別世界から愛をこめて

薄ぼんやりとした意識の中、ゆっくりと目覚める。
だが、瞼を開いても景色は霞みがかり、乳白色の空間が広がるだけ。
ああ、夢だな、これ。胡乱な頭の隅で、そんな事を考える。それにしても、気持ちが良い。
『……主』
「……?」
ふと、まどろみの奥から響いてくる声。聞き覚えのある、声。
光眩い中、そっと手を差し伸べてくるのは少女。美しさに、息を飲む。
『我は主を誇りに思う……そなたが我が主となったことが、我は純粋に嬉しい』
「……『紡ぎ』、なのか?」
はっきりとしないシルエット。そもそも、人の姿は取れない、と言っていた。
それでも、この声は。いつも、凛と冷たいようで優しい響きは、間違えようがない。
答えてはくれなかったが、微かに微笑んだような気配が正しさを証明してくれる。
『これからも、我は主とともにある』
長い銀色の髪がふわりと揺れ、触れた腕(かいな)がそっと抱き締めてくれる。
『我と主は……一つだ』
「『紡ぎ』?」
『此度の任務で疲れているのだろう? しばし、我が胸で眠るといい』
「……ありがとう、『紡ぎ』」
母親に包まれているような。そんな慈愛の中で、ゆっくりと目を瞑る。
眠りは、すぐに訪れる。暖かい、愛おしさと共に。

『おやすみ、主よ……』

同時刻、リティル・クハ・トーサ。

『これからも、我は主とともにある』
「ねーねーパパ見て見て、この神剣さん、ぶつぶつと寝言を言ってるよ、面白~い」
「こら、つっつくなって。しっかしまたなんだってこんな所で寝てるんだ」
『そうだ、良い調子だぞ我が分身。たまにはデレも見せないと、ツンだけでは飽きられるからな』
「……なんだか難しそうだね」
「……ああ、妙に不穏な単語も聞こえてくるけど。それより分身って」
「う~んオルファの『再生』みたいなものなのかなぁ」
「そういえば時深がそんな事言ってたっけ。龍を分身代わりにばら撒く神剣もあるとか」
「この神剣さんは、女の人の形なんだね。額に飾ってる宝石、綺麗だなぁ」
『我と主は……一つだ』
「わっ! わわわっ! パパは見ちゃだめっ!」
「え……ってうわっ、なんでいきなり悶え出すんだ?!」
『此度の任務で疲れているのだろう? しばし、我が胸で眠るといい』
「いや、そんな事言われても」
「も~っ! なんでパパ、鼻の下伸ばしながらふらふら近づいちゃうの~!」
『あんっ。こ、こら、あまり強く押し付けるでない』
「え? いや、俺まだ何も」
「馬鹿ぁっ!」
「ぶべらっ! ちょ、ちょっと待てオルファ、ほら、大人しくなったみたいだぞ」
『ゆっくり休むがいい、主よ。目が覚めれば、また新しい日々が始まる』
「……なんだか大変そうだね」
「……ああ、ピンク色の精霊光なんて初めて見た。ところで主って、誰なんだ?」
「さあ? ……あ、短剣に戻ったよ。パパどうする? 拾ってく? すっごく強そうだけど」
「……いや、よしとこう。何故だか寝起きの悪いニムントールを連想しちまうし」
「あ、あはは。そうだね、起こしたら怒られそうだね」
「ま、それは冗談だとしても。いいんじゃないか、このままで」
「……うん。じゃあね、神剣さん」

『おやすみ、主よ……』