るーむしぇありんぐ

一旦Lv.上げの為にと膠着させてみたマロリガン最前線。
殉教者の道の入り口にさしかかるこの街は大陸でも珍しく、付近に広がる森の木々が銀の装飾を纏っている。
その、戦争の合間に訪れたささやかな休日。雨どいにつららが伸びる、穏かな昼下がり。
雪を見てしまってはもう落ち着かず、犬も喜ぶやっかいな性(さが)で外を飛び跳ねる年少組とはうって変わり、
ここニーハスの仮設詰所に集まった4色8人の年長組は、コタツを囲んでの和やかな談笑なぞを交わしている。


  構図:
              ヒミカ  ハリオン

        ナナルゥ            ファーレーン
                 こたつ
        ウルカ             セリア
     
             エスペリア アセリア  

「うーん暖かいですねぇ……ハリオン?」
「すやすやぁ~……zzz」
「あら?……ふふ」
もとい、1名は既に脱落。残り7名。
既に小1時間は花が咲いたソゥ・ユート談義に、元々ぼんやりとした精神が耐え切れなかった様子。
隣のファーレーンが柔らかに微笑み、コタツの中央に積まれた冷凍モンナの山に手を伸ばす。
その正面でモンナの皮を剥き、共食い寸前のヒミカは憮然とした表情を隠しもしない。

「寝てるのはまぁいつもの事だけどさ。こう見せ付けられるのも何だか腹立つなぁ」
「自分の胸を枕にするって……何というか、器用ね」
「ハリオンですから」
うつ伏せになったハリオンは、天板に乗せた自らの胸の谷間に顔を埋めて寝こけている。
ヒミカがこぼさなくてもその驚異的な光景は、先程から無言の羨望と嫉みと呆れの視線に晒され続けていた。
お気に入りのハーブを口にしながらあくまで冷静な姿勢を崩さないセリアに、更に冷静なナナルゥが答える。
するとその視線の種類を微妙に勘違いし、自らも試そうと好奇心旺盛なのがウルカとアセリア。
「……手前にも出来るのでしょうか」
「ん」
「こら、いけませんアセリア。お行儀の悪い」
ウルカは再現可能っぽいが、アセリアはまだこれからの成長に期待といったところで、悪戦苦闘四苦八苦。
ちなみに窘めようと苦笑しているエスペリアの表情には、どことなく成功者のような自信が漲っている。

「それにしても……」
「……狭い、ですね」
互いを窺うように、隣り合わせのセリアとファーレーンが呟く。
それもそのはず、4人しか入れないような通常大のコタツの中に、計16本の美しいおみ足がくんずほぐれつ大渋滞。
もじもじと軽く身を捩るだけでも誰かの太腿に触れてしまう。何かの拍子にうっかり不可侵区域へと突撃しかねない。
まるで白鳥のように上半身だけで優雅にモンナを頂き、ハーブの香りを味わい、誰かの話題に微笑みを返す。
しかし水面下で行なわれているのは、遠慮しつつの懸命なテリトリー争い。擦れるハイソの皺も気になるお年頃。
「ちょ……やめてよ」
「へっへっへ」
妙な笑みを浮かべながらの攻めナナルゥに、受けヒミカが言葉だけの抵抗を示す。
ぷるぷると細かく震える指先で、それでもモンナの白皺を丁寧に剥く素振りを絶やさないのは流石というべきか。
調子に乗ったナナルゥの爪先が器用にもつつつーと這いずる度に奇妙な感覚が背中を駆け上がってくるのにも耐える。
恣意的では無いにせよ、各地では頻繁にその手の接触事故による被害が多発しており勢力図の変化が目まぐるしい。

「ねぇちょっと強くない? ヒートフロア」
「いえ、『消沈』の力に別段変化は確認できません」
「そうでしょうか。では、ヒミカ殿が?」
「わ、私はもうとっくに止めてるわよ」
「ん。ちょっと暑い」
「そうですね、私もちょっと……あ、あら? エスペリア? エスペリア?」
「……うきゅぅ」
とか言っている間にも犠牲者1号発生、残り6名。そして緑全滅。
顔に微笑みを張り付かせたままスローモーションでうつ伏すメイドはある意味シュールな光景。
ぽふり、とダイレクトキャッチした胸が歪んで衝撃を吸収し、皮肉にも先程までの自信を見事に証明してみせる。
それにしても、熱にも寒さにも勝てないとあっては体質の弱さというだけではもうフォローのしようもない。
皆気の毒そうな、それでいて無かった事にしておいてあげた方が、といった戸惑いの空気が流れ、視線だけで牽制し合う。
そんな中、あまり表情には出さないが微かに頬を膨らませて不満げなのは窘められたばかりのアセリアとウルカ。
「ん。エスペリア、自分だけずるい」
「ふむ、では手前も」

ごいん。

「……痛い」
「ふむ、これは中々。おや、アセリア殿、いかがなされた?」
決して小さいという訳では無くとも、ハードルが高ければ振るい落とされるのが世の常。
無事クリアしたウルカは何故アセリアが失敗したのか判らず、そのボーダーラインにすら気づかない。悲喜こもごも。

「あー、えっと、そっとしておいてあげなよウルカ」
「それはぁ~同族、相憐れんでいるのですねぇ~」
「誰がよっ! ……って寝言? 質悪いわね」
そしてボーダーラインを知るのは常にドロップアウトした者のみ。
文句を言いながらも、正面のヒミカは倒れたエスペリアが所有していた空間の占拠を早速試みる。
しかしそのスペースには既にウルカのおみ足が2本立ち塞いでいて、褐色のバリケードが何人たりとも侵入を許さない。
流石大陸にその名を馳せた漆黒の翼、こと局地戦に於いては同族に遅れを取った事などはないのである。

「ところでセリア、は、あ、あれは良くないのでは」
「え? いきなり何よ、あふぁっ、ファ、ファーレーン」
ヒミカとウルカによる激しい制空権争いの間、ファーレーンとセリアは太腿同士を心ならずも摺り合わせながら、
それでもじんわり汗を掻きつつ表面上ではあくまで日常的な会話を継続しようと試みている。
しかしやはり反射的な刺激にはいかんとも抗し難く、所々吐息混じりなのが傍から見ると色っぽい事この上ない。
「で……ンッ、すからその、アッ?!」

ぱたり。

「……え? ちょっとファーレーン? わ、私じゃないわよ?」
「奇襲成功。拠点占拠完了しました」
隣のセリアとの凌ぎ合いに夢中ですっかり油断していたファーレーンの甘くなった太腿の間をすり抜けたのは、
一瞬の機会を虎視眈々と窺っていた赤いニーソックス。威力3倍、情熱の爪先イグニッション。
燻ぶりかけていた所に敏感な部分をピンポイントで責められたファーレーンは一瞬ぴくん、と顎を仰け反らせ、
短くあ、と漏らしたかと思うと糸の切れた操り人形のように机の上へと突っ伏してしまう。
取りあえずの脅威が去った筈のセリアでさえもが一体何をしたのかとその手並み、もとい足並みに呆れ返る。残り5名。

「良く判らないけどやるわね……レッドスピリットのくせに素早い」
「へっへっへ」
「ちょっとナナルゥ、重い、重いってば!」
「……そこはかとなく失礼ですねヒミカ」
自らの肢を踏み台にされてしまったヒミカが狭い空間で身悶える。
が、質感たっぷりの太腿にがっちりホールドされていて動けない。ニーソックスの皺だけが増えていく。
しかも摩擦が余計にコタツ内温度を上昇させ、既にヒミカの額からは玉のような汗が滴り落ち始めている。
「そんな事より、お陰でファーレーンが何を言おうとしていたか判らなくなったじゃない」
「熱いし、重いし……」
「セリア殿、ファーレーン殿はきっとこのような諍いを嘆いておられたのではないかと」
「うるさいですよ、ヒミカ」
「ああ、なるほどね。確かに、あまり暴れられると机の上も危ないし」
「あああ重いー! あああ熱いー!」
「ずずず……うむ、コタツの作法とは、和む事にこそあるのではないかと」
「凄い、この振動の中で、零さない」
「感心してる場合じゃないでしょアセリア、私達もモンナを抑えるわよ」
「ん。ところでウルカ、暑くないのか?」
「心頭滅却すれば、ヒートフロアもまた涼しですアセリア殿。ずずず……」
「だあああああっ! 何でこんな我慢してまで篭っていなきゃ――――はぅっ」

くたり。

「あ、治まった」
「すみませぬ、余りにも煩わしかったものですからつい」
「つい?」
「その、土踏まずと小指の付け根の急所にこう、左脚の親指で順に刺激を与え、撃退致しました」
「よほど凝っていたのでしょう、悶絶している可能性が高いようです。ですがこれで心置きなく乗せて置けます」
「どこが心頭滅却よ……敵にだけは回したくないわね」
「ウルカ、その技知りたい」
「これはハイペリアに伝わるシアツという秘伝でツボを誤ると危険なのですが……ふむ、ではこの後訓練ででも」
「ちょっとウルカ、うちの子に変な事教えないで頂戴。アセリアも、頼まない」
「そうですか……残念です」
「……残念」
「へっへっへ」

残り4名。

ようやく通常の定員に落ち着いたコタツだが、脚の数が減った訳ではないので人肌により確実に温度上昇を続けている。
そこでアセリアは殆ど自己保存の為、セリアは周囲に気を配り、こっそりとアイスバニッシャーを試みている。
だが、ヒミカが気絶してヒートフロアの威力が半減しているにも拘らず、何故か一向に効果が上がらない。
自然、2名の視線は自然ともう1人のレッドスピリット生き残り、すなわちナナルゥへと集中する。
「……なにか?」
「いえ、なんでもないわ。それにしてもやっぱり少し暑すぎるようね」
「気のせいでしょう。少なくとも私は快適と認識しています」
「ん。ナナルゥ、『消沈』」
「……ふむ。これは」
ウルカも加わり、全員の視線が今度はナナルゥの傍らに寝そべっている『消沈』へと注がれる。
そこにはぶ厚い刀身に煌々と照らされ、活発に増殖を続けている炎のマナ。倍率ドン、更に倍。
「……」
「……」
「……」
「問題ありません」
「問題ありません、じゃないでしょっ! マナよ、我に従え 彼の者を包み、深き淵に沈めよ」
「セリア、エーテルシンクは強すぎ。お茶が、ん、零れる」
「そういう問題ではありませぬアセリア殿。止めないと我々も巻き添えに」
「ん。まかせろ」
「……ひゃっ! ちょっと、何!?」
かっとなったセリアを制止するのは、ラキオスが誇る青い牙と漆黒の翼との連携プレー。
すばやく折り畳んだアセリアの脚がセリアのニーソックスの付け根を指先だけで摘み、そのままずり下ろす。
と同時に正面から伸びたウルカの爪先が剥き出しになった太腿から膝裏へとつつーっとソフト in ワンでなぞり上げる。
迅速かつ的確な攻撃に敏感な部分ばかりを捉えられ、力の抜けたセリアはなす術も無い。上半身だけで身悶えを繰り返す。

「ちょ、止めなさいってば……あんっ、くぅっ! や、きゃは、きゃははははっ」
「む、ここですな。まだ荒削り…しかし、良い感度を持っておられる」
「く、くすぐっ、くふぅぅぅっ! だ、だめ息が、きゃはははははっ、ははっ、はははっ!」
「セリア、面白い顔」
「では私も」
「おっ、面白くなんか、はっ、ナっ、ナナルゥ、元はといえば貴女が、きゃうぅんっ! ~~~っ、」
興味を持ったナナルゥまでもが制止も聞かずに脚を伸ばす。しかし突撃した先は僅かに軌道を逸れ、一気に本丸へと突入。
昂ぶっていた所に自身の持つ最大のスイッチを強めに圧されてしまった身体は大きく仰け反り、三秒ほど硬直してしまう。
その瞬間、セリアはようやく悟っていた。先程ファーレーンを追い詰めたものの正体を。しかし、もう時既に遅し。
そのままぶるっと身震いし、がっくりうつ伏してしまった後に残されるのは、テーブルに散らばった長いポニーテールのみ。
「~~~はああっ、はぁっ……」
「はて、面妖な。太腿がじっとりと汗ばまれている様子。セリア殿、そんなに暑いのですか?」
「こちらでも確認しました。爪先が冷たく湿ってやや不愉快です」
「こ、この……そこっ!」
「――――ぬっ!」

しかし、散々責められつつも、セリアはこの瞬間を狙っていた。
接触しているからこそ判る、油断して弛緩しきったウルカのもちもちな太腿を。
脚を伸ばし、褐色の肌をすれ違うように滑り抜け、爪先に溜め込んでいたマナを一気に放出する。
丁度ラキオスとは異なる戦闘服の内股を摺り上げ、辿り着いた華奢なおへその辺りへと。
「手加減はしません…… 最強の技で葬り去るのみっっっ!!!」
「かはっ……ぁ……」
「はぁ、はぁ……こ、こういう戦い方だってあるのよ……きゅう」
「よ、よくぞその場所から……しかし、次は逃がしませぬ……きゅう」
力尽きたセリアはにやりと勝ち誇ったように微笑み、目を閉じる。
一方渾身のエーテルシンクをまともに受けてしまったウルカも苦痛とも悦びともつかぬ笑みを浮かべ、
ゆっくりと上半身を傾け、そのままテーブルに乗せた自身の胸へと沈んでゆく。こう、たゆん、と。
「セリア? ウルカ?……動かなくなった」
不思議そうに首を傾げたアセリアがつんつんと頬っぺたを突ついてみるが、ゆらゆらと揺れるだけで二人とも反応が無い。
だが壮絶な戦いを終えた彼女達の寝顔には、妙に満足しきったような満ち足りたものが浮かんでいたという。残り2名。

「静かになった」
「休息なのですから、問題はないのでは?」
「……つまらない」
「では草笛でもふきましょうか」
「今はいい」
「そうですか」
「……」
「……」
スピリットは一般的にすらっとした綺麗な脚線美を持ってはいるが、それゆえ太腿にはボリュームを持っている。
よって意識が無く、だらしなく横たわる太腿はやはりそれなりに重い。全てしっとりと汗ばんでいるとなると尚更。
垂直に交わっているそれらを乗せる気にもなれず、アセリアはファーレーンやセリアの上に自分の脚を乗せている。
小さなお尻がちょっと浮かび上がるような感じになるが、仕方が無い。多少ニーソックスの擦れも気になるが、我慢する。
ふと、正面のハリオンが目に止まった。精確には、ハリオンが埋まっている、巨大なふたつのクッションが。
周囲を見渡してみると、ヒミカ以外のだれもかれもがそこに埋もれて気持ち良さそうに寝息を立て。レッツ再チャレンジ。

ごいん。

「……痛い」
「……アセリア、学習能力という言葉を知っていますか」
「良く判らない。……けど、ん。わたしとヒミカだけ、出来ない。どうしてだ?」
「……これのことですか?」

たゆん。

「む」
「相応な反発力です。快適と判断します」

たゆんたゆん。

「……ずるい」
「よくわかりません……ですが」

たゆんたゆんたゆんたゆん。

「睡眠欲を確認。先制攻撃、いきます」
「あ」
「……zzz」
「……」
数々の犠牲者を輩出し、最後は結局自分から快楽の虜となったナナルゥが眠りへと没入する。
全然先制攻撃でも何でもないのだが、アセリアだからそんな突っ込みは浮かばない。
ただ、気持ち良さそうに寝息を立てるナナルゥを不満そうに見つめる。ぽつねんと、ひとりぼっち。
やる事も無いので取りあえずモンナを丸ごと口に含み、頬っぺたをリスのように膨らませてみる。
そしてモンナをハーブで流し込んだ所で、ようやく仲間外れという単語が頭をよぎって焦り始めた。
このままでは、自分だけ寝遅れそうだった。

「……ん」
隣のエスペリアににじり寄り、メイドキャップごと頭を少しだけずらす。
自分で保有しているもののスペックが足りないのだから、代用品を探すしかない。
エスペリアのならば、片方に頭いっこでも充分間に合いそうだった。ぐにん、と歪んだ球体の先で何かが引っかかる。
「ん、んぁ……ゃ」
「?」
「ダメデス……ユート、さまぁ……」
「……」
一瞬くぐもった艶かしい呻きのようなものが聞こえたが、アセリアだから気にしない。
どかし終えるとそのまま自分の頭を右側のクッションへと押し付けてみる。
こちらを向いていたエスペリアと危うく唇がぶつかりそうになるが、アセリアだからやっぱり気にしない。
そのまま目を閉じてみる。するとなんとなくミルクのような、不思議な匂いが気持ちを落ち着かせて。
「zzz……」

残り0名。

という訳で。
「よ、どうだコタツは……ぅおっ、なんだこりゃ」
様子を見にふらっと立ち寄った悠人が見たものは、巨大マシュマロに包まれた、赤青緑黒の仲間達。
ある者は長い睫毛をぴくぴくと震わせ、ある者は艶めいた小さな唇から悩ましげに吐息のような寝息を立て。
ある者は半分脱げかけたニーソックスを絡ませつつ顕わになった脹脛をこたつの下から淫らにちらつかせ。
またある者は今にもキスしてしまいそうな距離でお互いに寄り添い合い。
それでなくても美少女達が無防備に頬を染めた寝顔をそれぞれ晒し、華奢な肩を微かに上下させ、
その度に彼女達の魅力的すぎるソレもたゆんたゆんと微妙に波打つ、謎すぎる耽美なシチュエーション。
「い、一体何が……ごくり」
これでは光陰や『求め』でなくても思わずのけぞり、喉を大きく鳴らしてしまう。
そして静まりかえった部屋で、その音は必要以上に大きく響いてしまい、焦りで上がった体温が鼻腔をくすぐり。
「ぐっ……やばっ」
どたどたどた。溢れ出る鼻血を懸命に抑えながら、慌てて部屋を飛び出して行く。
『求め』が不満そうに何かを言って来たが、取りあえず撤退するより他に、悠人はこの現状で自制する術を知らない。

翌日からのラキオススピリット隊は平常運転で、本来の目的でもあるLv.上げの訓練も行なわれたが、
しかし何故か主導する筈のエトランジェのみが年長組に話しかけられるだけで顔を真っ赤にしながら逃げ出し、
その為部隊全体が動揺に包まれてしまい、侵攻計画そのものが見直される事になったという。どっとはらい。