冴えたやり方

 ある日の事、悠人はレスティーナに呼び出された。
「エトランジェ、求めのユート。只今参りました」
「来ましたか。
 内密の話です。付いておいでなさい、こちらへ」
 レスティーナはそう言うと、玉座から立ち上がり、歩き出す。
「? はい」
 悠人は、先を歩くレスティーナに付いていく。
 悠人にとって、王宮は迷宮と何ら変わり無い。
 何処にどんな部屋があり、どの廊下を通れば目的地にいけるのやら全く判らない。
 教えられても、到底覚えきれないだろう。
 それどころか、一人で歩けば間違いなく迷う自信がある。
 悠人も、広い部屋に多少の憧れは持つが、それも一般庶民の漠然とした夢といった程度のもので、実際のところ、今の詰め所の生活に充分過ぎる程満足しているし、感謝している。
 そもそも佳織と二人の生活であった時も、少なくとも生活において、不便は感じても不幸を感じた事は無いのだ。
 連れられていった先は、レスティーナの私室だった。
「失礼致します」
「そう硬くならないでも大丈夫です、ユート。ここには私しかいません。楽になさい」
 レスティーナは悠人を部屋に入れると、念を入れて部屋の外に人影が無い事を確かめ、しっかりと鍵をかける。
 悠人はその日常から、どうしてもこちらの方向には鈍感になってしまっているが、今の状況はかなり危険である。
 他に誰もいない部屋に、女王が、男のエトランジェと二人きり。
 これが他に知られたら、一大事である。
 他の者には絶対に見つからないように、というレスティーナの判断は正しい。

「今お茶を淹れますから、そこに座っていて下さい」
「あ、ああ」
 悠人は部屋を見回しながら、椅子に座る。
 こざっぱりとした印象を受けた。
 一国の女王の部屋とは思えない。
 とはいえ、調度品のひとつひとつには、やはり輝きがある。
 無駄に金をかけただけの品では無く、何処までも実用を極めんとする匠の技の込められた品々と言って良い。
 悠人は取り立てて審美眼のある人間ではないが、一流の持つ凄みは理解出来る。
 図らずもエトランジェとなり、一流の存在に多く触れる立場になってしまった為に、本物とそうでないものとを判別する力が研ぎ澄まされたと言えるだろう。
 レスティーナは、棚からティーセットを取り出し、お茶の準備をする。
「そこにあるそれは、ポット?」
「ポット、と言うのですか?
 これはヨーティア殿に作って頂いたのです。
 いつでもお湯が沸かせるので重宝しています」
「へぇ。詰め所にも作って貰おうかな。
 エスペリア達も喜びそうだ」
「全くユートときたら、相変わらずなのですね。
 世慣れないのは、良い事なのか、悪い事なのか。
 いずれにせよ、女性と二人きりでいる時、他の女性を気にかけた話をするのは少々問題ですよ」
「そんなものか?」
「そんなものです。
 乙女心は複雑なのですから、気をお付けなさい」
「ああ、これからは注意するよ。
 それにしても、レスティーナが自分でお茶を淹れるのか。
 ちょっと意外だったな」

「あら、そうですか?」
「誰かに言えば、お茶くらい直ぐに用意して貰えるんだろうに」
「他の者に頼まないではお茶も飲めない生活など、息苦しくて仕方ありません。
 ふふっ。手足を動かすが如くに人を扱う事が出来無いのでは、王族としては失格なのかも知れませんけれども。
 そんな訳ですから、今言った事は他の者には内緒ですよ」
 レスティーナは、ティーセットを机の上に並べる。
「それと、これはお茶受けです」
 棚から、ヨフアルを取り出す。
「あ……美味そうだな」
「美味しいですよ」
 ここで余計な事を言わない程度には、悠人も空気は読める。
「そろそろお茶の葉も開きましたね」
 優雅と不器用の中間くらいの動作で、レスティーナは琥珀色の液体をカップに注ぐ。
「それでは、些細ではありますが、お茶会を始めましょう」
「うん、いただきます」
 レスティーナは一口、お茶を口に含む。
「良かった。今日のお茶は、中々上手く淹れられました」
「へぇ、結構上手いな」
「うーん。やはりユートの肥えた舌を満足させるには至りませんか。
 ちょっと悔しいですね」
 レスティーナにとっては会心の出来だったのだろう。
 それでも、エスペリアのお茶を毎日飲んでいる悠人にとっては、まあ及第点といったところである。

「で、内密の話って?」
「たまには、一緒にお茶でも飲もうと思って呼んだのです」
「……それだけ?」
「それだけではいけませんか?」
「いや、そういうワケじゃ無いんだけど」
「お茶の時間ぐらいは息の抜ける相手と、と願うのは、私の様な立場の者には、やはり贅沢が過ぎるのでしょうか」
 ふっ、と寂しげに顔を伏せる。
「あ、いや、その……そんなつもりじゃなかったんだ、ゴメン」
「うふふ。冗談です」
 堪えきれ無い様に笑う。
「酷いな、レスティーナ」
「ごめんなさい。ですが、お話はお茶を飲んでからにしましょう。
 お茶を飲む間くらいは、余計な事を考えずに、この時間を純粋に楽しませてくれても宜しいでしょう?
 毎日、食事の間すらも気が抜け無いと言うのは、あながち冗談でもないのですから」
「まぁ、そうだな。わかったよ」
 悠人はレスティーナを思う。
 今のレスティーナにとっては食事の間も、寝ている間すら、完全に気を抜く事は出来無いのだろう。
 だったら、今、自分と一緒にお茶を飲む時間くらいは、気を抜いて欲しいと悠人は思う。
 どうでもいいような歓談をしながら、ゆっくりとお茶を飲み、ヨフアルを食べる。
 ゆったりとした時間が過ぎる。

 だが、その時間もやがて終わる。
 カップは空になり、ヨフアルも無くなる。
 空になった食器を盆に載せ、レスティーナはすっと表情に真剣さを乗せた。
 未練も何も残さず、己の為すべき世界に戻る。
 悠人もそれで、これから重要な話が始まるのだと悟り、頭を切り替える。
「さて。話というのは他でもありません。
 ユート、貴方の事です」
「俺の事?」
「その通りです。
 ユートは、カオリの為になら自らの命をも犠牲にしかねない危うさを持っています。
 それを皆が心配しているのですよ」
「そ、それは……」
「私に洩らした者で言えば、エスペリアも、セリアも、オルファリルも。
 カオリ自身も。
 そして恐らくは、いえ、確実に、他の貴方の仲間達も。
 皆がユートを心配しています」
「……」
 反論出来無い。
「とは言えども、私を含めた他の者が何を言ったとて、ユートは何も変わらないでしょう。
 ユートにとっては貴方自身の命を含めた他の全てよりも、カオリが優先されるのでしょう?」
「そんな事は……」
「無い、と言えますか?」
「……いや、そうかも知れない」

「そうでしょう、そうでしょう。
 ユートはそういう人間なのです。
 そういう一途さがユートの魅力のひとつでもあるのですが、困ったものです」
 うむうむ、と頷くレスティーナ。
 そして顔を上げて悠人を見ると、にこりと笑う。
「ですが、私はその解決策を見つけました」
「解決策?」
「その通りです。
 ユートを護る、その方法です。
 私にはスピリットの皆のような力はありませんが、これはスピリットの者達には出来無い事です」
 レスティーナは言うと、立ち上がり、はらりと服を脱ぐ。白磁の肌があらわになる。
「なっ!? なっ!? 何してるんだ、レスティーナ!?!?」
「問題を解決するには、私が、ユートの子を孕めば良いのです。
 そうすれば、親無き辛さを知っているユートは、安易に命を投げ出す事など出来無くなるでしょう?
 うふふっ」
 にこやかに笑い、豪奢なドレスを脱ぎ、純白の下着を外す。
「ちょっ、ちょっと待った、レスティーナ!
 落ち着け、冷静になれ!
 クールだ、クールになれ!!」
「私はいたって冷静です。
 取り乱しているのはユートの方ではないですか」

 纏っていたものを全て脱ぎ去り、白い光を放つような裸体でレスティーナはゆっくりと悠人に迫る。
 悠人は慌てて逃げようとするが、足元がおぼつかず、ふらつき、倒れる。
「あ、ありゃ?」
「ああ、言い忘れていました。先ほどのお茶に、少しばかりお薬を盛らせて頂きました」
「な、何ィっ!?」
「さすがに男の人を押さえ込めるとは思っていませんから。
 意識に影響は無い筈です。
 手足が思うように動かなくなるというだけで、男性の機能にも影響は無い筈だとヨーティア殿は仰っていましたし。
 多少強引なやり方ではありますが、不可抗力だからといって、責任を放棄出来る程に器用な人ではありませんからね、ユートは。
 力で敵わないのであれば、別の手を考える。
 戦略の基本でしょう?
 それにしても……」
 レスティーナは、床に倒れ込んだ悠人の身体を持ち上げようとして断念する。
「はぁ。男性の身体って、こんなにも重いものなんですね。
 ベッドに移動してもらおうにも、これでは動かせません。
 困りましたね」
 ベッドからシーツをはがすと、悠人が倒れている横に広げ、悠人を転がしてその上に乗せる。
「よいしょっと。
 まだ少し床が固いですが、我慢して下さいね」
 ユートはじたばたしようとするが、手足は痺れたようになっていて上手く動かない。
 そのくせ、頭だけは明瞭なのだから余計にたちが悪い。

「ちょっと待て、待ってくれ!
 その、レスティーナはそれでいいのか?」
「あら。こんな状況でも私を心配してくれるのですか。有難う御座います。
 その質問に対しては『望むところ』とお答えします」
 レスティーナは屈託の無い、慈愛に満ち満ちた笑みを見せる。
「さて、と。
 では、服を脱がせてさしあげますね。
 その……とてもきゅうくつそうですし」
 頬をほんのり赤らめ、レスティーナは悠人の服に手をかける。
「やめろ、やめるんだ!」
「あら。ここでやめたら、ユートは今までと何も変わらないのではないですか?
 それとも、他者の為に犠牲になろうなどと、絶対にしないと約束出来ますか?」
「そ、それは……」
「ほら。
 それにしても、嘘でもついておけば良いのに、ユートは本当に不器用ですね。
 ですが、その誠実さは掛け替えの無い貴方の宝です。
 大切になさい」
 言いながら、悠人の上半身の服をはだけ終え、下半身の服を脱がす作業に取り掛かる。
「いやあああああー」
 悠人の叫び虚しく、びよ~んと勢い良く♂が顔を出した。

「え、えっ……と。
 私も初めて見ましたが、こんなに凄いものなのですね。
 はぁ……」
 顔を赤くしつつも、目は♂に釘付けである。
「これって、私の裸を見て、こんなになったのですよね。
 という事は、私は自分の身体に自信を持っても良いのですね」
 イマイチ発育不良な自分の胸に手をやる。
 その小さな胸の膨らみも、悠人のストライクゾーンにはしっかり入っている。
 とすれば、確かにレスティーナは自分の身体に自信を持っても良いだろう。
 望む相手を悩殺出来るのであれば、それ以上は無い。
 悠人は、幼い頃に親を喪った事もあり、多少の母という存在に対する崇拝の感情を持っている。
 己の母を良く知らないが故の憧れと、佳織の母親に優しくしてもらった経験と、そして佳織と二人の生活の苦労の中で、母親というものは本当に凄い存在なのだという実感があるからだ。
 だから、エスペリアやハリオンといった、母性溢れる存在には頭が上がらない。
 又同時に、悠人には少女崇拝の感情もある。
 佳織と二人で過ごす中で、自分より幼い存在が自分には出来無い事をやってのける姿に、自分には到達し得ない強さを見出している。
 辛い時にそっと励まし、自分よりも小さいにも拘らず辛さを分かち合おうとしてくれる姿に、非常な感謝を持っている。
 だから、悠人本人は無意識にであろうけれども、オルファリルやネリーシアーといった年少の相手に対しても、決して見下したりする事無く、同等以上の存在として一種の敬意を持って接している。
 そんな悠人だから、年少の者に好かれるのだろう。
 斯様に悠人のストライクゾーンは広いのだ。

「えっと……。
 最初は湿らせないと痛いそうですから……んっ……んぅっ……」
 レスティーナは、悠人の裸をオカズに自分の♀に指を這わせる。
 目の前で見せ付けられるレスティーナの痴態に、悠人の♂はますます元気になる。
 それを見て、レスティーナも、ますます気分を高める。
 その繰り返しで、悠人はまだ触れられてすらいないのに、僅かの刺激で発射してしまいそうな状態となってしまう。
「んっ……んんぅ……こ、これ以上やっては、一人で果ててしまいます。
 これだけ濡らしておけば、そろそろ大丈夫でしょうか」
 くちゅり、と水音を立てて♀から指を離し、宣言を下す。
「では、頂くとしましょう」
「駄目だ、駄目、駄目!」
 レスティーナは悠人の言葉に耳を貸さずにまたがり、ぴくぴくと暴れる♂に手を添えて支えると、どこまでも優しく♀をあてがう。
「そう遠慮せずに、元気なタネをたーっぷりとお出しなさい。
 今日はちょうど妊娠しやすい日ですし」
「ちょ、ま! やめて! お願いやめて!! 赤ちゃんできちゃう!!」
「きっとユートに似た可愛い子になるのでしょうね。今から楽しみです」
 うっとりと言って、レスティーナは、ずぷりと腰を落とし込んだ。
「らめえぇぇぇ!」


 おしまい。