飴と鞭と鞭と鞭

遠征先のランサ組と交代で取る休息にも、一つだけ問題がある。それは、食事の問題。
こればっかりは出来るメンバーが限られているので、必然、彼女らに頼るしか術がない。
ランサとのローテーションも、変な話だがそれらを主軸に考えられ、実行に移されている。
具体的にはエスペリア、オルファ、ハリオン、セリア、ファーレーン、それに補欠でヘリオン。
彼女達が同時に居なくなると食糧事情が深刻に悪化してしまうので、特に注意が必要だ。
以前、今日子とアセリアとヘリオンに妙な料理を食わされてから、そう硬く心に誓っている。
だが、元々一人だけでも残ってくれていればいいとか考えてたのが、そもそもまだ甘かった。
もう少し余裕を持たせて人員確保していれば、こんなことにはならなかった筈なのに。
そう、引き金はとっくに指にかかっていた。今日唯一の料理人が確定していたその時に。

「ぐっ……」
「?どうかしましたか、ユート様」
「い、いや……セリア、これ、随分独特の香ばしさがするな」
「そうですか? 簡単なものですけれど。栄養重視で作ったからかも知れません」
「な、なるほど」
手元に配られたばかりのスープ皿を眺める。勿論、まだ口をつけてはいない。
いや、口などつけなくても、これだけは匂いで判断できる。色まで滲み出ているとなれば尚更。
背中に嫌な汗が流れ、持つスプーンが皿にぶつかりかちゃかちゃと音を響かせてしまう。
顔を背けるように見渡してみると、ヒミカとナナルゥとウルカは大人しく食事を始めている。
シアーは躊躇いつつも慎重に口に運び、目を瞑りながらまるで薬湯か何かのように飲んでいる。
唯一、視線を漂わせていたネリーと目が合った。変形した苦笑いを浮かべている。おお、同士発見。
目聡く見つけたセリアが、早速そちらにも注意を促す。
「ネリー、早く食べなさい。成長期に好き嫌いをすると、ロクなことがないわよ」
「ははは、はいっ! んぐっ……苦い~っ!」
「当たり前でしょう、リクェムを使ってるのだから。ほら、シアーだってちゃんと飲んでるわ」
「ぉ……ぉぃ∫ぃの」
「ほらごらんなさい。身体にいいのだから、いつまでも駄々を捏ねないで」
「ちょちょちょっと待ったあ! 今のシアーの台詞、変だったよね? 絶対絶対変だったよね?」
「そう? 気のせいよ。いいから早く、折角作った苦手克服メニューなんだから」
「シアー? シアー?」
「……どうやら、一気飲みを敢行したらしいな。無茶しやがって」
しかし、よりにもよって苦手克服メニューとかさらっと流したな。こともあろうにリクェムで。
シアーの皿は、綺麗に片付いていた。しかしその代わりに、シアーは燃え尽きて動かなくなった。
見ろ、これがリクェムの恐ろしさだ。大体これは最初から、食べ物なんかじゃないんだよ。
平気で食べていられる方がおかしい。そんなものを無理矢理なんて、どう考えても理不尽だろ。
そうだ、俺は断固として拒否する。いいじゃないか、好きは好き、嫌いは嫌いで。俺は嫌いなんだ。

「ユート様も、あまりのんびりとしている暇はないのですから。この後は訓練もありますし」
「あ、ああそうだなははははは」
「?」
いかん。咄嗟に拭ったけど、冷や汗に気づかれなかっただろうな。
ここでバレる訳にはいかない。バレたらセリアのことだ、今以上に俺を軽蔑するだろう。
ただでさえ隊長としての威厳が殆ど通じない相手なのに。いや、最初からないけどさ、威厳なんて。
「あ~、ユートさまもリクェム苦手なんだ~」
「そんなので誤魔化そうとしても無駄よ。大体ユート様がそんな子供みたいな……ユート様?」
「……」
バレた。しかも、あっけなく。覚えてろよ、後でおしおきだからなネリー。
それはそうと、このデジャヴューはなんだろう。視線が妙に憐れみを含んでいるところとか。
ああそうか、オルファと一緒にエスペリアに叱られた時だ。今のセリアのように、態度も冷やかで。
あの時も、なんだか一方的に威厳を剥奪されたような気がして情けない気分になったっけ。
くそ、そんなに悪いことなのか? 俺がリクェム食べないと、マナ暴走でも始まるっていうのか?
「……どういうことか、説明してもらえますか」
「実は匂いだけでもだめなんだ俺、ははははは」
なんて素直なんだ、俺。
いや、だって、細くなったセリアの瞳が睨むとかいうレベルじゃなくなってきているし。
気のせいか、足元がすーすーし出しているし。ほら、乾いた笑いがセリアの周りで結晶化してるし。
まさかいきなり『熱病』の冷気で吹き飛ばされもしないだろうが、命あってのものだねともいうし。
あ、ネリーが居ない。逃げたな。なるほど、三十六計逃げるにしかずか。くーるも形無しだ。
って、気が付いたらもう誰もいないし。普通に食事を済ませたからか、単に避難しただけなのか。
「……ユート様、リクェムの苦味は薬湯と同じです。風邪などの病気を予防します」
「そ、そうだなうん。佳織もよくそんな風に言ってた。薬のコマーシャルみたいに」
「カオリ様にまでそのような苦労を……年上として、恥ずかしくはないのですか?」
「だけど、身体が拒絶するんだよ。吐き気とか、自分じゃどうにもならないだろ?」
「では、直される気はないと」
「いや、治るのなら治したいけどさ。治る物も治らないというか、人間限界があるっていうか」
「……はぁ~。つまり、この香りが問題なのですね?」
「あと、苦味も。あ、それに食感もかな」
「全部じゃないですか!もう、こんな所でもう一人ネリーが増えるなんて思わなかったわ」
「悪かったよ。でも俺だって、好きで苦手になったわけじゃないし」
「拗ねないで下さい。判りました。反省しているのなら、改善に向けての努力も示してもらいます」
「いや別に反省はしてな……は? えっと、改善ってまさか」
「さて、エスペリア達が戻るまで後三日か……何とかなるかしら」
「……なんだか嫌な雲行きだなぁ」
「ユート様には、対リクェム克服訓練に付き合って頂きます」
「うわ、やっぱりそうきたか」
「なんですか、うわって。不安はありません。シアーを克服させた実績がわたしにはありますから」
最早独り言のように勢い込んでいるセリアの背中には、いつの間にか炎が見える。なんて迷惑な。

『わっ、わっ、シアーの口からなんだか変な緑色の泡が~~』
『全身が痙攣を起こしています! どなたか、回復魔法をっ』
『そ、そんなこと言われても』
『グリーンスピリットが誰もいません』

「……実績、ねぇ」
不安だらけじゃないか。
救護室から聞こえて来る叫び声と目の前の問い詰めセリアに板ばさみになりながら、
俺はシアーの安否を気遣うよりも先に、どうやら自分の死期が早まったことだけはなんとなく理解した。

で、絶食一日目。

「まずはエスペリアの料理を再現してみました」
「ネリー、頑張れよ」
「うん。ユートさまも、一緒に生きて帰ろうね」
「どういう意味ですか、二人とも」
目の前のテーブルには、フルコースが並んでいる。詰所の食糧事情を考えると、かなりな贅沢だ。
きっと、相当腕によりを掛けたに違いない。いつものいい意味での簡潔なセリアの料理とは大違い。
その意気込みは、見慣れないメイド服姿からも見て取れる。なんでそんなに気合入ってるんだ。
「さ、召し上がれ」
「……」
「……」
ネリーと二人、顔を見合わせる。
いや、俺だって、こうして折角女の子が作ってくれたのだから、応える為にも美味しく頂きたい。
しかし目の前の皿は原型の判るブツ混じりの炒め物、中央に置かれた鍋からはぐつぐつと緑色の泡。
サラダボールの中はリクェムの大海の中に、申し訳程度に添えられた他の野菜が溺れている程度。
恐らく食せるものは、この料理全体でも数%しか無いだろう。つまり残りの90何%かはリクェム。
どうやったらこんな料理を創造出きるのか、今度エスペリアにでもじっくり確認してみよう。
「……ぐ」
それはそうと、なんか酸っぱいものが込み上げてきた。駄目だ。匂いだけで、やられてきた。
隣を窺ってみると、ネリーの発汗がおびただしい。視線も虚ろに焦点をずらし始めている。
少し離れた所で、皆が通常メニューを頂いているのが見える。ただそれだけの景色が心底羨ましい。
こっちにこれだけ使ってるんだから、在庫から考えても、向こうは一切使われていないのだろう。
シアーが実に活き活きと食事を頬張っていた。昨日の分を取り戻しているのに違いない。幸せそうだなぁ。
「なぁセリア、提案なんだ、……が」
「んぐ……はい、なんですか?」
「……」
食ってるよ、平然と。絶対味覚おかしいだろ。あ、いや、落ち着け。
いくら腹が減っているとはいえ、短気は良くない。ここはまず冷静な話し合いで活路を開くんだ。
「……こほん。いきなりスパルタってのもどうかと思うんだ。こういうのは、少しづつ慣れて」
「エスペリアには、どの位その言い訳を続けられたのですか?」
「ゔ」
「お話は、神剣通話で伺いました。生温い方法では、エスペリアやカオリ様の二の舞三の舞に」
「待った! 判った、でもそこで佳織の名前を出すのは反則だっ」
「んぐっ!」
「……っておい? ネリー?」
「んぐっ、んぐっ……ぐっ?!」
「馬鹿! なんて早まったことをっ! ほら水、水っ」
「んっ、んぐんぐ……ぷはあっ~~」
「大丈夫か? まだ生きてるか?」
「だから、どういう意味ですか」
「……美味しいっ! これ、美味しいよユートさまっ」
「……は?」
「ほら、これも。これも」
「でしょう。ちゃんと苦味が他の味を引き立たせてるのよ」
「うんっ」
「……嘘だろ?」
追い詰められたネリーが俺とセリアの会話の合間を縫って掻き込み、喉を詰まらせ、慌てて水を飲み。
そしてようやく一息ついた彼女の放った一言は、そう容易に信じられるものではなかった。
しかし、目の前で嬉しそうに腹ぺこを満たし続けるネリーを見ていると、嘘をついているとも思えない。
「さ、ユート様も」
「あ、ああ」
覚悟を決め、そっとスプーンを手に取る。実際、腹は減っていた。美味いのなら、食べたい。
しかし、どうしてもその先に進めない。強烈な匂いが障壁となって、相変わらず俺を阻む。
ぐつぐつと煮えたぎる、濃緑色のリクェム。ピラフのようだが米と同比率で炒められたリクェム。
この見事なオーラシールドを突破したネリーの猪突、もとい思い切りの良さに心底尊敬してしまう。
「……ぐはっ! やっぱり駄目だあっ」
「あっ! ちょっと、逃げるなんてっ!」
「ごめんっ! でも、匂いのせいで息が出来ないんだって!」
「……もうっ!」
後の報復が怖かったが、次第に立ち込め、室内を埋め尽くそうとしている匂いには勝てなかった。

で、絶食二日目。

「あのさ、ネリーの苦手は治ったんだろ?」
「はい。あのとおり、すっかり」
「じゃあもういいじゃないか。俺は普段第一詰所なんだから、誰にも迷惑かけないよ」
「不思議ですね。食事にリクェムが使われる度に、厨房からネネの実がなくなるのです」
「……」
「どこかから鼠でも潜り込んでいるのかしら。きっと、凄く硬い髪をしていると思いませんか?」
「……」
ばれていた。空腹に耐えかねて、こっそりちょろまかしていた事を。
しかもはっきりと罵倒されるならいざ知らず、こうも婉曲に批難されるとかえって後ろめたい。
っていうか、どういうわけかいつの間にやら躾の対象がネリーから俺に移行してしまっている。
テーブルの上には、その情熱を示すかのように工夫を凝らした料理の品々。もはや簡便さの欠片もない。
「匂いが苦手ということですので、取りあえずそちらは妥協することにしました」
「……うん、たしかに匂いはしない。いや、むしろ空腹をそそるというか」
「では、思う存分お食べください。美味しいですよ」
にっこり。まさかこんなところでセリアの笑顔が見られるとは。
成り行きとはいえ珍しい。初めてじゃないか、こんな風に微笑みかけられるのって。
……出来ればもっと違うシチュエーションで見たかったけれどな。こんな、死刑執行前とかじゃなくて。
恐る恐るスプーンで掬ったスープは緑色。ポトフのようだが、一体どんな香辛料を使ってるんだろう。
相殺された匂いは気にならないが、しかしその代わりに料理にも見えない。見渡してみても、緑緑緑。
少なくとも、こんな緑一色の料理群を俺は見たことがない。どうしてもリクェムを連想してしまう。
几帳面な彼女のやりそうなことだ。きっと匂いに重点を置き、それ以外本当にすっぱり切り捨てたんだろう。
その結果、こんな異様な料理が生み出されたに違いない。緑色のスクランブルエッグとか、泣きそうだ。
「さ、どうぞ」
「……」
しかし、テーブルに両肘を付き、両手に乗せた顎を軽く傾げ、微笑まれてはこれ以上抵抗も出来ない。
促されるまま目を閉じ、出来るだけ感覚を遮断するように心がけ、そっとスープを口にする。ぱくり。
「~~~~~~」
「どうですか?」
どうですか、じゃない。この独特の舌触り。鼻を突き抜けるような苦味。
変に香辛料の香りと交わって濃縮されたリクェムが味覚を駆け抜け、口中を麻痺させていく。
飲み込むことも吐き出すことも叶わず、当然、質問に答える余裕もなく、ただ涙目になりながら頷く。
無意識に、水を求めていた。頭を動かさないよう、手探りだけで探し当てたコップの中身を急いで口に
「ぶ~~~~っ!!!」
「きゃあっ!」
含んでしまったのは、どろりとした液体。ざらりと混じる、青臭いリクェムの繊維質。
その瞬間、堤防は決壊した。盛大に噴き出し、慌てて口元を拭う。とんでもない地雷を踏んでしまった。
「……あー、びっくりした。なんだこれ。ってうわ、青汁かよ」
「びっくりしたのは、わたしです」
「……あ」
我に返ってみると、テーブルの料理が全て台無しになってしまっている。っていや、そんなことより。
そうか、至近距離にいたから、まともに浴びたんだ。ろくに咀嚼もしていなかったポトフを、真正面から。
ああ、なんだかこめかみをぴくぴくと痙攣させてるし。目を閉じ、握り締めた拳をわなわなと震わせてるし。
いつの間にか手元に引き寄せたらしい『熱病』や頭上のハイロゥが、これでもかって位光り輝いているし。
前髪からぽたぽたと滴り落ちているのは青汁か。綺麗な髪がもったいない。……だめだ、こりゃ。死んだな。

で、絶食三日目。

「凍傷のおかげで背中に床ずれが出来そうだ」
「誰のせいですか」
「それにまだ右手が不自由な方向に曲がったままなんだけど」
「心配いりません。今度は前回の反省を活かして簡単なスティック状にしました。左手でも食べられます」
「そういう問題じゃないんだけどな。で、これは?」
「この際、舌触りも妥協しました。苦味も極力抑えてみました」
「なんだか、見た目粉っぽいな」
「穀物を磨り潰したものです。固めるのに、少しだけ苦労しましたけれど神剣魔法で解決しました」
「ふーん。でもやっぱり緑なんだ。ひょっとして、色に拘ってるのか?」
「そんなわけないでしょうっ。もう、文句ばかり言わないで」
「いや、でもなぁ……」
テーブルの上には皿一枚。そこに直方体の固形がごろんごろんと三本無造作に転がされているだけ。
ようやくセリア本来の、簡素で実用重視な料理に戻ったらしい。しかしこの見覚えのある形状、これは。
「……カロリーメ○ト?」
呟きながら、一本を手にしてみる。匂い、クリア。食感は、多分ぼそぼそとしたものだろうからクリア。
色は今更だが、抹茶かなにかだと思えばいい。不思議だ、なんだか食べられるような気がしてきた。
俺もジャンクフードに慣らされた現代人だったって訳か。そういやカップ麺も暫く食べてないなぁ。
「これで駄目なら、もうお手上げです。ユート様も、その覚悟でお食べ下さい」
「あ、ああ。そうだな。……いただきます」
いや、俺は元々苦手を克服しようだなんてこれっぽっちも考えていなかったんだけど。
そんな言葉は飲み込み、代わりにそのカロ○ーメイトの端をそっと齧ってみる。少し冷たい。
軽く口の中で転がしてみると、苦味はあまりなく、それよりも玉蜀黍のような甘みがふわりと広がって。
飲み込み、目の前で少しやつれたような顔で心配そうに窺ってくるセリアに、はっきりと頷いてみせる。
「……うん。美味しいよ。これなら俺でも食べられる」
「……よかった」
「ありがとな、セリア。俺のために、こんなに一生懸命になってくれて」
「っ! か、勘違いしないでっ! わたしはただ、隊長が示しをつけないとネリー達の躾が出来ないからっ」
「はは。三日も絶食した甲斐があったな。こんなに慌てるセリアは初めて見た」
「っっ! で、ではこれでっ。わたしは向こうでネリー達の様子を見てきますのでっ」
「あれ? セリアはこれ、食べていかないのか?」
「試食で」
「え、なんだって?」
「~~~~試食で、食べ飽きましたっ!!!」
言うなりいきなり立ち上がり、ずかずかと立ち去っていくセリア。
「……ぷっ」
しかしその顔が耳まで赤くなっていたのを俺は見逃さなかった。
大股で、ぎくしゃくとした背中に揺れるポニーテールを見送りながら、少しだけ噴き出す。
「……さて、それにしても」
たった三本の○ロリーメイトで、この空腹を満たせるだろうか。既に胸はある意味一杯な訳だけれども。

翌日。メンバー交代。

「相変わらず、どこを見ても砂だなぁ」
「当たり前のことを感心しながら言っても砂漠はなくなりません」
「そりゃそうだけどさ。ところでセリア、その大袋はなんなんだ?」
「今回の携帯食です。補給線がぎりぎりですので、備えは必要以上にしておかないと」
「そっか、気が利くな。ああいや、本来俺が考えなくちゃいけなかったことか」
「いえ、もう今更別にその方面では期待していませんから。それよりこれがユート様の分です」
「何気に酷い言われ方をされてるような……ってこれ、まさか」
「お陰様で、充分に用意することが出来ました。落とさないで下さいね」
にっこり。渡されたずっしりと重い袋の中身を覗き込んでみると、例の特製カロリー○イト。
他のメンバーを見渡してみても、皆ややげんなりとした表情で同じように渡された袋を覗き込んでいる。
そりゃそうだ。いくら苦手でなくなっても、元々苦手でなくても、ここ三日間同じ食材ばかりの食事。
いい加減飽きてきたところに、熱砂の中でもこれを食べ続けるのかと考えれば、げんなりもしてくる。
もしもこの精神状態を数値化出切れば、全員のマインド-10ポイントみたいな感じになるだろうか。
っていうか、俺のだけやたらと大きいような。一本一本がまるでジャイア○トポッキーのようだ。
顔を上げ、確認するようにセリアを見ると、もの凄く満足気に頷かれてしまう。駄目だ、勝てない。
「さ、ヘリヤの道が見えてきました。隊長、号令を」
「……お~いみんな、辛い遠征になりそうだけど、頑張ろうな」
一斉に頷くメンバー。
その中でただ一人セリアの頷きだけが、周囲との温度差が激しいように見えたのは、きっと俺だけじゃない。
この遠征で、俺とは違う意味でのリクェム苦手症候群が仲間に大量感染したが、
セリア本人だけはその原因が最後までわからず、増えた患者に終始困り果てていただけだった。
勿論、その原因をわざわざ親切に指摘する命知らずがスピリット隊には誰もいなかったからだ。俺を含め。


後日、このカロリ○メイトは目出度くラキオス軍の正式携帯食に採用されましたとさ。どっとはらい。