果てのある日

青空の下にそびえる白亜の塔。
遠望する大地はどこまでも青く覆われ、この世界が存亡の危機に瀕しているなんて誰の想像にも余るだろう。
打ち身だらけの体を、高所を抜ける風が冷ましてくれる。
目の下には、さっきまで自分のいたぞんざいな区画が見える。
もともと有った訓練所に隣接する形で急遽増設された青空練兵所。
むき出しの地面の上で仲間達が三々五々に伸びている様を眺めながら、胸に溜まった息を吐いた。

「どうしたの。こんなところで溜息?」
いきなり声を掛けられ振り向いた。
青く長い髪が風になぶられ靡いている。見たことのない顔――それはお互い様だろうか。
今、このエルスサーオには各地のスピリットがかき集められているのだから。
といっても半分は、戦力未満の見習いばかりで、それを何とか使えるところまで持って行く為であったけれど。
そして、自分もそんな一人。

「どうって……不安なんです」
立ち姿一つで、自分では及びも付かない古兵であることが感じとれた。
逡巡の後には、隠してもしょうがない、けれど、どうしようもない不安を吐露していた。
それは自分でも結構不思議なほど。

「これからどうなるんだろうって?」
「はい」
隣りに並んだ青スピリットは髪を抑えながら流し目を送ってくる。
「戦いが終わったら、自分はどうすれば良いんだろうって……女王陛下の仰るように本当になったら、
きっと何にもすることがなくなっちゃうって」
聞いていた隣の青スピリットは何故か目を丸くしている。
「あの……なにか?」
次いで、青スピリットはくっくと笑い出した。
何か変なことを言っただろうか? 自分でも分からないけど、顔が熱くなっていく。
「あなた面白い娘ね」
「ど、どうしてですか」
肩が痛いくらいに叩かれた。

「だって、明日にもエターナル達との世界を賭けた決戦が有るかも知れないっていうのに、戦いが終わった後のこと考えてるなんて」
「それは、そうですけど」
理は分かるけどムッと来る。自分にとっては大問題だというのに。
「まあいいわ。これで勝ったも同然ね」
石壁に着いた手の反動で身を起こして、青スピリットは自分を見る。まだ笑っている。
「勝ったって何がどうしてです?」
「分からないならそれでいいの。でも、そうね……全部片が付いたら教えてあげるわ」
そう言うと、青スピリットは踵を返して歩み去っていく。背中からまだ笑っているのが分かる。
何だか、これでは一方的な損ではないか。肩をさすりながら睨みつけようかと思ったけれど、
それはそれで小さい気もして、結局視線を地平に戻した。
それでも耳だけはそばだてて……足音が途絶えたと思った。
「だから、まず生き残りなさい。それで、気が向いたら訪ねてきて頂戴。私はラキオスのセリア。セリア・ブルースピリット」
耳を疑って振り返ると、白い翼を花のように広げた姿が、塔を舞い降りていく所だった。
「あの人がセリア……」
たったの2年で大陸を平定した、ラキオススピリット隊の要の一人。噂とはずいぶん違う……。

叩かれた肩がまだジンジンする――まあいいか。結局、何が言いたいのか良く分からなかったけれど、
もしも生き残ったのならあの人に責任をなすり付けよう。勝手なことを言う方が悪いのだから。
これはこれで目的だろうか? 自分の考えに忍び笑いながら訓練の再開時間に間に合うよう塔を駆け下りていった。

……そして、死ぬほどしごかれた。完全に目を付けられた気がする……。