものである。

曰く。

ラ クフォエル テカレウト、デ テスハーア レナ イウロス アトエフ レナ。
リュー マク ヤァ ヨテト、デ リレイラート ラナ レナ、 イウロス テカレウト ユウラス。 

それは本当に何でもない、いつもと何も変わらない、ただ何でもないこと。
たまたまぶらりと第一詰め所の近くまで来てみたら、たまたま悠人がそこにいた。

「よ、シアー。エスペリアに買い物を頼まれたんだが、一緒に行くか?」

街で人間たちの敵意に晒されるのは怖かったけど、悠人が守ってくれるならと思い、行く事にした。

「ネリーはどうしたんだ?…はは、そうか、今日はセリアの特訓の日なのか。…ご愁傷様だな」

シアーが知る限り一番優しくて暖かい眼差しで真っ直ぐ目を見て、その手を差し出してくれる。

「シアー、お菓子のいいにおいに弱いだろ?はぐれないように手を繋いでいてやるよ」

とても暖かくて、とても優しくて、とても力強くて、でも何だかとても寂しそうな、その温もり。
何だろう、信じられる。
その手から伝わる温もりだけで、信じられる。
その声から伝わる優しさだけで、信じられる。
その目から伝わる暖かさだけで、信じられる。

「ほら、シアー。そこに大きな石があるから転んだりしないようよけて歩こうな」

何だろう、満たされる。
この胸を満たすのは、とても暖かくて気持ちが良くて、でも少しだけ痛くて。

わかるのは、ただ悠人の何もかもがそうさせているということだけ。

「ええと、エスペリアのメモっと…げっ、またリクェムをこんなにたくさん使うのかよ」

わかるのは、ただ悠人のそばにいるだけで世の中の何もかもが怖くないということだけ。

「さて、と。頼まれたものはこれで全部か。シアー、ついでにヨフアル屋台に寄っていこうか」

このひとの目は、とても青い。
ブラックスピリットのような黒い瞳なんだけど、でもとても綺麗な青い目だと思う。
悠人の瞳の奥に、シアーにはとても清浄でどこまでも澄み切った綺麗な青い空が確かに見える。
戦いの時、その遥か遠くを射抜く目は、時にはそれは鋭く勇ましい蒼に染まる。
だけどほんの時々、悠人の目はどうしようもないくらい悲しくて寂しそうな藍を映すこともある。

このひとは嘘つきだ。嘘がばれても、同じ嘘をどうしてもつき続ける嘘つきだ。

「よし、ネリーたちのぶんもきっちり買って…と。じゃあ帰るとするか、シアー!」

シアーにはそれがどうしてなのかも、どうすればいいのかもわからない。
だけど、せめてその背中を追いかけたいと思う。
見失っても、はぐれてしまっても、その背中を追いかけていたいと思う。

「もちろん、またはぐれてしまっても何度でも俺から探しにいくからな?」

曰く。

ラ クフォエル テカレウト、デ テスハーア レナ イウロス アトエフ レナ。
リュー マク ヤァ ヨテト、デ リレイラート ラナ レナ、 イウロス テカレウト ユウラス。 

随分と誤解を招きかねない、下手糞な言葉を残したものである。

終わり