戦場のメリークリスマス

今日は、スリハの月黒みっつの日。
ハイペリアでは、くりすますというお祭りだそうです。
料理を教えて頂いている時に、キョウコさまがこんな風に仰っていました。

『あっちじゃこの日はね、大切な人と一緒に甘~い一時を過ごす日なの』
『そ、そうなんですか?』
『そうなの。ヘリオン、好きな人いるんでしょ? 頑張んなさい』
『なっ! ななななんでそうなるんですかぁ?!』
『なんでって。こういうのも、きっかけなんだから。チャンスってのは、自分で引き寄せるものよ』
『そ、そんな無理ですよぅ~! 唐突すぎますし……』
『はは、ま、ヘリオンの性格じゃあしょうがないか。てか、やっぱり居るんだ好きな人』
『ゔ……もしかして、またからかわれてますか、わたし……』
『そんな事ないわよ。でも、別に憶えておいて損はないでしょ?』
『あうう……そうですけどぉ……』

すみません、キョウコさま。こんな性格でも、思いっきり二人っきりになれちゃいました。
しかもこんなに薄暗い場所で、これでもかっていう位密着してます。心臓ばくはつしそうです。

「しっかし、まいったなぁ」
「ははははははいっ?!」
「うおっ、何だ! 俺、なんか変な事言ったか!?」
「ああああいいいええそそそそんなことはっ」
「……ぷっ。落ち着けよヘリオン、いくら敵のど真ん中で遭難中だからって」
「あぅ……はいい……」

そうです。わたしが悪かったんです。
ニーハスからの進撃中に、調子に乗ってマナ結晶を取りに行こうとしたらいつの間にか敵に囲まれて。
助けに来てくれたユートさままで巻き込んでしまって、夢中で逃げてたら森の中に迷い込んで。
おまけに足まで挫いてしまい、たまたま見つけた洞窟の奥でユートさまごと動けなくなってしまって。

「ま、どうやら近くに敵の気配は無いようだし。暫くは、ここで救援を待つしかないか」
「はぅっ!……すみません~」
「ああいや、別に責めてる訳じゃないって。それより足、大丈夫か?」
「は、はいっ、へっちゃらですこんなの……いたっ」
「ほら、無理するなって。辛かったら寄りかかってていいから」
「そそそそんなめっそうも」
「遠慮するなよ。ほら」
「ぁ……はぅ……」

すっかり頼りっぱなしで情けないやら申し訳ないやら。
なのにわたしってば、心のどこかで喜んでしまってるんです。
暗闇でも、闇の加護を受けてるブラックスピリットは夜目が利いちゃったりするんです。
おかげでユートさまの横顔なんかがコレでもかっていう位はっきりくっきり見えちゃってます。
息が苦しいのは、酸欠のせいなんかじゃありません。暑いのは、洞窟が狭いからじゃありません。
ちょっと足首を庇って動いただけで、ユートさまと色々接触してしまいます。ひゃああ。
あ、でも、ちょっと気持ちいいかも。ユートさまの肩、大っきいなぁ。何だか安心します。

「……ユートさま?」
「ん? どうした? どっか痛むのか?」
「あ、いえ……あの、今日って何の日か、知ってますか……?」
「今日? いや、なんかあるのか? 俺、こっちの祝日とかは知らないぞ」
「あぅ……えっと、その、ですね。そうじゃなくてですね……」
「?」

困りました。ユートさま、本気で首傾げてます。
ってよく考えたら、二人っきりになってからどうしたらいいのかは教えて貰っていませんでした。
もしかしてわたし、かなり間抜けな発言をしてしまっているのでしょうか。助けてキョウコさま。
じゃなくて、えっとえっと。あわわ何も思いつきません。泣きそうです。
暗くて良かった。きっとユートさまには気づかれてないはずです。そうでないと困ります。

「ヘリオン?」
「はわわわわはいぃっ」
「……本気で変だぞ? 何だか困ったような顔して、今日ってそんなに大事な日なのか?」
「はいっ! それはもうっ」
「うおっ、そ、そうか」

気づかれてました。ユートさまの視力、凄すぎです。ってもうそんな事どうでもいいです。
きっと、これがキョウコさまの仰っていたチャンスなんです。速さで負けちゃいけない所なんです。
怖くなんか……怖くなんかないですっ。戦闘よーいっ。『失望』……一緒に行こうっ!

「ああああのきょうはいぺぺぺりあああでわくくくりすまますでだいすきな」
「待て待て、ほら、深呼吸」
「ははははい……は~~~~……ふ~~~~……」
「うん、はい、吸って、吐いて。落ち着いたか?」
「お、おかげさまで……それで、ですね。今日は、くりすますなんですっ」
「クリス……ああ。そっか、もうそんな時期なのか。って良く知ってるな、そんな事」
「あ……えへへ……」

ユートさまに、褒めて貰っちゃいました。ついでに髪まで撫でて貰っちゃいました。
顔が緩んじゃいます。頬っぺたが熱くなっちゃいます。力、抜けちゃいます。ふにゃふにゃです。
思わずもたれかかっちゃいましたけど、苦笑いをしながらちゃんと受け止めて下さります。
ユートさまの匂いって、凄く安心出来るから不思議です。
ほんとは敵に囲まれてるのに、目を閉じていても怖くないから。
ほんとはわたしのせいなのに、全部許されているような気がしてくるから。
心臓の鼓動がゆっくりになって、全身がリラックスして。何だか雲にでも乗っているかのように穏かで。
でもこれじゃ、言えちゃうじゃないですか。もう言わなくてもいいやって位、幸せなのに。

「……クリスマスって」
「ん?」
「……クリスマスって、大切な人と一緒に過ごす日だって聞きました……」
「あ、ああ。確かにそんなイベントもあったなぁ」
「ユートさま……わたし、ユートさまと一緒に過ごせて」
「でも、本当はちょっと違うんだけどな。サンタクロースって知ってるか?」
「はい……はい?……違う、んですか? さんた? く?」

あれ? なんか、雲行きがおかしく。違うって。
えっとキョウコさま……わたし、なにか間違えましたか?
はぅ、ユートさま、鼻の頭擦りながら、何だかバツの悪そうなお顔に?! もしかして呆れられてますか?!

「えっとその……ユート、さま?」
「ん? ああ、クリスマスってのは俺達の世界で、ちょっと有名な人が生まれた記念日でさ」
「? はぁ」
「んー、難しい事は省略するけど、その日はサンタクロースって奴が良い子にプレゼントを持ってくるんだ」
「……えっとぉ……それだけ、ですか?」
「ああ、本当はな。でも俺の国じゃ、何故かそれがさっき言ってたイベントみたいになってるんだよ」
「……」
「まぁあっちの世界でも国によって文化に違いが……あれ? ヘリオン?」
「はふぅ……」

キョウコさまの、嘘つき。
もう、ふらふらです。精も根も尽き果てたです。真っ白に燃え尽きちゃいました。ブラックスピリットなのに。
あ、でもちょっぴり面白いお話が聞けました。さんたくろーすさんがどんな方かは良く判りませんけど。
良い子はプレゼントを頂ける日なのですね。でしたら……でしたら、こんな世界でも。ユートさまに。

「……お、どうやらやっとみんな、来てくれたみたいだ」
「はい。……くす、ネリーの気配だけ、凄く判り易く近づいてきますね」
「セリアが何だか怒ってるみたいなのがちょっと怖いけどな。……さて。よっと」
「きゃっ! わ、わわわユートさま?!」
「おっと、暴れるなって。まだ痛むんだろ?」
「でででですけど、重いですよぅ」
「重い? はは、むしろ軽い位だ。ヘリオン、小っちゃいからなぁ」
「ゔ……どうせ、小っちゃいですよぅ。背も中々伸びてくれませんし……」
「いじけるなって。ほら、小さいからこうやって軽々運べるんだしさ」
「む~、何だか納得いきません~……あ、ユートさま?」

もうすぐ、洞窟の入り口。
とっても恥ずかしいけど、それまでに。
みんなに会ってしまえば、きっともうからかわれて遊ばれて頭真っ白になってしまいますから。
次第に明るくなってくる外の光と新鮮な空気にちょっぴりだけ勇気を貰って、1つだけ聞きたい事を。

「ん?」
「ユートさまなら……何が欲しいと思いますか? その、さんたくろーすさんに貰う、プレゼント」
「俺?」
「はいっ」
「んー、そうだなぁ」
「……」

わたしに出来ることでしたら、なんでも。ですから、教えて下さい。
今までに頂いた心の代わりなんて、きっととても追いつかないでしょうけれど。
闇の加護は、暗闇でもユートさまの横顔をはっきりと映し出してくれました。
でも、逆光に照らされた表情は眩しすぎて。目を細めても全然駄目で。
今はただ、声色だけに耳を欹てるしかなくて。それがとってももどかしいです。

「……うん。今は、無事ならいいや」
「無事……?」
「ああ。戦いで誰も死なないでいてくれたら、それが最高のクリスマスプレゼントだな」
「ぁ……」

やっぱり、ユートさま。
予想も出来なかったけど。わたしだけじゃとても叶えられないプレゼントだけど。
でも、わたしも頑張れば、ちょっぴりだけでもそのお手伝いは出来ますから。
キョウコさまの言うとおりでした。ユートさまの「大切」が、わたしだけじゃなくても嬉しくてたまりません。

「……はいっ! 頑張りますっ」
「うわっ! なんだ、急に元気になって」
「えへへ~。秘密ですよぅ」

呆れられても、もう悔しくなんかありません。
皆さんの声が、森の向こうから聞こえてきます。
でも、大っきな背中も暖ったかい心も、今だけは独り占め。
きっとそれが、さんたくろーすさんからのプレゼント。だから……がんばりましょう!!